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【市況】【鈴木一之の相場展望】  「鉱工業生産統計が語るもの」


●景気不透明感の震源地となった鉱工業生産指数

 8月29(金)の朝、7月の鉱工業生産指数が発表された。この数値が事前予想をかなり下回ったために、それからの1週間というもの、日本の景気の現状は大丈夫か?という疑心暗鬼を抱えながら、9月最初の1週間を何とかやり過ごした。

 今週は今の安倍政権下で初めての内閣改造が行われ、メディア報道が政治一色に傾いたことも幸いした。

 重要閣僚の顔ぶれが流れた火曜日は、突如としてトヨタ <7203> を筆頭に、それまで人気の圏外に置かれ続けた主力銘柄が一斉に買われ、市場の目を惹きつけた。

 しかし、翌日からは再びそれまでの材料株相場にあっさりと戻ってしまい、不安感はそのままくすぶっている。確かに日経平均は7月末の戻り高値を抜くことに成功したが、さりとて明確に上昇トレンドに戻ったとは言い難い。相場全体の再活性化にはもう少し時間がかかりそうである。

 不透明感の震源地となった7月の鉱工業生産だが、生産は前月比+0.2%、出荷は同じく+0.7%だった。消費税引き上げの影響がまだ残っていると見え、生産の回復は確かに鈍い。出荷も2月から5ヵ月連続で前月比マイナスを続けた後としては物足りない数字である。

 週が替わって9月1日(月)には財務省より4-6月期の法人企業統計が発表された。全国100万社を超える企業の経営数値が集計されたもので、GDP統計の大きな目安になる。

 全産業の売上高は前年比+1.1%の増加だった。1-3月期の+5.6%からのダウン幅はやはり大きい。4-6月期の経常利益は、製造業が+0.2%、非製造業が+1.5%だった。それぞれ前期の+5.8%、+5.6%からも大きく落ち込んでいる。

 ただし業種別で見ると、売上高の増減にもかなりのデコボコがある。悪かった業種の代表格は、食品製造の-6%、小売業の-9%、同じく不動産業の-9%といったところで、これらは消費増税の影響をまともに受けたところである。数字はいずれも売上高の前年比の伸びである。

 反対によかったところとしては、窯業・土石製品の+18%、非鉄金属製品の+13%、汎用機械器具の+9%、電気機械器具の+8%(以上、製造業)、あるいは建設業の+11%、ガス・熱供給・水道の+11%(以上、非製造業)。このあたりなどは消費税の影響などどこ吹く風という風情で大幅な伸びを続けている。

 他の先進国と同様に、日本は経済のサービス化が急速に進んでいる。売り上げの伸びが好調な業界は上記のほかにも、陸運業(+16% )、娯楽業(+24% )、広告業(+17% )などがある。事業規模も決して小さくない業界が、現在の経済環境でもかなりの勢いで売上高(および利益)を伸ばしているという構図である。

●回り始めた建設投資循環

 鉱工業生産統計に戻ると、ここでも生産の好調なサブセクターがけっこう見つかる。ブルドーザー(+25%)、ショベル系掘削機械(+15%)、ショベルトラック(+12%)、数値制御旋盤(+10%)、機械プレス(+42%)、板ガラス(+9%)、流し・ガス・調理台(+14%)。

 これらはいずれも東京都心部で猛烈な勢いで進められるオフィスビルの耐震強化、建て替え、再開発による建設需要から発生するものである。

 これらに付随して塩ビ(+20%)、ポリエチレン(+15%)、ポリプロピレン(+19%)などの石油化学製品も生産が伸びている点は注目に値する。

 今の日本では、都心部から始まった巨大な建設投資循環が回り始めているところである。この流れは簡単には衰えない。金融情勢が大きく変化しない限り、現在の奔流が変わるとは考えにくい。

 大成建 <1801> 、鹿島 <1812> 、五洋建 <1893> などの建設株を中心に、商業ディスプレイの乃村工芸社 <9716> 、ビルメンテナンスのイオンディラ <9787> の押し目形成を注目している。

2014年9月4日 記

(「チャートブック週足集」No.1990より転載)
(「株探」編集部)

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