富士紡HD Research Memo(2):非繊維分野への成長事業で高収益体質企業へ(1)
■富士紡ホールディングス<3104>の会社概要
2. 事業概要
(1) 事業構造改革
2006年から始まった「事業構造改革」では、繊維事業比率を下げ、非繊維分野(研磨材、化学工業品など)を拡大してきた。繊維事業の売上高比率は18年前(2006年)には5割以上あったが、リーマンショックが起きた2008年には繊維事業分野と非繊維事業分野の売上高が逆転し、2023年では繊維事業比率は2割を切るに至った。事業構造の変革が進むなか、国内で糸を紡ぐ(紡績)工場はすべて閉鎖し、タイ工場へシフトした。
(2) 事業概要
主力事業は研磨材事業と化学工業品事業、準主力事業として生活衣料(B.V.D.など)事業が位置付けられ、この3つが中核3大事業である。売上構成比は研磨材事業約4割、化学工業品事業約3割、生活衣料事業約2割で、その他事業の中の化成品(樹脂金型)事業を“第4の柱”とすべく育成を図っている。
(a) 研磨材事業
研磨材にはソフトパッドとハードパッドの2タイプがあり、同社は半導体向けでは主にソフトパッドを供給している。ハードとソフトで市場が棲み分けられており、ソフトパッド分野では同社はトップシェアを獲得している。
半導体の微細化が進展すると、研磨プロセスの難易度が高まり、精緻化技術がキーとなるためソフトパッドの重要性が高まるが、同社のソフトパッドは顧客(半導体メーカー&ファウンドリー)から高く評価されている。今後、半導体の微細化・積層化の進展とともに、研磨材には平坦化が求められ、同社のソフトパッドにとってはますます追い風になると弊社では見ている。
同事業における同社の強みは、半導体メーカーからの高い要求に対し製販技一体できめ細かく対応できること、エンドユーザーと研究開発部門が共同で作り込みができることにある。加えて、自社内で研磨材試作品を評価し、評価データとともにサンプル品の適時提供と報告が可能である。また、5工場体制で生産能力強化と生産リスクへ的確な対応が可能なこと(主力工場は愛媛県の壬生川工場、小山工場、小坂井工場、大分工場(2020年竣工)、そして台湾工場(2017年竣工))、研磨技術に関わる特許の確保と活用戦略(知的財産室)を保有していることが挙げられる。
同事業の用途市場と顧客については、半導体の用途市場は現在ロジック分野が主流である。今後はメモリー分野でも積層化となりソフトパッドのニーズが顕在化することが見込まれ、顧客は世界の主要半導体メーカー(ファウンドリーを含む)をカバーする。競争戦略については、競合最大手の欧米メーカーが市場で大きなシェアを持ち、トップリーダーとして、デファクトスタンダード(標準化)戦略で商品のラインナップが豊富だ。一方、同社は小回りを利かせた顧客ニーズにカスタマイズされた商品開発と改良でニッチ市場を深耕している。ニッチ市場ではプレイヤーが少なく、高付加価値商品を提供しているため、結果的に高収益体質に寄与している。
(b) 化学工業品事業
同社子会社の柳井化学工業は、大手化学品メーカーなどから機能性材料、農薬、医薬品の中間体製品※の受託生産をしている。中間体受託生産で“色が付いていない”独立系企業では国内専業トップクラスである。大手化学品メーカーは大ロット品なら自社生産するが、小ロット品の場合外注するのが一般的である。同社はQCD(高品質・低コスト・短納期)で作り込む受託生産企業として高く評価されている。
※ 目的とする化学反応の途中に生じる化合物及び化学工業において製品に至る前の段階の生成物を指す。
同社は中間体製品の受託生産企業であり、化学企業業界では黒子の役割であるが、全国津々浦々から口コミで同社へ受託生産の依頼が後を絶たず、国内2工場(柳井工場、武生工場)とも高い稼働状態が続いている。
同社の事業ポートフォリオでは研磨材事業が高収益事業として目立っているが、化学工業品事業は隠れた高収益事業である。継続的に設備投資を実施しているため、営業利益率は8%台であるが、EBITDAベースで減価償却費を加えるとさらに高水準の収益を確保している。同事業における同社の強みとしては、「同社でしか作れない中間体製品を有する」「Lab~試作~量産まで一気通貫の生産体制を構築している」「国内大手化学メーカーからの厚い信頼」「景気の波を受けにくい多種多様な製品・市場構造」「生産能力強化と生産リスクへ的確に対応できる2工場体制」が挙げられる。
(c) 生活衣料事業(旧 繊維事業)
B.V.D.を中心に高品質なアンダーウエアの製造・販売を行っている。B.V.D.とアングルの2ブランドで生活衣料事業売上高の75%を占める。採算性の高い製品への絞り込みにより、今では営業利益率9.1%を達成している。特に、Eコマース販売(ネット販売)の強化により、新規顧客開拓と顧客ニーズにきめ細かな対応を図っている。Eコマース販売は2005年からスタートし、2017年の中期経営計画からさらに注力して取り組んでいる。
同社の子会社アングル(株)(旧 アングル・ミユキ(株))は2012年に東洋紡<3101>から買収した。元々、百貨店中心の高級インナーウエアを販売していたが、百貨店販売が不振続きで在庫を積み上げて儲からなくなった。そこで百貨店販売を縮小しEコマース販売へシフトした格好だ。2020年に(株)フジボウアパレルとアングルが合併し、Eコマース販売を加速化している。アングル製品は、高級質感の「アサメリー」、「エアメリー」を中心に高品質な日本製が評価され、海外向け販売が好調に推移している。
同事業は最盛期には売上高が数百億円規模であったが、その後長期的な繊維不況に陥り、不採算製品の縮小・撤退や在庫縮減など地道な合理化活動を進め、利益が出る体質になった。今では売上高の規模は縮小したものの、ビジネスモデルをEコマースへ転換することで高効率販売と低コスト構造を実現し、高収益体質の事業転換に成功した。縫製工場はタイ工場に集約し、国内や中国の縫製工場はすべて撤退することで身軽になった。コアコンピタンスも、従来のモノづくりからマーケティング、商品企画、ブランディングなどにシフトし、リソース(ヒト、モノ、カネ、情報)も大きく入れ替えた。
(d) その他(化成品)事業
同社の化成品事業は、精密機械・医療分野で高評価される射出成形技術で成形加工の事業を展開してきた。2018年には樹脂金型の(株)東京金型を子会社化した。これにより、上流(金型の設計・製造)と下流(射出成形)の一気通貫プロセスが実現し、顧客にとっての選択肢が広がった。東京金型は自動車Tier1(自動車部品)との取引があり、同社の新しい取引先拡大に貢献している。また、2022年には(株)IPMを買収した。精密小型金型分野での金型の幅広いラインナップ化と金型・射出成形品を合わせた提案強化ができるようになり、顧客の多様なニーズに応えている。
化成品金型市場は、不採算金型企業と競争力のある高収益金型企業に二極化する傾向があるが、東京金型やIPMは後者の高収益金型企業である。ちなみに、東京金型は、精度、価格、納期、品質面で自動車業界向けに競争力と知名度があり、顧客から厚い信頼を得ている。
射出成形事業(従来の社内ビジネス)と樹脂金型事業(東京金型、IPMの買収事業)は事業シナジーが強くあり、今後、同社の戦略事業と位置付け、“第4の柱”とすべく育てていく考えだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
《HN》
提供:フィスコ