市場ニュース

戻る
 

【市況】「武者陵司×南川明 2018年を読む!(Q&Aセッション 前編)」

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

―マクロとミクロ・技術邂逅の年、日経平均4万円への道―

2017年11月27日に開催された武者陵司氏・南川明氏のコラボセミナー「2018年を読む ~ マクロとミクロ・技術邂逅の年」における「Q&Aセッション」の内容をご紹介します。


●半導体スーパーサイクルの真実

Q) 半導体がスーパーサイクルに入ったという見方もあり、メモリ需要は急拡大するとの見方が支配的です。今後、メモリの伸びはどのように増加すると思われますか。また、今後の半導体関連業界の見通しを教えてください。

南川氏:昔はシリコンサイクルと呼んでおり、半導体市場は4年に一回アップ・アンド・ダウンと波打ちながら緩やかに上がっていったのが過去20年以上続きました。景気がいい時に大投資をし、キャパがつき、ものがいっぱい出てきて需要と供給のバランスが崩れ、半導体価格が1年で半分、メモリが3分の1になる時代がありました。スーパーサイクルというのは、それとは少し異なり、今までのアップ・アンド・ダウンの続きではなく、次のステージに一段とジャンプし、そこから半導体市場が景気よく上昇していくことです。

 それが起こるかは少し懐疑的です。スーパーサイクルというのはこれからIoTでビッグデータの収集・分析等が進むことを根拠にしていますが、計算したところ、IoTでビッグデータを収集・分析しサーバーやストーレジが増えたとしても、半導体メモリ、ビット成長率は年率50%から70%です。過去の全盛期は80%くらいで成長していました。成長し続けますが、スーパーサイクル、異次元に入るというのは言い過ぎだと思います。

 メモリの技術はまだ進歩しますが、データの圧縮技術も発達しています。パソコンのデータ、画像、動画などを全部ストレージする必要がなくなります。つまり、メモリの容量は思ったほど必要なくなります。通信されるデータ容量は爆発的に増加してもストレージしなければならないデータ容量は1/4から1/5程度です。最も良い例はYoutubeの画像です。何百万人が同じ動画を再生してもストレージされている動画は一つです。通信されているデータ量とは違うことを理解する必要があります。頻繁に読み書きしないデータはHDDやテープのストレージに保存されますので半導体需要を押上げることにはつながりません。

●再び半導体の「谷」はくるのか

武者:それにしても最近の中国からの注文のレベルが凄いのですが、状況を水戸証券のハイテクアナリスト若林さんが来られているので伺います。

若林氏:中国市場の投資の恩恵を受けているのは液晶、半導体製造装置メーカーで、空前の受注・売上を計上していますが、意外に日立製作所 <6501> 、ソニー <6758> 、部品メーカーのアルプス <6770> 、日東電工 <6988> など直近の上期決算で通期の上方修正が顕著でした。構造改革の影響もありますが、中国の受注が全体に浸透してきている印象を受けました。

武者:南川さん、長期的には半導体メモリの需要循環は変わらないということですが、短期的に半導体関連の需要が急激に高まっているということは、大きな「山」の後は大きな「谷」ができる可能性があるということでしょうか。

南川氏:そうですね、あまりにも需要が強すぎます。この2、3年、携帯電話の新しいモデルがでる度、容量が上がっています。それに加えてサーバーのSSD、半導体で作ったシリコンのストレージディスクが今までのハードディスクを置き換えました。同時に進んだので需要が急増しました。長江ストレージ(旧XMC)など中国企業は今までないほどの大投資をしていますし、国策として半導体を育成しようとしています。したがって、需要と供給のバランスがいずれは崩れ、3、4年後には大きな谷がくると思います。

●復活する「ハードウェアで稼げる時代」

Q) IoTやモビリティの時代の趨勢の中で、日本企業が持つ微細加工や“デジタル×アナログ”の融合などによる、センサーや部品の優位性が強みになると思っております。しかしながら、強みであるフロントのセンサー、部品が組み込まれていくシステムやプラットフォーム(例えばGoogle、Amazon)、ビジネスモデル(ドイツのインダストリー4.0)等、上位領域に主導権が渡っていかないか、総合力(資本の力、中国等)で負けないか、といった懸念もあります。その観点で、日本企業がフロントの強みを生かし、どう領域を広げていくと思われますか。

南川氏:現在、世界の時価総額で見たトップ10はほとんどアメリカのプラットフォーマーです。確かにプラットフォーマーやアプリケーションを作った企業に利益が集中しています。そして、ハードディスクを作っている企業はあまり儲からないというのが現状です。しかし、これからはハードウェアの土俵が変わります。

