奮い立つ「警備関連株」、G7+万博で勇躍のゴールデンタイム近づく <株探トップ特集>
―安倍元首相銃撃で一気に関心高まる、ビッグイベント相次ぎ民間警備の底力発揮へ―
「警備」関連株に注目が集まっている。7月8日に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件を受けて、警備体制の不備も指摘されるなか株式市場でも投資家の関心が高まった。警備体制の強化が求められる状況だが、来年5月には主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)が広島市で、また2025年には大阪・関西万博が開催されることも警備関連株に視線を向かわせる。もちろん警備活動は警察が主体となるが、19年に行われた大阪でのG20や昨年の東京五輪をみても民間警備の役割は大きい。活躍の大舞台が控えるなか、 「警備」関連株の動向を探った。
●警備・警護体制強化は待ったなし
安倍元首相が凶弾に倒れたことで、来年5月(19~21日)に広島市で開催されるG7サミットでの警備体制強化が大きな課題となっている。二之湯智国家公安委員長は、7月15日の記者会見で「警察庁にG7広島サミット等警備対策推進室を設置し、銃撃事件の検証を踏まえ、全国警察の総力を挙げて警備の万全を期していく」と述べた。安倍元首相銃撃については、国内外で大きな衝撃をもって受け止められたが、株式市場でも事件が伝わった発生当日の午後には、警備関連株に一時思惑的な買いが向かった。更に、TOA <6809> [東証P]やセキュア <4264> [東証G]といった監視カメラ関連の一角にも買いが入ることになった。
9月27日には安倍元首相の国葬が行われ、海外から多くの要人がやってくる。バイデン米大統領は来日しない見通しだが、安倍元首相と親交の深かったトランプ氏の参列が取り沙汰されており、もはや警備・警護体制強化は待ったなしの状況だ。更には、プーチン大統領は出席しないものの、ウクライナ侵攻のなか仮にロシア要人の参列ともなれば、警備当局は難しい対応を迫られることになりそうだ。
●G7では業務の増加も
こうしたなか来年に開催されるG7については、もはや国家的信頼の回復がかかった日本の威信をかけたものとなりそうで、16年の伊勢志摩サミット、19年のG20に比べても大規模なものになる可能性が非常に高い。G7は、首脳会合に加え日本各地で関係閣僚会合が開催されるとみられるだけに、さまざまな側面から民間の警備会社が警備業務の一翼を担うことになる。G7について警備保障大手に聞くと「まだ、具体的に決まったことはなにもない。ただ、安倍元首相の銃撃事件を受けて、警備の強化が予想され業務の増加も考えられる。警察などとは連携を強化し、民間警備の得意分野を生かすことで警備活動に協力していきたい」と話す。
●ホンネを言えば……
また、開催まで1000日を切った 大阪・関西万博(25年4月13日~10月13日)だが、約半年という長期の開催期間も警備関連の活躍期待を助長する。大阪市此花区の人工島・夢洲(ゆめしま)を舞台に、期間中に約2820万人の来場を見込み、経済波及効果は約2兆円と試算される巨大イベントだ。万博会場を巡る警備業務では、雑踏警備、アクセス管理、施設警備、VIP警備、パビリオン警備、催事・イベント警備などに加えて、交通ターミナルなどさまざまなシーンでの業務が発生することが想定される。
前出の警備保障大手では「(大阪・関西万博やG7について)ホンネを言えば、商売としては決して“おいしい”とは言えない。ただ、国際的な重大イベントにおいて警備に関わるという意義と、社会的な信頼を得るという点において、重要な業務だと考えている」と言う。とはいえ、株式市場は思惑で動く。また、新型コロナウイルス感染拡大による影響から、規模が縮小され開催された東京五輪においても、少なからず民間警備会社の業績に寄与したことは各社の決算内容からも明らかだ。
現在のところ、警備関連株の業績については冴えないものも多く、株価も上値が重い展開が目立つ状況だが、警備業界を巡るビッグイベントが控えるなか、中長期の視点に立てば思惑買いも含め今後の株価動向には期待感が募る。また、新型コロナの急激な感染再拡大は懸念材料といえるものの、政府が経済正常化に舵を切り徐々に日常が戻るなか業績にも明るさが見えてくることが予想される。
●やっぱりALSOK、セコムに活躍期待
