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【市況】【井上哲男のストラテジー・アイ】


「フランスが日本株を売ったということ」

スプリングキャピタル株式会社 代表
井上哲男

 今年に入ってから日本株の相対的なパフォーマンスが低い理由づけとして、「消費増税による景気の落ち込みに対して日銀が事前に金融緩和策を採らなかったことから、外国のヘッジファンドや外国の機関投資家が日本株を売却している」との論調が目立つ。しかし、指数動向を語る際に需給を拠りどころとしている私は全くその意見に同意することができない。

 確かに4月30日現在のTOPIXの今年の騰落率は-10.7%であり、米国のS&P500種の+1.9%、欧州株全体の値動きを示すストックス600の+3.0%に比べて大きく見劣りする。

 また、この数字は景気減速、不動産・理財商品と多くの不安材料を抱える上海総合指数の-4.2%よりも低く、下を見ると、ウクライナ情勢により単日で12%もの下落を記録したロシアRTSの-19.9%くらいしかない。

●相場をかく乱した主体

 東証が発表する月別、地域別の外国人動向を見ると、昨年の11月、12月に外国人がそれぞれ2.3兆円、2.2兆円買い越し、今年の1月から3月で1.7兆円売り越している。地域別に見ると、その動きが激しいのが欧州で、11月、12月に合計で3兆円買い越し、1月から3月で2兆円売り越している。

 これだけを見れば確かに外国人、特に欧州勢の売りが今年の相場低迷の要因と映る。しかし、これを国別動向で見ると意外な国の存在が明らかになるのである。

 日銀と財務省は毎月、国際収支状況を公表している。これにより、今年2月までの国別の対内投資額が分かっているが、フランスが11月、12月に合計で1.6兆円買い越し、1月、2月で1.4兆円売り越しているのだ。

 私自身ヘッジファンドのファンドマネージャーを長年経験した関係で、その友人も多いが、出張で米国、英国、香港、シンガポールに行くことはあっても、ドイツ、フランスに行ったという話を聞いたことがない。

 両国に資金量の多いヘッジファンドは皆無である。また、年金資金の一部に日本株が組み入れられているが、年金がそのような短期間に大量に日本株を購入してすぐに売却するとは到底考えられない。

 日本株の保有比率が米国の10分の1未満のフランスの商いとは、フランス系証券が日本株の現物と先物やオプションを用いて行う裁定取引の影響としか考えられないのである。ここに「ヘッジファンドや外国の機関投資家の売り」の誤謬(ごびゅう)がある。

●裁定解消が信用評価損に飛び火した

 実際の裁定買い残の推移を見てみる。昨年末に丁度4兆円あったその金額は、2月24日に2.6兆円まで減少している。この差額1.4兆円は奇しくもフランスの1月、2月の売却金額と一致する。

 このことから導かれる推論は、外資系証券の裁定買い残の減少が指数下落の際に指数構成比の高い銘柄の下落を誘発し、そのことが個人の信用取引における評価損率の悪化を招いて投資余力を小さくしたのではないかということである。

 実際に、指数構成比が高く、また、個人に人気のあるソフトバンク <9984> とファストリ <9983> は年初から4月30日時点で、それぞれ17.5%、26.8%下落しており、冒頭のTOPIX下落率10.7%を大きく下回っている。4月25日現在、両銘柄の信用取引のネット買い超金額の合計(時価ベース)は1250億円程度。2銘柄でネット信用残高(簿価ベース)のおよそ5%を占めている。

 両銘柄の勢いの復活が待たれるが、昨年末の信用期日を迎える6月まで、日経平均で1万4000円~1万5000円のコアレンジを抜けてトレンドが出ることは予想していない。日銀の追加緩和策が出され、日米の金利差拡大見込みが為替に影響を与えるのもそれ以降と考えている。

2014年5月1日 記

(「チャートブック週足集」No.1972より転載)

(「株探」編集部)

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