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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「市場の潮流変化! ここで買うべき銘柄は」

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

 株価の値運びには人間の呼吸のようなリズムがあります。時に息がかなり荒くなることや息を殺すような場面にも遭遇しますが、基本的には吸って吐いての繰り返しであって、仮に行き過ぎても呼吸を整えるがごとく理にかなった位置に収斂(しゅうれん)しようという動きが出てきます。日経平均1万6000円台半ばはちょうどその呼吸を整えたレベルという印象を受けます。東京株式市場は気迷いムードのなかで上下に方向感が定まらない状況ですが、これは今期予想されるPERが見極めきれないことが背景にあると考えています。それでも前期基準でPER15倍台の1万6000~1万7000円のボックスゾーンが合理的な居場所であるという暗黙のコンセンサスが、相場の下値を売りにくくしているようです。

●トヨタショック回避が映すセンチメント

 企業の決算発表がほぼ出揃いました。日経平均株価は大型連休明けに下に振られたとはいえ、その後はバランスを立て直しました。市場で懸念されていた、企業の慎重な業績予想がもたらす株価の下振れリスク、いわゆるガイダンスリスクは限定的なものにとどまったといえそうです。トヨタ自動車 <7203> の衝撃の今期4割営業減益予想は、従来であれば「トヨタショック」と形容されるだけの負のインパクトをマーケットに与えるところでした。しかし、これを吸収して全体相場は粘り腰を発揮、円高による輸出企業への収益デメリットはある程度相場に織り込まれてきた感触があります。

 このトヨタの業績見通しに対する市場の反応は、企業全体ベースの収益に対するセンチメントの縮図ともいえ、前向きに捉えてよい材料です。17年3月期企業業績は16年3月期の好調決算から一転、久々の経常減益となる可能性もありますが、これは上値の重石にはなるものの、一段の下値を売り込む材料としては既に影響力を失っています。為替の前提レートは全体平均で1ドル=110円近辺と実勢ともそれほど離れてはいません。一方、エネルギー関連セクターの石油や総合商社などは、前期で悪い部分を出し切り回復色が鮮明、特に最終損益の黒字化や大幅改善でPERに反映される1株利益の向上が、全体相場にもポジティブに作用する可能性がありそうです。

 情報通信関連や医薬品などにも追い風が吹いています。保守的な企業業績予想が期中に増額方向に修正されるケースでは全体株価に浮揚力が加わることも想定され、企業のファンダメンタルズ面をそれほど悲観的にみる必要もないでしょう。

●マーケットに底流する政策期待

 相場の帰趨を握る為替相場の動向については、ひところのような急速な円高基調は一服しており、投資家の不安心理はやや緩和されている状況です。麻生財務相の「介入の用意がある」とした円高牽制発言などが、実際どの程度の効果があったかは不明ですが、結果的に100円を割り込むような円高バイアス加速のシナリオが回避されたことが、株式市場にとって買い戻しの契機となりました。

 今週末20~21日に仙台での主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議を控えており、ここで再び円安誘導への圧力がかかることは想定の範囲内。通貨安競争を避ける代わりに、財政を伴う景気刺激策を後押しする流れが形成されれば、内需株を中心に相場にプラスに働くことが予想されます。また、26~27日の伊勢志摩サミット、さらにその後は7月の参院選という政治スケジュールを控え、下値を試せば政策催促相場の色が必然的に強まるため、売り方が仕掛けにくいという思惑も底流しています。

●マザーズ市場は目先逆風環境に

 一方、テーマ物色の流れのなかで大きく買われた東証マザーズ銘柄を中心とした小型株は足もと試練の局面を迎えています。06年1月の「ライブドアショック」のような相場全体を揺るがすほどの激震ではありませんが、足もとの決算発表の不調や一部のインサイダー疑惑などが上昇トレンドに水を差す格好となっており、当面は様子をみるところです。

 もちろん、AIやバイオ、自動運転といったテーマ性が色褪せることはなく、売り一巡後は再び仕切り直しの買いチャンスが回ってきます。業績面についても、例えばJIG-SAW <3914> [東証M]などはもともと将来的な成長期待で買われており、にわかに足もとの収益をクローズアップして売り叩くのも変な話ですが、株価はひとたびトレンドが形成されると常に不合理が加速する特性があるため、これは理屈では語れない部分です。ただ同社の場合、複数の大型商談が控えるのは夏場であり、1-3月期の数字で過剰反応して売られているとすれば、買い場提供となる可能性があります。

 同社株に限らず、中小型テーマ株は値動きが激しいがゆえ、投資のタイミングについては留意する必要があり、反転したのを見届けてからの参戦が基本となります。

●株主還元姿勢の高い銘柄に着目

 では、ここで何を買うべきか。今回の決算発表では自社株買いラッシュとなりました。コーポレートガバナンスの観点から、企業がROE(株主資本利益率)の向上を意識するかたわら、株主還元姿勢の高さが改めてテーマ性を帯びてきています。このテーマで買える銘柄を探すのも一つの手段。インカムゲインが副次的な“果実”として投資家を潤すことも買いの根拠となります

 例えば、夢テクノロジー <2458> [JQ]。自動車やIT業界向け技術者派遣を手掛け16年9月期は最終利益段階で5割増益を見込んでいますが、ポイントとなるのは配当性向100%も辞さずの姿勢をみせていること。15年9月期は40円配当を実施、時価換算で配当利回りは3%に達していますが、16年9月期は増配の公算が大きく、これはそのまま上値の可能性を示唆しています。

 このほか、総合商社では電力や交通などのインフラ関連に展開し、17年3月期は航空機なども好調な双日 <2768> 。今期業績配当利回り3%超でPBR、PERも割安感が際立っており、チャート面からも出遅れ感が強いようです。また、自動旋盤のトップメーカーであるツガミ <6101> も、17年3月期は自動車部品向けが牽引し収益急回復を見込む意外な高配当利回り銘柄。今後ジリ高トレンドを形成する素地は十分でしょう。

(5月18日記、隔週水曜日掲載)

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