6752 パナソニック 東証1 15:00
1,231.5円
前日比
-10.5 (-0.85%)
比較される銘柄: ソニーシャープ日立
業績: 今期予想
電気機器
単位 100株
PER PBR 利回り 信用倍率
11.5 1.64 9.25
決算発表予定日  2018/10/31

銘柄ニュース

戻る
2018年06月30日07時30分

武者陵司 「米中貿易戦争の全体像を探る」【前編】


―功を奏すトランプ政策と貿易摩擦の行方(勝ち組、負け組)―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(1) 高まるトランプ大統領評価

●トランプ政策の戦略性

 世界経済や市場を考えるうえでますますトランプ氏から目が離せなくなっている。トランプ氏はますます本領を発揮し、成果を続々挙げている。落ち込んでいた支持率も昨年の35%近辺から10ポイントほど上昇した。特に共和党支持者の間では80%と圧倒的な支持を得ている。

 メディアや専門家の間では相変わらず、トランプ氏のモチベーションを、選挙対策、人気取り、自己顕示欲・虚栄心、利己主義(白人優先、金持ち優先、ビジネス優先、米国優先、キリスト教優先)と決めつけて、否定的に解釈しているが、米国政治を采配する権力者を色眼鏡で見ていては、本質をとらえることはできない。トランプ氏は驚くほど選挙公約に忠実であり、毀誉褒貶を意に介さない。その強い意志の根源は米国大統領として当然の、America first 、Make America Great again であることも明らかであり、それは(行き当たりばったりとは全く逆の)明確な戦略性というべきである。

●トランプ政策の背後にある合理性を探ることが必要だ

 先入観に基づく批判が蔓延する中で、見るべき論評は少ないが、FT(フィナンシャル・タイムズ) ラナ・フォルーハ氏の一連のコラム「トランプはメッセージの達人だ…ダボスの群衆に目もくれず、米国有権者に公約を守っている姿を見せつけ人気を保っている」(2018年6月18日)、「保護主義モードのトランプ通商政策の実相…経済と安保は密接に結びつく時代に入った」(2018年6月11日)、産経新聞田村編集委員のコラム「毅然とトランプ政権につけ…米中貿易戦争で日本はどうする」(2018年6月24日)は一読に値する。

 フォルーハ氏は、「トランプはダボスに集うエリートの評価には目もくれず、ごく正確に選挙公約を実行し、中国や不法移民にタフに対応し彼の支持者である労働組合、中小企業経営者、農業州の支持を強めている。また貿易戦争を始めるタイミングが米国経済成長率が3%を超えるという好景気下であることもよい。容易に貿易のマイナス影響はカバーされてしまう」と主張し、トランプ政権の一連の政策成功と支持の高まりを伝えている。さらに「トランプ氏が世界の貿易体制を壊したとの通説は間違い。トランプ以前から多国間貿易体制は中国の台頭とデジタルエコノミーにより創造的破壊に直面していた」として国際分業が新たな時代に入りつつあることを指摘している。

 また、田村氏は「WTOはこれまでの中国の不公正貿易慣行是正に無力だった。ルール無視常習犯の中国を従わせるには、強制力を持つ覇権国の米国を盛り立てることが先決だ」と解説している。

 トランプ大統領が就任して一年間で規制緩和と税制改革を断行し大きな経済的成果を挙げた。オバマ政権は理想主義に基づきあたかも経済を敵視するかような政策をとった。それに対してトランプ大統領は規制緩和によってビジネスとワシントンの関係を強めビジネスセンチメントを大きく改善させている。また、昨年末の史上最大級の野放図というほどの税制改革は、経済の成長力を大いに強め、米中貿易戦争のマイナス要素を打ち消すだろう。株価もトランプ大統領当選以降、3割高の水準で推移しており、一年目において大きな経済的成果を挙げたと言える。

(2) トランプ氏の対中貿易戦争

●米国覇権の再構築に着手

 経済に目途を付けた後、トランプ大統領が二年目に打ち出したイニシアティブは地政学、つまり米国覇権の再構築である。米国の覇権に対抗・凌駕しようとする中国をいかに抑え込むかに一気にフォーカスを変えた。

