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【経済】地政学的リスクの正体


最近世界の市場では、ウクライナ情勢・パレスチナ情勢さらにはイラク北部での米国による空爆決定などの地政学的リスクが意識され、各種資産価格が大きく変動している。地政学的リスクとは「ある特定地域が抱える政治的・軍事的・社会的な緊張の高まりが、地球上の地理的な位置関係により、その特定地域の経済あるいは世界経済全体の先行きを不透明にすること」とされている。
 地政学的リスクという言葉は、米国の同時多発テロ後に米連邦準備理事会が使用し始めたことから急速に広まり、イラク戦争時などにも頻繁に使用されることとなった。
 現在でも世界のどこかで激しい紛争やテロが発生すると、地政学的リスクという言葉が溢れ、投資家はリスク資産を売り、安全資産を買うという行動に出るということになっている。
 しかし、米国の同時多発テロの時もイラク戦争の時も不安が高まった時に世界の株価は確かに大きく下落したが、その後は急速に値を戻し、その後も上昇し続けた。
 地政学的リスクは「特定地域の経済あるいは世界経済全体の先行きを不透明にする」ものであるが、そのリスクが世界経済に対して大した影響を及ぼさなかった場合は本質的な資産価格に与える影響は実はなかったということである。ただ単に世界のどこかで紛争が起こったとか、飛行機が撃墜されたとか、空爆が実施されたというだけでは、それがどんなに残虐な事象であっても世界経済全体に与える影響はほとんどない(世界では常にどこかで紛争やテロ行為などが発生しているものである)。今回のウクライナ情勢を例にすれば、世界経済に影響を与える場合として、欧米とロシアが本格的な経済制裁合戦に入ったり、NATO軍とロシア軍が直接交戦して第三次世界大戦のような情勢になったような場合が想定される。しかし、現在のところ欧米もロシアも自国の経済への影響を考慮して、大げさなことを言いつつも経済制裁は極めてソフトなものにとどまっているし、ロシアはウクライナの国境を越えて本格的に侵攻する様子はない。結局のところ、その「地政学的リスク」といわれるものが本当に世界経済に影響を与えるのかという点を見極めることが何より重要と言うことである。地政学的リスクの話題性の高さや内容の悲惨さではなく、実体経済への影響を熟慮したうえで、通常通り実体経済の動向を見極めるのである。もし、それが本質的には世界経済全体に影響を及ぼさないものであれば、その「地政学的リスク」はマスコミの過剰報道と投資家の群集心理が作り出した幻想ということになる。

現在世界の市場は連動性を強めており、地政学的リスク=リスク回避・安全資産買いの連鎖が起きやすく、投資家は群集心理にかられてよく考えずに右へならえの行動を取る傾向がある。しかし、そのような場合はえてして市場はオーバーシュートし、後に大きくリバウンドする。「地政学的リスク」が喧伝される時には大きなチャンスが潜んでいるのである。

先週末の金曜日、オバマ大統領がイラク北部で限定的な空爆をすることを表明したことを受けて、日経平均株価は前日比マイナス450円超の暴落を演じた。この日は日本が紛争地域から最も遠いにもかかわらず世界で抜きん出て最も下落した市場となった。民間航空機の撃墜によるウクライナ情勢の緊迫化以降では、同指数は場中の最高値から最安値まで約1週間で1000円の大暴落となっている。果たして現在喧伝されている「地政学的リスク」は本当に世界経済に影響を及ぼすようなものなのだろうか、それとも上記のような「幻想」なのであろうか。いみじくも黒田日銀総裁は、金曜日の株式市場終了後の会見で、現在の地政学的リスクは「日本経済への直接的な影響は今のところない」と述べた。「直接的な」としていることから、世界経済が影響を受けその結果日本経済が影響を受けるという可能性は排除しておらずその立場は明確ではないが、全体のトーンとしては後者を示唆しているように見える。
《YU》

 提供:フィスコ

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