【経済】ウクライナ情勢シナリオ分析~ドル体制崩壊を早めるリスク
<ロシア外しによるG7回帰>
ロシアによるクリミア併合を非難していた主要7カ国(G7)首脳は24日、オランダ・ハーグで緊急会議を開いた。会議終了後に発表されたG7首脳宣言では「ロシアが方向を変更するまで主要8カ国(G8)への参加を停止する」ことが明記された。また、ロシアが状況を一段とエスカレートさせれば、G7は同国の経済により大きな影響を及ぼす特定産業への制裁を連携して行う用意があると表明した。
G7諸国は、ロシア産石油・ガスへの依存度を低下させるため協調することで合意しているが、欧州連合(EU)にとって、ロシア産の石油、天然ガスの供給が途絶えることは死活問題と言っても過言ではない。関係者の推計によると、欧州は天然ガスの約30%をロシアに依存しているが、ロシアからの供給が途絶えた場合、代替の調達先を確保していない。
<米国からの天然ガス輸出には数年が必要>
米国が欧州向けにシェールガスを輸出すればいいという見方があるが、これは一朝一夕にできる簡単な話ではない。
米国では関連法案の規定により、エネルギー省の同意なしに液化天然ガスを輸出することは禁じられている。また、天然ガスを輸出するためには、液化工場を建設する必要もある。さらに、液化工場の建設のためには、連邦エネルギー規制委員会(FERC)の許可が必要となり、実際に輸出可能となるのは数年先になるとみられている。
忘れてはならないのが中国の存在である。中国はロシアから向こう数年間で原油3500億ドル相当を輸入することで合意している。さらにウクライナ編入手続きを完了したロシアに対する米欧の制裁発動がロシアと中国の関係強化を促すとの見方も少なくない。
<欧州とロシアが何らかの取引?>
ロシア産の原油・天然ガスの供給を大幅にカットすることは、欧州自身が経済制裁を受けるようなものであり、EU加盟国全ての合意を得ることは極めて困難だと予想される。欧州向けのロシア産の天然ガス供給に米国は反対するだろうが、欧州はロシアとの何らかの取引に応じるかもしれない。それがウクライナ問題を巡ることになるのは想像に難くない。
<ロシア外しでドル体制崩壊へ>
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の一員であるロシアは、国際関係においての武力行使を排除するという原則を遵守する方針を維持している。この方針はBRICS構成国に共通するものであり、地域紛争の解決などに貢献している。
BRICSの協力関係は安全保障の分野だけでなく、通商・投資など多様な分野でも確認することができる。米国とEUに経済的に十分対抗できる存在とは言えないまでも、世界経済における相対的な影響力は年々高まっていることは疑いない。欧米諸国によるロシア制裁が強化されても、ロシアはBRICSとの貿易取引量を増やすことで対応するだろう。
市場参加者の間では、BRICSがドル体制の枠組みから離脱しつつあるとの見方が浮上している。日本を含めたアジア諸国や豪州、ニュージーランドもこの影響を受けつつあるとの声が聞かれている。
より多くの国が貿易決済などでドルを使用しなくなれば、ドルは国際準備通貨ではなくなり、各国中央銀行はドルの外貨準備を減らして人民元やルーブルの保有を増やすことになるだろう。ドル体制の崩壊は米国にとっては絶対に認められない展開だが、ロシア制裁の強化は、ドル体制に相当な打撃を与える可能性があることにも留意すべきだろう。
《RS》
提供:フィスコ