 世界4極(米・中・日・欧)のGDPの推移をみると、2009年に日中逆転、2017年に中国・ユーロがほぼ逆転しつつあり、今の米中成長率が続くと考えれば2027年に米中逆転が起こる。そうなれば、中国は経済力でも軍事力でも米国を凌駕し、世界の覇権国は米国から中国に移る。米国の危機意識は急速に高まり、中国の経済台頭を抑制することが野党民主党、世論を巻き込んで米国の最優先課題となっている。その最重要の手段が中国に対する貿易戦争である。

 中国がここまで経済的に台頭できたのは、米国による過大な関与、分かりやすく言えば、ミルク補給である。米国の2017年の対中貿易赤字は3750億ドル、米国全体の赤字の約半分である。また、米国の中国に対する経常赤字はここ10年間、ほぼ対GDP比2%弱で推移している。米国全体の経常赤字/GDPは2.4%なので、ほとんどの赤字は対中である。平たく言うとアメリカ人が一年間稼いだ所得のうち2%は中国に対して貿易赤字の支払いという形で所得移転が行われ、中国の成長をもたらしたのである。ここを止めることが米中貿易摩擦の最大の眼目である。

 中国が急激に対米黒字を積み上げることができたのはフリーライド、不公正な様々な通商慣行を使ったからであり、米国はこれの是正を求めている。

●脅威の中国国家資本主義、世界ハイテク産業を席捲へ

 最も重要な焦点はハイテクである。今、次世代通信5Gの開発が、世界の将来のハイテク産業のリーダーシップを握るという、大きな山場を迎えている。このハイテク競争において、中国の覇権を許さないとアメリカは決意している。ハイテク覇権奪取計画である中国の「製造 2025」計画を破棄すべし、ということまで米国は求めている。

 かつて2000年代の初めの10年間に、中国は国家資本の際限ない投入と補助金により、鉄鋼の世界生産シェアを10%台から50%に引き上げた。同様に太陽光発電パネルでは日米欧の競争相手をなぎ倒し世界シェア80%を獲得した。今や液晶でも中国シェアは3割強と世界最大になっている。自動車用バッテリーでは7年前に設立されたCATL(寧徳時代新能源科技)が、パナソニック <6752> を抜き世界一となった。その時価総額は2兆円に達している。さらに移動体通信機器では中国のZTE(中興通訊)、ファーウェイ二社で世界シェア41%を握り、米日欧企業を大きく引き離している。

 今や中国はハイテク立国に焦点を絞り、軽工業や重厚長大産業は衰退・海外へシフトさせ、最先端技術で世界を支配しようとしているのである。米国がそれを容認することはあり得ず、米中貿易戦争は際限なく続くことになりそうである。米国は6月15日、知的財産侵害に対する制裁関税として500億ドル相当の輸入品に対して25%の課税を決定した(7月6日に発動)。中国が対抗報復関税を決定すると、さらに1000~2000億ドルの輸入品目に対して10~25%の追加関税を検討し始めている。また、ZTE制裁で見せた対中禁輸(爾後緩和されたが、議会は反対している)に近い措置の再現も考えられる。さらに中国企業の対米直接投資の制限が検討されている。

(3) 対中貿易戦争の影響と勝ち組、負け組

●不確実性は高まるが、リセッションを引き起こすことはない

 こうした摩擦の激化はあっても、米国、世界経済に対する影響は軽微、というものがエコノミストのコンセンサスである。貿易制裁の応酬がとまらない可能性があるという不確実性は、一時的に市場を不安定にするかもしれない。トランプ氏がどこまで譲歩を求め、どこで妥協するのか、市場は注視している。

 しかし、関税がすべて引き上げられ、そのまま価格転嫁されたとしても、それによる米国物価上昇は0.2%にも満たず、GDPに対する影響も微小といえる。また、中国からもっと低コストで関税がかからない国への供給力シフトなどが起きれば影響はより小さくなるだろう。企業業績への影響も同様である。FRBなど米国当局は強気姿勢を維持している。それぞれの制裁、報復措置が出そろい不確実性が消えていけば、市場は安心感を取り戻すのではないか。

