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【市況】武者陵司 「トランプ政権下の日本株投資戦略、壮大な上昇相場の始まりに(5)」

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

※(4)からの続き。

【12】金融行政もリスクテイク促進に転換

小祝(丸三証券 社長):日本の金融行政の変化についてお伺いします。金融庁の森長官は「規制に頼れば頼るほど、歪みや非効率も大きくなる」と指摘して、リスク抑制からリスクテイク促進へと大きく舵を切っているように見えます。先生はこのような金融行政の転換についてどうお考えでしょうか。

武者:日本の金融庁の政策転換ははっきりしています。森長官が言っているのは、金融、特に銀行のビジネスモデルは、死んでいくビジネスモデルですからそれを作り替えなければならない、ということだと思います。

 以前の金融行政は、おっしゃられたように銀行がリスクをとることを抑制して、問題を起こさないことを重視していました。しかし、そうしているうちに金融には付加価値がなくなってしまったのです。長短金利差を利用して利ざやを稼ぐようなビジネスも日銀の超金融緩和でなくなってしまいました。今では大した付加価値も創造してないのに不当に高い手数料の商品を売って儲けようとしているということです。

 では、銀行はどうやって付加価値を創造すればよいのかということですが、リスクをとって新たなお客様に融資をする、融資先で新たな価値が生まれるような信用創造をしなければならないということです。新たな貸し出しが増える環境になれば、当然日本経済にはプラスになるでしょう。

【13】超金融緩和は正しい、イールドカーブ・コントロールでデフレ脱却へ

小祝:安倍首相によるアベノミクスは、失業率の低下や株価の上昇といった効果を生み出しました。一方で、脱デフレの観点から見れば2%のインフレ目標は未だ達成されていませんし、成長戦略も成果に乏しいとの見方が多いようです。足もとの景気も本格拡大とは言いがたい状況だと思います。先生はアベノミクスについて、どのように評価されていますか。

武者:アベノミクスのなかでも、特に日銀による超金融緩和についてはデフレ脱却に向けた取り組みとして、全面的に評価しています。まず、長期国債の金利をゼロに固定するイールドカーブ・コントロールについてですが、批判が多いのは当然と言えば当然です。今まで、市場で決められる長期金利を操作することはできないし、やってはいけないというのが教科書に書かれていることですから。しかし、教科書にダメだと書かれているからダメというのは子供じみた批判で、日銀は批判されるだろうことは百も承知で始めた政策でしょうし、なぜ、日銀がそれを正しい政策だと思って始めたのかを理解することが重要です。私はこの政策は日本にとって正しい政策だと思っています。

 順を追って説明しますと、イールドカーブ・コントロールというのは長期金利を日銀がゼロに固定してしまうのですから、金融緩和としてこれ以上強いものはないのです。ですから焦点は、それが本当にできるのかどうかだと思います。

 私はこれは、5年前はできない政策でしたが、今ならできると確信をもっています。なぜかといえば、5年前の日銀の総資産は100兆円しかありませんでしたが、今や477兆円にまで拡大しているからです。長期国債の価格をコントロールするのに十分な資産があるということです。

 では、イールドカーブ・コントロールによって本当にデフレ脱却が可能なのかということですが、可能だと考えます。なぜかといえば、長期金利をゼロに固定するというのは、その間、リスクテイカーが報われる環境が維持されることになるからです。これによって、リスクをとろうとするアニマルスピリットが喚起されるのです。

 アベノミクスまでの日本経済は、経済の実勢である名目GDPよりも、そのコストである長期金利のほうが高い状況が続いていました。つまり、リスクテイカーのパフォーマンスは長期金利に負けていて、ずっと裏切られ続けてきたということです。しかし、アベノミクス以降は、この関係が明確に逆転しています。

 そして、今回の日銀によるイールドカーブ・コントロールによって、長期金利は今後もゼロに固定されることになっています。これにより、リスクテイカーが報われる環境が続くため、まず、株式・不動産など資産価格の上昇が始まり、次いでインフレ率も上昇し始めるでしょう。インフレを起こすためには、その前に資産価格の上昇が必要なのです。

 円安基調の継続、非常に良好な企業収益、歪(いびつ)な日本の金融資産配分の是正、そして日銀のイールドカーブ・コントロール政策、これらによって日本株の水準訂正は必至だというのが私の考えです。

小祝:日本経済の中長期的な課題のひとつとして、少子高齢化、人口減少がこれからますます進んでいくことが挙げられます。これにより、デフレも進み、経済成長は難しいという見方が多いと思います。加えて、日本の巨額の政府債務も今後のリスク要因として挙げられています。先生はこれらの課題についてどのようにお考えでしょうか。

武者:少子高齢化によってデフレになったというような議論は論理的というよりは非常に情緒的な話です。むしろ、デフレによって少子高齢化が加速されたという側面が強いのではないでしょうか。いずれにしても、日本の人口減少は確定していますから、それがこれからどういった影響を経済に及ぼすかということですが、ひとつには需要が減少する要因になるということです。ただし、需要というのは人口×国民一人ひとりの生活水準に外需を加えて決まるのですから、生活水準を高めることや輸出をもっと伸ばすことによって十分カバーできるのです。

