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【特集】山岡和雅が年後半の為替相場を読む <GW特集>

山岡和雅(MINKABU PRESS 外国為替担当編集長)

「20年ぶり円安の行方、転機はいつか?」

●歴史的な円安をもたらした日米金融政策の乖離

 2022年の外国為替市場でドル円は、2002年以来約20年ぶりの水準までドル高・円安が進みました。年初から3月の初めまでは、米国の物価高を受けて若干ドル高・円安傾向が見られたものの、比較的落ち着いた値動きとなっていました。しかし、その後一気にドル買い・円売りの動きが加速。3月4日に付けた114円60銭台から4月20日には129円40銭台まで、1カ月半ほどで15円近い急騰を見せました。4月に入ってからだけを見ても、月初めの121円20銭台から20日ほどで8円強の上昇となっており、ドル高・円安の勢いを感じさせる動きとなりました。

 ゴールデンウイーク(GW)以降の為替相場を読むためには、この一気に進んだドル高・円安の要因を認識し、今後の変化を予想する必要があります。

 まずは、このところのドル高・円安の要因をチェックしてみましょう。

 ドル高・円安の最大の要因は、日米の対照的ともいえる金融政策に対する姿勢です。ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受けてエネルギー価格が高騰したこともあり、ここにきて世界的に物価高の動きが深刻化。米国では3月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比8.5%上昇と、1981年12月以来約40年ぶりの高い伸び率を記録しました。こうした状況を受けて米FRB(連邦準備制度理事会)は3月のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利であるFFレート誘導目標レンジを0.25%引き上げ、2020年3月から続いてきた事実上のゼロ金利政策を解除。さらに5月のFOMCでは0.5%の大幅利上げがほぼ確実視され、その後も大幅利上げの継続が見込まれる状況となっています。

 一方、日本の3月の消費者物価指数は前年同月比1.2%上昇、生鮮食料品を除くコアの前年同月比は0.8%上昇にとどまっています。コア前年同月比の0.8%上昇は2020年1月以来の高水準ですが、インフレターゲットである2%を依然大きく下回っています。こうした状況を受けて日銀は従来からの緩和姿勢を維持する姿勢を示しており、黒田日銀総裁は「必要があれば躊躇なく追加緩和」との発言を何度も繰り返しています。

 片や金利がどんどん上がり、片や非常に低い金利状況が続く。投資資金が日本から米国に移動するのも仕方がないといったところです。

●為替相場は米利上げ期待の強まりをほぼ織り込んだ

 ただ、こうした動きが今後どこまでも続くのかというと、さすがにそれは厳しいと思われます。5月以降、米国が積極的に利上げを行う中で、日米の金利差は拡大していきます。ただ、相場は金利差が拡大した時に動くのでなく、先々の見通しで動きます。金利差が今後拡大していくことはほぼ確実なことであり、すでに相場は拡大を織り込んでいます。あとはどの程度のペースでどこまで金利差が広がっていくかです。

 もともと米国の物価は2月頃にピークアウトすると期待されており、その後は高い水準での推移が続くも、徐々に落ち着くと予想されていました。2月後半に起きたロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてエネルギー価格がもう一段の上昇をみせ、食料品価格などにも影響が出たことで、物価高が継続する形となりました。5月の大幅利上げ見通し自体はもともとありましたが、その後も大幅利上げが続くという見方が広がるなど、市場の見通しに大きな変化が生じたことが3月以降の大幅なドル高・円安につながりました。

 3月のFOMCで示されたFOMCメンバーによる年末時点での政策金利見通しは1.75%-2.00%。昨年12月の0.75%-1.00%から1%の上昇となっていました。その後も物価高が進む中、4月後半時点で金利先物市場動向から見た年末時点での金利見通しは2.75%-3.00%が中央値となっており、市場の利上げ期待が強まっていることが分かります。年内あと6回あるFOMCのうち4回で0.5%の大幅利上げを行うと予想水準に届きます。一方、その間、日銀は緩和政策を維持、状況次第では緩和強化と打ち出しているのですから、ドル買い・円売りが進もうというものです。

 もっとも、2002年以来となる129円台までのドル高・円安の進行で、相場はこうした見通しの変化をほぼ織り込んだと期待されます。

●ドル円のピークは夏頃、中間選挙後にドル売り・円買いが本格化か

 今後について、例えば年内すべてのFOMCで0.5%の利上げを行うという見通しが強まるといった具合に、利上げ期待がさらに強まれば、ドル買いの動きも強まると期待されます。ただ、状況的にはどちらかというと期待が後退する流れです。クリーブランド連銀が公表している4月の米消費者物価指数の見通しは4月27日時点で前年比8.14%。市場の見通しも大体はそのぐらいで、3月時点よりも伸びが鈍化するという見通しが広がっています。ようやくの米物価のピークアウト期待です。

 現在の市場の利上げ見通しはさすがに期待先行ではという見方がある中、物価のピークアウトが確認されると、利上げ期待も少し落ち着いてくると見る方が自然です。実際の金利差がかなり大きくなることで、今後も円からドルへの資金移動がある程度生じるとは思いますが、3月から4月にかけてのような急激なドル高・円安の進行は抑えられるとみられます。

 それどころか、今後についてはドル売りの動きが広がる可能性もあります。

 新型コロナの感染がここにきてさらに広がりをみせている、中国でのロックダウン拡大懸念をきっかけとした世界的な景気減速見通しがその理由です。

 中国のロックダウンにより、米国や日本などでサプライチェーン問題はさらに深刻化することが見込まれます。米国では堅調な雇用情勢もあり、購買意欲がかなり強まっていますが、物がなければ売りようがありません。

 米個人消費の鈍化は、物価高での景気鈍化、いわゆるスタグフレーションへの警戒感につながります。スタグフレーションの状況は通貨にとって大きな売り材料となるため、ドル高に対する調整が入る可能性があります。

 また、中国の景気鈍化によって、原油や石炭といったエネルギー、鉄鉱石や銅など鉱物資源の価格低下が起き、資源国・新興国通貨にも売りが出ると予想されます。こちらは円買いの材料として作用します。

 とはいえ、短期的にはまだ上方向の勢いが残っています。ドル円は130円を超えて133-135円程度までの上昇を見せる可能性が十分にあります。ただ、比較的早い段階、おそらく夏前にはピークを迎えると見ています。

 その後は一気にドル売り・円買いに進むと言いたいところですが、11月に控える米中間選挙を前に、米政府は強いドルを望む姿勢を崩すとは思えません。中間選挙までは一進一退の動きとなる可能性が高そうです。

 中間選挙後はドル売り・円買いの本格化を期待しています。20年ぶりの円安水準を付けたものの、1年を通せば年初よりも円高で終わったな、という展開も十分にあると考えています。

2022年4月27日 記

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