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【特集】大山季之【米国株マーケット・ビュー】―「生成AI相場」で押さえておきたい3つのリスクと1つの投資戦略 <AIの衝撃②>

大山季之(松井証券マーケットアナリスト)
驚愕のエヌビディア決算以降、完全に上昇気流に乗った米国株市場。年初まで囁かれていたいくつかのネガティブ材料は隅に追いやられ、主要指数は高値更新の青空圏を飛翔、マーケットはいまや"伝家の宝刀"と化した「AI」に関する次の好材料を、手ぐすねを引いて待つ状況となっている。何がこの変化を生んだのか。今後、どのような投資戦略をとるべきなのか。米国マーケットアナリストが2回にわたって解説する。今回は今後の米国株マーケットの動向と、意外な急上昇セクター、そしてとっておきの投資戦略を伝える。

◆世界が注目するエヌビディア・カンファレンス
 
 2023年12月期と24年1月期決算を経て、新たな投資サイクルの時代に突入した感のある米国株市場。では今後、投資をするにあたって、どのような点に注目すればよいのだろうか。
 
 まずは、3月18日から21日にかけてエヌビディアが開催するAIカンファレンス「GTC」に世界中の投資家の視線が集まっている。同社はすでに、AI用GPUの今後のロードマップを作成し、現行のチップ「H100」を増強した「H200」を24年中に、上位機種の「B100」、さらにその上位の「X100」と呼ばれるチップを25年中に市場に投入する、と発表している。19日に行われるフアンCEOの講演では、これらがより具体的に発表されると見られ、その内容次第では、株価がさらに大きく動くこともあるかもしれない。
 
 マクロの視点では、3つのリスクに注意が必要だ。一つはこの数カ月、一部の銘柄に資金が集中し、株価が急上昇したことによる大口投資家などのリバランス売りのリスク。日経平均株価ほどではないが、フィラデルフィア半導体株価指数(SOX)は年初来、10%を超える上昇率になっていて、3月末に向けてのポートフォリオ調整で、AI関連銘柄が売られることも予想される。
 
 また、アメリカ国内の政治リスクも忘れてはならない。予想通り「スーパーチューズデー」でトランプが大勝し、一般教書演説では、共和党の反対意見を抑えて、バイデン大統領がウクライナの支援を訴えた。秋の大統領選を控え、激しさを増す民主、共和両党の対立構図の中で、3月22日に期限が延期された「つなぎ予算」が果たして無事、成立するのかどうか。毎度のことかもしれないが、万が一、予算不成立となれば、政府機関の一時閉鎖も考えられ、少なくないクレジット(信用)リスクが顕在化する。
 
 そして、もちろんFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策の行方も注視しなければならない。年初にマーケットが想定した年6回の利下げ観測は後退し、年央以降の3回利下げ、というセンが既定路線になってきた。だが、先月発表された各指標では、雇用統計や消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)などが市場予測を上振れた一方、小売売上高は下振れるなど、現在の米国景気は方向感が掴みづらい状況になっている。
 
 FRBの思惑通り、このまま緩やかに景気が後退し、インフレが鎮静化すればマーケットが期待する"ソフトランディング"となるのだが、果たしてそううまくいくのかどうか。ここにきて、さらなる利下げの延期もささやかれるようになっていて、秋の大統領選も含めて、株式マーケットにとって波乱要因の一つであることは確かだろう。
 
◆AI以外の有望銘柄は、この7銘柄ととっておきのインデックス・ファンド

 いまや 生成AIの話題が大半を占めるようになった米国株市場だが、それ以外に注目すべきセクターはあるのだろうか。私が挙げたいのは、ラグジュアリー・ブランドだ。懸念されたような景気の後退が起こらず、株価も上がっているということで、富裕層向けのビジネスを展開する企業が業績、株価とも好調なのだ。フェラーリ<RACE>、ビザ<V>、ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス<HLT>、マリオット・インターナショナル<MAR>などだ。

 特に注目したいのは、高級百貨店のメーシーズ<M>だ。先日発表された24年2月期決算では減収減益となり、株価も急落したが、その後、同社は約500の店舗のうち150店舗を閉鎖し、集約した350店舗をさらに高級路線の店舗へとアップグレードしていくと発表した。いまのラグジュアリー・マーケットの勢いを見る限り、同社の事業転換は理にかなっているし、株価が調整しているいまは、買い時と言えるのではないか。

 AI関連に一括で投資したいということであれば、「グローバルX・AI&ビッグデータETF」<AIQ>、「グローバルXロボット&AI ETF」<BOTZ>の2つのETFを勧めたい。いまの米国株市場は、生成AI関連のスター銘柄候補が次々に現れる状況になっているが、こうした流れをすべて押さえようと考えたら、個別銘柄への投資では無理がある。その点、代表的なハイテクETFであるこの両銘柄なら、それらを広範に押さえることができる。

 もう一つ、個人的に敢えて挙げたい投資信託商品がある。大和アセット・マネジメントが運用している「iFreeNEXT FANG+インデックス」というインデックス・ファンドだ。これは、その時々で最も有望なハイテク銘柄だけを組み込んだファンドで、マグニフィセント・セブンの7社に加え、通信半導体大手のブロードコム<AVGO>、クラウド・サービスのスノーフレイク<SNOW>、動画配信サービスのネットフリックス<NFLX>を加えた、今を時めくハイテク10社で構成される「NYSE FANG+指数」構成銘柄に投資をすることができる。

 素晴らしいと思うのは、3カ月に1回、ポートフォリオが均等になるようにきちんとリバランスを行い、定期的に銘柄も入れ替えていることだ。常に最も旬なハイテク銘柄を揃え、それらに均等投資する、という考え方で、簡単に言ってしまえば、特定の銘柄の「株価が上がったら売り、下がったら買う」という"逆張り"の発想で運用されている。
 
 これなら先ほど記した大口投資家のリバランスによる株価下落リスクも避けられるし、本当に良く考えられた投資戦略だと思う。実際、基準価額は昨年1年間で2倍になり、5年間なら5倍になっている。運用状況を見ているだけで、ハイテク銘柄への中長期的投資の勉強になる、とさえ思えるファンドなのだ。


▼大山季之【米国株マーケット・ビュー】<AIの衝撃①>はこちら↓
新たな投資サイクルのはじまり、ビック・テックは「ファンタスティック・フォー」の時代へ


【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

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