 ですから、人口減少は問題ですが、それ以上に日本人の生活水準が20年間向上していないことの方が問題なのです。我々日本人はもっと贅沢をすべきだと思います。日本人の欲望レベルが低いのは住宅環境やライフスタイルの貧しさを海外と比べれば明らかで、改善の余地は大きいでしょう。

 もうひとつの人口減少の問題は、労働力が減少するということです。それはそのとおりですが、これこそまさしく、ロボット化・機械化を進めることで対応可能でしょう。機械化を進めれば生産性は高まり、一人当たりの所得は増えていくわけですから、労働力が減るということは悪いことばかりでもないのです。そう考えると、少子高齢化・人口減少はデフレの直接的な要因とは言えないし、これをもって、日本の将来を悲観するのは間違っていると思います。

 財政についても、多くの経済学者は債務の多寡だけで議論をしているようですが、政府は借金によって資産を取得しているのですから、資産と債務の両方を見なければ片手落ちといえるでしょう。日本の債務は世界最大といいますが、資産についても世界最大なのです。それに加えて重要なことは、日本政府の債務はほとんど日本国民から調達されているということです。つまり、日本の政府の債務が多いことは、日本の国民・企業の潤沢な貯蓄の反対側の現象に過ぎないということで、両者を切り離して議論するのは全く無意味なことです。

 その意味で、日本の政府債務は国民の過剰貯蓄と、それなりにバランスをとって成り立っているのです。ですから仮に、日本政府が財政を一気に健全化したら日本には大変なことが起こるはずです。ますますお金の行き場がなくなって、再びデフレに陥ってしまうでしょう。

 したがって、政府債務を減らすのならば、同時に国内の民間の貯蓄過剰を是正しなくてはなりません。過剰貯蓄、つまり民間の資金需要が少ないことが根本的な問題なのですから、政府債務を減らすことよりも、民間の需要を増やす施策のほうが日本経済にとって正しい処方箋なのです。

【14】ブレインパワーが猛スピードで拡大、歴史的な大転換期を迎える

小祝:最後になりますが、お話いただきました「第七大陸」とも関係しますが、AIIOT自動運転バイオテクノロジーフィンテックといった新しい技術が一斉に花開く時代を迎えていると思います。これだけ大きな技術がしかもグローバルに離陸する可能性を秘めた時代というのは過去に例を見なかったと思います。これらは我々の経済、社会にどのような影響を及ぼすとお考えでしょうか。

武者:おっしゃられるように、今の時代は人類の歴史で見ても大きな転換点を迎えていると思います。それはまさしく新しいテクノロジーで、バイオにしてもAIにしても全てそうなのですけれども、私はその中でも決定的に大きなポイントは、人間の脳=ブレインパワーが猛スピードで拡大する時代に入ったということだと思います。例えば肉体の力というのは、第2時産業革命以降、自動車、高速鉄道、飛行機などによって大きく拡張されました。数百年前までは、せいぜい1,000km四方程度だった人間の行動範囲は今や地球全体に広がりました。一方で、その間もブレインパワーにそこまで大きな変化はありませんでした。

 これからは、ブレインがとてつもなく大きな力をもつようになります。一例を挙げれば、今ではほとんどの人がスマートフォンを持っていますが、この小さなスマートフォンの中には、膨大なインターネットの情報が詰まっているのです。つまり、スマートフォンは我々の小さな頭脳の千倍万倍もの大きさの外部記憶装置になっているのです。一昔前だったら尊敬された「ものしり」は、スマートフォンに代替され、もう必要とされなくなりつつあります。「わけしり」が必要なのです。

 ブレインパワーが千倍万倍と大きくなるのですから、そこに価値を作り出す最大のチャンスがあると思っています。この分野でどういうビジネスモデルを創り出していくがが、ポイントになってくるでしょう。そして、ブレインパワーの拡大で起こることは劇的な生産性の上昇です。千人の頭脳労働者がやっていた仕事をひとりでできるようになれば、999人の頭脳労働者は職からあぶれます。言い換えれば1000人が働くためには、労働時間が1000分の1になるということです。

 そうして仕事がなくなった人、余った時間が増えれば、余暇産業が拡大することになるでしょう。ゴルフ、テニス、音楽、旅行、いろいろ考えられますが、エンターテインメント産業、あるいは人と人とが関わり合う産業、人間性を豊かにする産業がものすごい勢いで膨らむと思います。今起こっていることは、劇的な人類の発展の入り口なのですね。

小祝:これからのアベノミクス相場の第2弾に期待が膨らむ話ですね。本日は「第七大陸」ビジネスのポテンシャルの高さ、債券から株式への転換、円安ドル高が進む地政学的な背景など、新しい時代に入ってきていることが良く分かるお話をいただき、ありがとうございました。

(対談日 2016年12月26日)

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