ALSOK <2331> [東証P]は前週末29日の午後2時ごろに第1四半期連結決算を発表。前年のオリンピック関連売り上げの反動減で主力のセキュリティー事業や綜合管理・防災事業が落ち込んだことで、売上高は前年同期比2.6%減の1140億800万円、営業利益が同26.4%減の71億8200万円と減収減益で着地。これを受けて同日には株価は終値で7.12%安と急落。きょうも下値を探るが、話題豊富な国際的イベントが今後続くことから、押し目買いに妙味も。なお、23年3月期通期業績予想は、売上高5100億円(前期比4.3%増)、営業利益453億円(同5.7%増)の従来見通しを据え置いている。
セコム <9735> [東証P]の22年3月期の連結営業利益は、前の期比4.8%増の1434億9900万円に伸びたものの、続く23年3月期の営業利益は前期比6.6%減の1340億円となる見通し。ただ、株価は6月17日に直近安値となる7917円をつけたあとは上値指向を鮮明にしており、現在は9000円を挟みもみ合う展開にある。9日には、23年3月期第1四半期決算発表を控えており、その内容に注目が集まっている。同社は、大阪・関西万博におけるテーマ事業「シグネチャーパビリオン」協賛企業であることも注目ポイントだ。
●大阪・関西万博、「地元」には思惑も
25年の開催を控え、ここにきて徐々に関心も高まり始めた万博だが、やはり地元・関西を地盤とする東洋テック <9686> [東証S]に、いずれ視線が向けられる場面もありそうだ。同社の23年3月期通期は連結営業利益で前期比6.0%増の9億円を計画。7月28日に発表した第1四半期の営業損益は4000万円の赤字(前年同期は1億9800万円の黒字)で着地。商い薄にも留意したいが、地元開催の万博を控えているだけに注目は怠れない。また、医療・保健・福祉・介護・サービスの5分野で展開する医療・介護の大手シップヘルスケアホールディングス <3360> [東証P]にも妙味がありそう。実は大阪地盤で警備などを手掛ける日本パナユーズを子会社に擁しており、警備関連の一角としても注目したい存在だ。株価は4月に2000円割れで年初来安値を更新した後は、一貫して上値指向。現在は2600円手前に位置するが、年初につけた2717円高値奪回からの活躍期待も。
そのほかでは、警備大手のセントラル警備保障 <9740> [東証P]、東北地盤でセコムと提携するトスネット <4754> [東証S]、総合ビル管理会社で警備も手掛けるアール・エス・シー <4664> [東証S]の動向にも目を配っておきたい。なお、RSCは6月22日から、セコムのセキュリティーロボット「cocobo」の提供を受け、警備業務を受託している大型複合施設「サンシャインシティ」(東京都豊島区)でサービスを開始。セコム以外の警備会社によるcocoboを活用した警備提供は初となり注目を集めている。
●フルキャスト、エルテス、アウトソシンにも妙味
前述のシップHDのように他事業を本業とし、警備事業も展開する企業は少なくない。人材サービス企業などを傘下に持つフルキャストホールディングス <4848> [東証P]も、常駐・雑踏警備及び交通誘導といった警備事業などを展開するフルキャストアドバンスを擁している。警備・その他事業は、臨時警備案件及び常駐警備案件の新規獲得数が伸び悩んでいるものの、経済正常化が進むなか回復期待も高まる。同社の22年12月期は営業利益段階で前期比5.4%増の80億円を計画している。株価は7月14日につけた直近安値2187円から切り返し、現在は2400円台をにらむ。
ネットリスク回避のビッグデータ解析・ソリューションを手掛けるエルテス <3967> [東証G]は3月10日、警備事業子会社のAIKが北海道(札幌)地盤の警備会社ISAとSSSの完全子会社化を発表。両社は北海道の警備業界において高い競争力を有しており、これによりグループ内における警備業務従事者の数は大幅に拡大したという。札幌市は30年の冬季五輪招致を目指しているが、仮に開催が決定すればこれも思惑材料として株価を刺激する可能性もありそうだ。「デジタルとリアルが融合する新たな警備事業」に取り組むエルテスだが、4月にはAIKが東洋テックからの出資を受け入れたことを発表、これにより警備事業の成長加速を図る方針だ。5月には、メタバースを活用したスマートシティー実現に向けて「メタシティ構想」を発表。注目されるメタバース分野にも攻勢をかける。
また、工場製造ラインへの人材派遣・請負が主体のアウトソーシング <2427> [東証P]は昨年10月、交通誘導警備請負業務や雑踏警備請負業務を展開するアーク警備システム(東京都渋谷区)及びアークミライズ(東京都千代田区)の全株式を取得し子会社化した。これら2社をグループに加えることで、国内警備請負事業のより一層の事業発展を図る。加えて、サービス系事業の業容拡大による業種分散を通じた業績平準化を図るのが狙い。株価は、6月中旬につけた年初来安値973円を底に切り返し上値指向。きょうは19円高の1209円で取引を終えている。
株探ニュース