 今までテレビ、パソコン、スマートフォンのハードウェアはみんなが同じものを競争して作り、その価値が下がり、収益は減りました。これからIoTの世界になれば、今のパソコンの中身など同じものを作っていくのではなく、少量多品種にものを作っていくことになります。センサーでもいろいろあり、温度、圧力、加速度、角度、湿度などを測るものと、それぞれの組み合わせも必要になります。再びハードウェアで稼ぐことができる時代になるでしょう。

 しかし、少量多品種のものを作り続けても、スマホの機能のようにまた統合していき、また儲からない時代もきてしまいますが、それはまだ10年、15年先の話です。そこで、日本は電子部品の融合やアクチュエータ、モーターの融合など、他の国にはできないことを作っていくと思います。

●国際分業における日本の優位性

武者:グローバルで日本産業の強みをどう感じますか?

若林氏:自動運転を含めてIoTやスマートシティを考えていく上で、半導体はもちろん重要ですが、エレクトロニクスメーカーにとどまらず、自動車メーカーやシステムを運用する富士通 <6702> やNTTデータ <9613> など多くの産業、企業が必要です。日本はGoogleやAmazonのような企業を生み出せなかった半面、昔から幅広く大きな産業を持ち続けています。やり方次第でまた日本は脚光を浴びることができると思います。

武者:半導体の基盤技術、周辺技術、デジタル中枢も含む全ての技術要素を持っているのは日本しかないと思います。極めて優れた製造業のシナジーが発揮される国です。一つの技術ではなく、さまざまな技術の組み合わせ、すり合わせによりカスタマーが満足するソリューションを提供することが大事です。

南川氏:本来はそうですが、それができていないのはさまざまな経営問題や企業文化の問題が邪魔をして進んでいないのが現実です。

武者:日本はあらゆる技術を持っていますが、全部言わば下請けというポジションにあります。メインプレイヤーの下請けですが、さまざまな最終ユーザーと接点があります。ユーザーニーズをキャッチできるというメリットがあります。それが日本のリーディングエッジを支えている要素だと思います。技術をどう開発していくかの羅針盤は顧客の望みを知り、どこにブレークスルーがあるかを探すことです。サムソン、アップル、ファーウェイ、レノボは自分で考えるだけですが、日本のサプライヤーは多数の顧客アンテナからユーザーが認識していないニーズさえ感知できます。そうした日本の国際分業の中でのポジションは新しい技術を見出す上では有利だと思います。

Q) この先、AIでプログラマーやシステムエンジニアの仕事は変わっていくのでしょうか。システムエンジニアの不足はそれによって解消されるのでしょうか。

南川氏:AIがプログラミングを全部作っていく時代はくると思います。今のプログラマーが行っているのはどういう命令をしたらどう処理されるかが分かっているプログラミングです。そして、試行錯誤しながら書き換えていきます。しかし、AIは予測できない範疇までプログラミングをできるようになります。しかし、全てのプロセッサが人工知能のチップになるまでは相当な時間がかかると思います。開発コストがかかるのと、人間の脳と同じレベルになるには半導体の技術がまだ備わっていません。材料、製造装置なども今のレベルでは十分でありません。

●景気のピークアウトはいつくる?

Q) 日本ならびにアメリカ、世界の好景気はいつ頃まで続きそうですか? 日本のオリンピック後の景気はどうなりますか? 中国経済と政治の問題点を教えてください。

武者:結論から言いますと、当分は好景気が続くと思います。オリンピック後も小さな景気後退の波があってもあまり心配はないでしょう。中国は大きな要素です。いずれくる深刻な危機に向かって進んでいると思うからです。GDPに対する消費は4割弱しかなく、したがって、6割近くは投資で成長しています。中国は成長が止まると、直ちに不良債権問題が深刻化し、バブル崩壊を伴う金融危機に陥り、その先には通貨危機が起こると思います。こうした破局を回避するために中国は成長を続けなければならず、そのためには投資を続けなければなりません。

 しかし、公共投資、住宅投資、インフラ投資、設備投資と、どれも大きな過剰を抱えるに至り、投資の受け皿が見出し難くなってきました。中国が過去3年間で消費したセメントの消費量は、アメリカの過去100年間に使った規模と同じといわれるほどです。