●中国によりネガティブな影響が

 他方、貿易摩擦の中国経済に対する影響は看過できまい。関税引き上げによる競争力減退、貿易摩擦激化による不確実性の高まりと投資意欲減退に、すでに低調であった不動産投資などの悪化が加わる。中国当局がすかさず預金準備率を0.5%引き下げた(7月5日実施)のは、その危機意識の高まりのためである。利下げが人民元安を引き起こし、株価下落と金融不良債権問題が共鳴すれば、2015年型の不安心理を高める可能性はある。中国政府は摩擦の応酬がそこまで広がることを望まず、妥協点を探るのではないか。

 米中貿易戦争においては、いずれ勝者(恩恵を受ける国・企業)と敗者(不利になる国・企業)がはっきりしていくだろう。米国以外では、日本、台湾が勝者、敗者は中国以外では、ドイツ、韓国が当てはまるのではないか。

●日本の有利性に注目を

 今、中国の急速な産業高度化、ハイテクシフトにより韓国-中国、台湾-中国、ドイツ-中国の競合関係が強まっている。また、インターネットのプラットフォームは米国企業に対し中国のアリババ、ティンセントが挑戦状を叩きつけている。

 しかし、日本は米国とは言うまでもなく、中国企業との競合もあまりない。むしろ、中国がハイテク化しようとすると、日本の設備や部品、材料が必要となる補完関係にある。日本は著しく有利な国際分業上のポジションを得ている。例えば半導体製造装置は米日で世界市場を分割(米国6割、日本4割)しており、中国が米国から半導体製造装置を購入できなくなれば、日本に頼るしかなくなる。

 自動車に対する制裁関税が検討されており、日本もその対象にはなり得るが、日本の関税率は世界最低である。特に自動車は、米国2.5%、日本0%、EU10%、韓国8%、中国25%と世界最低となっている。また、日本車の米国現地生産は377万台と対米輸出174万台の2倍以上となっている。

 日本の貿易黒字はごく小さい。日本の経常黒字の大半は所得収支によって稼がれている。所得収支黒字とは現地で投資、雇用など産業活動を実施した結果生み出されたものなので歓迎されるはずのもの、他方、貿易黒字は現地での雇用を奪うという側面はあるので非難される理由はある。こうした日本企業の国際化、円高下で実現した日本のグローバル・サプライチェーンは他国に比して著しく充実し、貿易摩擦の対象ではなくなっている。対米貿易摩擦先進国の日本はすべてが過去に起きたことであり、かつ対応済みのことが多く有利といえる。

●台湾もベネフィシャリー

 トランプ政権は台湾支援にかじを切り、事実上の国交を認める台湾旅行法を制定した。台湾旅行法は、2016年9月にいったん否決されたものであるが、今回(2018年2月28日)全会一致で上院可決された。米国議会の対中態度の急速な硬化がうかがわれる。米国IT企業もIoT対応機器の製造基盤が整っている台湾に発注先をシフトさせつつある。

●韓国経済には懸念山積

 他方、韓国とドイツは、その対中国貿易依存度の高さが大きなダメージとなる可能性がある。韓国は輸出対GDP比が32%と高い(日本は13%)上に、対中輸出が25%と中国依存度が高い。特に最大の輸出品目である半導体メモリーはほとんどが対中国向け(香港を含む)である。貿易摩擦によって米国の中国からの輸入が減少すれば、大きく影響を受ける。加えて、中国はハイテクシフトによって韓国の領域に浸食しようとしている。

 ドイツも、トランプ制裁関税に対する報復の報復としてEUからの自動車輸入に20%追加関税を、という被害をこうむりそう。いま米国2.5%、日本0%、EU10%という自動車関税の是正を求められればダメージを受ける。

