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【市況】【井上哲男のストラテジー・アイ】


「上昇というモメンタム戦略(順バリ)の継続」

MCP投資顧問株式会社
ファンドマネージャー 井上哲男

 年末年始に「週足10年」を熟読した。その巻頭言にも書いたが、この10年間で世界的に大きく株式市場が揺らいだのはサブプライム・ローン問題と欧州の財政問題の2期間。何れも欧米の金融機関に信用不安が生じた時期であった。

 TARP(米国の不良資産救済システム)とLTRO(欧州中央銀行による資金供給)によってその懸念が薄れ、世界的に株式市場は上昇トレンドへと回帰したが、日本もアベノミクスによる市場心理の回復が大きく寄与して、現在は2005年から2007年初頭までの外国人買いにより大きく上昇した相場を凌駕している状態である。

●メジャーSQ後の指数上昇のカラクリ

 オシレータ戦略(逆バリ)とモメンタム戦略(順バリ)。この2つの戦略を中長期と短期のどちらで用いるかが鍵である。2009年からアベノミクス相場が始まるまでは、中長期的にオシレータ戦略(逆バリ)が有効であったが、現在は中長期的には上昇というモメンタム戦略(順バリ)の姿勢を貫き、短期的な押し目、過熱度を測るためにオシレータ戦略(逆バリ)を用いるのが有効であり、この状態が今年も継続すると見ている。

 昨年最後の寄稿で12月のSQ以降は落ち着きを取り戻すと書いたが、SQを経て、日経平均は9連騰で年の取引を終えた。

 昨年、一年間を通じて説明力の高かった需給上の項目は、裁定買い残であった。昨年6月以降、この株式需給では“脇役”と目されている裁定買い残の推移について何度も触れたが、やはり説明力の高さは健在である。

 前述の、2009年からアベノミクス相場が始まるまでの期間、裁定買い残は東証一部の時価総額の0.75%まで積み上がると、この解消売りによって指数は下落に転じることを繰り返した。

 しかし、現在は0.75%~0.95%の水準で推移しており、0.75%というそれまでの抵抗ラインが支持ラインとなっているのである。

 積み上がった買い残を大きく減少させて利益を確定させるのが3、6、9、12月の第2金曜日の(メジャー)SQ。これを待たずして解消売りが出された結果、5月23日~6月13日までの期間に昨年最大の下落相場を記録したが、翌14日の(メジャー)SQを過ぎると、相場は大きく反転上昇に転じた。

 この、(メジャー)SQ経過後の指数上昇は昨年、4回とも示現した。私が前回SQ後の上昇を予想した根拠もここにある。

 裁定買い残の前週末金額は毎週第3営業日に東証が発表し、翌日の日経新聞朝刊に載る。この金額と毎日朝刊に出る東証一部の時価総額を追うという地道な作業が有効である。

 年末の12月27日、30日に裁定買い残金額が再度4兆円を超えたことが話題になったが、東証一部時価総額対比では0.88%となる。前回4兆円を超えていた時期のピークは弊社試算によると12月3日の4兆2500億円であるが、この時の同比率は0.95%と前述の0.75%~0.95%というレンジの上限にあたり、翌日からの2日間で日経平均は570円も下げた。“SQを待てない解消売り”によるものである。

●値幅の大きい相場のカラクリ

 この頃、日経平均が上昇する時も、下げる時も値幅が大きいと感じられる方が多いと思う。これは昨年11月5日から空売りをする際の指値制限であったアップティックルールが解除されたことによると分析している。

 東証は売買代金に占める空売りの比率を発表しているが、それによると、2002年4月から昨年10月までの139ヵ月間の月間空売り比率の平均は20.9%であり、28%を超えた5ヵ月は全て月間で日経平均は下落し、その下落率の平均は5.8%と大きなものとなっている。

 空売りが指数を押し下げる実態をこの数値は表しているが、昨年11月以降の月間空売り比率は11月が28.1%、12月が26.8%とそれまでの平均よりも大きくなっている。裁定解消売りによって指数が下げる際に空売りがそれに加わって下落幅が大きくなり、その空売りが買い戻される際に指数は大きく反発するのである。

 ちなみに、今年に入って年初の2日間、指数は下落したが、日経平均が382円下げた1月6日の空売り比率は30.4%、翌1月7日は31.3%を記録している。そして、この数字を東証は毎日引け後に発表しているのである。

 短期的な押し目、過熱感を測るための「裁定買い残」と「空売り比率」。この2つについては今年の需給要因の主役であると考えている。

2014年1月9日 記

(「チャートブック週足集」No.1956より転載)
(「株探」編集部)

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