 自転車を漕ぎ続けなければいけない中国にとって、ハイテク投資はダブルメリットのある分野です。投資需要を作り出すのみならず、世界の最先端ハイテク分野でのシェア獲得の可能性が強まるからです。ハイテクは最後まで投資を続けたプレイヤーが勝つ、典型的な収穫逓増の分野です。投資を続けることで量産メリットによりコスト引き下げが可能になり、価格競争に勝てるのです。中国の場合は国営企業が国の資本を無尽蔵に投入できるので、収穫逓増が働くハイテク分野において勝てるチャンスは十分にあります。

 短期的には中国のハイテク爆投資は世界経済には好都合ですが、鉄鋼業界でも見られたように中国がどんどんシェアを奪ってしまったら、いずれ価格競争の激化によって中国以外のハイテク企業は危うくなる可能性があります。

●海外投資家の目に日本はどう映る?

Q) 世界経済の拡大はどのあたりでピークアウトしますか。エジンバラで日本株ファンドを運用されているハーディ・智砂子さんがいらっしゃっているので、海外投資家がどう考えているか伺います。

ハーディ氏: 私はAXA Investment Managementの日本株ファンド・マネージャーです。20数年にわたって日本株ファンドを運営していますが、5年ほど前までは日本株に全く興味を持ってもらえなかったのです。私自身は7、8年前から日本株に強気になりました。なぜかと申しますと、日本企業のメンタリティがガラッと変わったからです。

 ほぼ毎日、日本企業の経営者と話す機会があります。かつては製品の価格が安くなったなど、価格競争の話でした。ある時点から、どの業種の経営者からも、「差別化」という話が顕著に増えました。利益がある製品でも差別化ができていないため続けないといった話も聞きました。もう一つのキーワードはここ2、3年の「生産性の向上」です。セクターに限らず、その背景には技術の進歩があると思います。

 日本企業の位置づけは非常に良いと思います。私のファンドは長期成長ということで小型株が中心ですが、本日のセミナーで分かったことは、既に時価総額が大きくなった企業でもここから2倍、3倍になっていく企業があるということです。

 多くのヨーロッパの投資家はまだ日本が変わったことを知りません。マクロの数字をトップダウンで見ているだけでは分からないことがたくさんあり、バブル崩壊後30年に近づき、やっと少し変わったとしか思っていません。過去最高益の企業が続出していると伝えると驚きます。営業活動が4年前から活発になりましたが、去年今年で毎日笑ってしまうほどお金が入ってきます。まだまだこれからだと思います。2018年にピークアウトという意見もありますが、やっと日本株に振り向き始めたところであり、買い余力はまだあると思います。

●AI・量子コンピューター、日本の競争力は?

Q) IoTにおける日本の電子部品の優位性が語られてきましたが、もっとコアなAIでは日本は出遅れていると言われています。グローバルな尺度ではいかがでしょうか。

南川氏: 確かにAIだけを見ると、日本は国として企業として開発の投資金額がアメリカの100分の1、2ケタ違いの金額です。日本は相当なひらめき、アイディアがないとこの分野ではかないません。しかし、AIチップは一つのパーツであり、その組み合わせとしての電子部品、モーター、半導体、それらを構成する材料などで儲けるチャンスは十分あると思います。AIだけが全てではないと考えます。

Q) 量子コンピュータが最近注目されていますが、実現はいつ頃になると思われますか。量子コンピュータに関する日本の実力はどのくらいのものでしょうか。

南川氏:量子コンピュータもAIのチップと競合する分野になってくると思います。現に世の中に量子コンピュータは出てきていて、日本は悪くないポジションにいると思います。海外の研究機関や企業、政府と比べ、日本は劣らないリソースや資金があります。ものは実際できていますが、広がるのはまだ5年ほど先です。アメリカ勢のAIと真っ向から勝負するようになるかもしれません。

※「武者陵司×南川明 2018年を読む!(Q&Aセッション 後編)」に続く


・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(南川氏講演)」
  前編はこちら
  後編はこちら

・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演)」
  前編はこちら
  後編はこちら


【回答者紹介】
■南川 明
IHSグローバル株式会社 IHS Technology 調査部ディレクタ。

■若林 惠太 氏
新日本証券(現 みずほ証券)を経て、2000年から水戸証券において企業調査アナリスト。電機、精密、運輸、IT、通信、電力・ガスセクター担当。

■ハーディ 智砂子 氏
スコットランドの資産運用会社や生命保険会社でアナリストや資産運用のマネジャーを歴任。2006年よりアクサ・インベストメント・マネジャーにてファンド・マネージャー。

(2018年1月11日記 武者リサーチ「投資ストラテジーの焦点 303号」を編集・転載)

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均