(4) 貿易摩擦が正当化される理由

●なぜ同盟国に摩擦を仕掛けるのか

 それにしてもトランプ氏の政策には不可解な側面がある。なぜ対同盟国との間で貿易摩擦を引き起こすのか、それも多国間でなく二国間による圧力・威圧によって。それは地政学的観点からは正当化できないものである。

●米国ブルーカラー雇用確保

 つまり、中国の台頭抑止以外の貿易摩擦の目的があるはずである。その第一は米国雇用確保、中西部の製造業(特に自動車)立地復元であろう。特に弱者である中西部の白人のスキルの低い労働者に対する雇用確保である。

 NAFTA(北米自由貿易協定)により米国自動車メーカー、日独韓メーカーがこぞってメキシコに工場移転を推進している。メキシコでは急激な自動車産業の集積が起き、対米輸出が急増すると予想されている。メキシコの自動車生産台数は2010年226万台(内輸出186万台)から2016年には346万台(内輸出276万台)、2017年には377万台(内輸出310万台)と輸出主体に急増しているが、主要メーカーの増産計画を足し合わせれば2020年には580万台を超えていくと予想されている。

 この米国からの自動車生産の大脱走を推進している元凶のNAFTAを再交渉し、工場流出を止めようとしているのである。ローカルコンテンツ比率(原産地比率)が 45%とNAFTAの62.5%よりも著しく低いTPP(環太平洋経済連携協定)は米国工場の海外シフトをより強めるとの懸念が、TPP永久離脱発言の一つの根拠であろう。

●米国で製造業産業基盤の再構築の意図

 トランプ政権の保護主義的通商政策、同盟国を含めた貿易摩擦のチャレンジの三つ目の狙いは、製造業基盤の再構築である。米国で製造業の産業基盤が失われて久しいが、ナバロ氏などトランプ政権のアドバイザーは、それを復元したいと望んでいるようである。ナバロ氏はドイツや日本の製造業基盤を羨望しているとかねて言明していた。

●戦略的通商政策の再登場も

 それはなぜか。AI、ロボットが様々な製造工程を無人化していく時、製造業の現場が無ければ、生産性を高め価値を作り出すことができない。AI、ロボット、IoTの時代に製造業が価値創造の鍵になる時代が来るかもしれない。それに備えて米国現地生産化を求める、というものがトランプ政権のあと一つの貿易摩擦の理由であろう。

 後述するように、産業基盤の形成と衰退には履歴効果がある。新たに産業立地を立ち上げる時、または産業の衰退趨勢を逆転させるときには、政策の力が必要になる。それが、最先端の貿易理論である。未だ明文化されてはいないが、レーガン・ブッシュ・クリントン時代に米国が使った「戦略的通商政策」が再度、姿を現し始めるかもしれない。(「後編」の次章「(5) 貿易摩擦正当化の経済学」参照)

●摩擦はドル高要因

 なお、関税引き上げを含むそうした通商政策は、インフレ圧力を強め一段とドル高圧力を強めるのではないか。

 つまり、通商規制や関税強化を導入した場合、その効果は相手国通貨の下落によって相殺されてしまい、結局競争力に変化は起きない、というものがオーソドックスな経済学的理解である。実際、NAFTA再交渉を主張するトランプ氏が大統領に当選した直後、メキシコペソはほぼ20%もの急落となり、むしろメキシコ工場の競争力が強まった。また、最近のNAFTA再交渉の膠着により、カナダドルが下落している。トランプ氏の「保護主義」的対応が米国工場の競争力強化に結びつくためには、特定の相手国の通貨安を抑制することが必要となるが、それは無理な相談である。

 いずれ以上のような正統的経済学の理解が為替市場に浸透すれば、トランプ氏の「保護主義」的対応は、より一層、相手国通貨を弱めるものとなるが、それは日本円も例外ではない。日本車の強い競争力を削ぐための通商規制・関税強化などが実施されれば、それは円安要因になる。

「米中貿易戦争の全体像を探る」【後編】に続く。

株探ニュース
お気に入りを追加しました。
x
お気に入りを削除しました。
x

日経平均