ワコム Research Memo(5):2025年3月期の業績予想を据え置き、増収増益を確保する見通し
■ワコム<6727>の業績見通し
1. 2025年3月期の業績見通し
2025年3月期の連結業績予想について同社は、期初予想を据え置き、売上高を前期比1.0%増の120,000百万円、営業利益を同20.4%増の8,500百万円、経常利益を同13.7%減の8,500百万円、親会社株主に帰属する当期純利益を同35.9%増の6,200百万円と、増収増益(経常利益を除く)を見込んでいる。
売上高は、期初の前提では部材調達・生産の余剰に起因する負の遺産の整理に一定の目処がついた「ブランド製品事業」が、構造的な市場環境の変化に対応すべく、2026年3月期の黒字化を見据えたさらなる構造改革を進めながら増収を確保する想定となっている。「テクノロジーソリューション事業」については前期とほぼ同水準を見込んでいる。
上期実績を振り返ると、「ブランド製品事業」の苦戦が続く一方、「テクノロジーソリューション事業」が円安効果も含めて大きく伸長しており、期初時点の前提との入り繰りが見られる。そのような状況で期初予想を据え置いたのは、下期において「ブランド製品事業」の巻き返し(市場浸透)を図ることに加え、「テクノロジーソリューション事業」についてはOEM提供先の市場環境を慎重に判断したことが背景にある。加えて売上高全体では通期予想に対しておおむね順調に進捗していることも、期初予想を据え置く判断材料になったと考えられる。
損益面では、積極的な研究開発投資を継続する方針の下、2024年3月期までの利益を圧迫してきた「一時的な費用」※1の解消や構造改革(粗利改善やコスト最適化等)により「ブランド製品事業」の損失幅が縮小し営業増益に寄与する想定であり、その点は期初時点の前提に変更はない。また、経常利益が減益となるのは上期業績と同様に為替差益(29億円)のはく落によるものであるが、2024年3月期に計上された特別損失※2がなくなることで、親会社株主に帰属する当期純利益では大幅な増益を確保する見通しである。一方で、同社は「ブランド製品事業」の2026年3月期の利益水準を20億円以上改善するために推し進める構造改革に関連して、海外拠点を中心とした人員削減や社内システムの最適化に伴い、2025年3月期において特別損失を計上する可能性があることも留意が必要であろう。
※1 2024年3月期においては、市場環境の急激な変化に起因する買付契約評価引当金並びに棚卸資産評価損に係る「一時的な費用」(粗利悪化要因)として合計(純額)22億円を計上した。
※2 「ブランド製品事業」での長期買付契約に係る余剰部材の処理を目的とする一部サプライヤーとの和解金25億円のほか、「ブランド製品事業」に係る固定資産の減損処理9億円、事業構造改善費用6億円の計上に伴うもの。
(1) ブランド製品事業
売上高は前期比3.5%増の35,000百万円、セグメント損失は2,000百万円(前期は4,520百万円の損失)を見込んでいる。アップデートした商品ポートフォリオ群の市場浸透を図るものの、市場環境の変化等を判断し、わずかな増収に留まる想定である。損益面では、2024年3月期までの「一時的な費用」の解消や現在認識可能な構造改革効果を前提に、損失幅の縮小を見込んでいる。次期中期経営方針(Wacom Chapter 4)の初年度(2026年3月期)での黒字転換に向けて、構造改革をさらに進める考えだ。
(2) テクノロジーソリューション事業
売上高は前期比横ばいの85,000百万円、セグメント利益は同2.9%減の16,000百万円を見込んでいる。売上高はOEM提供先の動向を慎重に見極めるため、現時点では2024年3月期と同水準を想定している。損益面では、2024年3月期までの「一時的な費用」が解消する一方、将来に向けた積極的な研究開発投資の継続によりわずかな減益を見込んでいる。
2. 弊社の注目点
通期予想の達成のためには、下期で売上高62,685百万円、営業利益3,025百万円を達成する必要がある。引き続き為替相場の動向や先行き不透明な経済情勢による影響には注意が必要であるが、下期は年末商戦を迎えること、保守的に見ている「テクノロジーソリューション事業」の伸びなどを勘案すれば、十分に達成可能な水準と言える。「ブランド製品事業」の販売面での出遅れは気になるが、2024年3月期にリリースした新製品の市場浸透に加え、新ユースケース「Wacom Movink 13」の立ち上がりや市場の反応にも注目したい。
もっとも最大のイシューは、次のWacom Chapter 4に向けて「ブランド製品事業」の構造改革プランをいかに仕上げていくのか、である。同社では、2024年3月期と2025年3月期を「事業構造変革期間」と位置付けており、前期までに部材調達・生産の余剰に起因する在庫の整理に目途を付け、2025年3月期は人員ポジションや社内システムといったオペレーション関連の整理を中心とする抜本的な改革を進める。加えて20億円以上の費用削減効果を2026年3月期に実現するための追加施策を、2025年3月期中に実施する予定で、その動向を見守る必要がある。この追加施策の実行に関連して一時的な追加費用が計上する可能性はある。しかし弊社では、同社が次のステージへ進むに当たって筋肉質な収益体質への転換を図ることはもちろん、組織規模やオペレーションの最適化、販路マネジメント及び研究開発体制の在り方を環境変化に合わせてブラッシュアップすることは、新たな価値創出やビジネスモデルの進化を実現するために必要なプロセスであると捉えている。したがって業績面での成果だけでなく、「ペンとインクの統合体験」の提供や「プラットフォーム」の立ち上げに向けて体制をどのように構築していくのか、そうした観点から構造改革プランの進捗をフォローすべきであろう。今後もボリュームゾーンにおいては厳しい状況が続くことが予想されるが、同社がターゲットに定めた3つの市場ドメイン(デジタルコンテンツ制作、教育DX、ワークフローDX)においてポテンシャルが各方面で広がっており、2025年5月に公表予定のWacom Chapter 4(最終案)においてどのような未来像が示されるかが待たれる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
《HN》
提供:フィスコ