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【経済】【フィスコ・コラム】THAAD配備に揺れる韓国ウォン


米最新鋭ミサイル防衛システム「THAAD」の在韓米軍への配備が7月に決定し、韓国の与党セヌリ党は8月30日、公式に承認しました。同システムは北朝鮮だけでなく中国やロシアの奥地のミサイル基地もカバーできるため、特に中国はこの決定を強く非難しており、中韓関係は悪化が見込まれます。中国への輸出依存度の高い韓国経済は低迷し、通貨ウォンは長期的な下落トレンドに向かうかもしれません。


親中路線だった朴槿恵政権が安全保障で米国との関係強化に比重を移したのは、今年4月13日に行われた議会選挙(4年に1度)がきっかけでした。300議席中146議席を占めていた与党セヌリ党は122議席に勢力を縮小。一方、野党は「共に民主党」が102議席から123議席、国民の党が20議席から38議席に増え、与党優勢という選挙前の予想を覆しています。与党惨敗の最大の要因は、現政権による経済政策でした。特に、全体の失業率が4%に満たないなか、15-30歳の若年層の失業率が10%前後と高水準に達し、リーマンショックと並ぶほど雇用情勢は悪化しています。


また、中国経済の減速のほか安全保障も、あえて親米路線を強めている背景と思われます。もともと韓国の野党は北朝鮮に対して同情的で、安全保障については「弱腰」との批判から選挙では伸び悩んでいた経緯があります。しかし、今年になって北朝鮮の核の脅威やTHAAD配備の必要性を訴え、保守層の支持を得たことで4月の議会選では大躍進を遂げました。「共に民主党」は従来の融和的な主張とのギャップから、現時点ではTHAAD配備について態度を保留していますが、いずれ承認するでしょう。


一方、東アジア地域で覇権を強める中国は、「朝鮮半島の平和維持」を建て前とした米国による監視だとして、韓国のTHAAD配備に苛立ちを募らせています。足元でみられる中国国内での「韓流スター」の活動制限にとどまらず、両国間の貿易縮小などの報復が見込まれます。韓国からの自動車や電気・電子製品などの輸出先は金額ベースで中国が4分の1を占め突出しています。対中輸出が先細りとなれば足元で持ち直してきた韓国経済にとっては大きな打撃となり、資本流出によるウォン安を誘発するとみられます。ウォン安は輸出には有利ですが、反面、燃料などの輸入には不利に働き、企業業績の悪化につながります。そうなれば、韓国経済の先行き不透明感からさらにウォン安が進むでしょう。


9月4-5日の中国・杭州20カ国・地域(G20)首脳会議の中で行われた習近平国家主席と朴槿恵大統領による中韓首脳会談で、習氏は韓国を「親しい隣国」と持ち上げる一方、THAAD配備に反対の姿勢を示しました。配備の正式決定後、初の首脳会談で中国側は警告を発したと受け取れます。これに対し、朴氏は両国関係を進展させる「確固とした意志がある」と応じるのが精一杯でした。韓国が日本とドルなどを融通し合う通貨スワップ協定を最近になって復活させたことは、米国シフトへの備えでもあります。

(吉池 威)

《MT》

 提供:フィスコ

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