アイナボHD Research Memo(2):主力事業は外壁工事と住設工事。管理体制の徹底で財務基盤は強固
■事業概要
1. 事業内容
2023年9月期末現在、純粋持株会社であるアイナボホールディングス<7539>の下に連結子会社7社、非連結子会社6社を擁してグループを形成している。事業セグメントは戸建住宅事業と大型物件事業で、受注先(受注金額)の規模によって分けられている。工事内容はほぼ同じである。前者は主に一般住宅用の工事で、中小ゼネコンや一般工務店などからの受注であるのに対して、後者は主に大手ゼネコン等からの受注である。各セグメントの売上高(2023年9月期)は、戸建住宅事業73,545百万円(売上比率85.4%)、大型物件事業12,540百万円(同14.6%)、また営業利益は、戸建住宅事業2,830百万円、大型物件事業569百万円である。
戸建住宅事業はサブセグメントとして外壁工事、住設工事、建材販売、住設販売があり、大型物件事業はサブセグメントとしてタイル販売・工事、住設販売・工事に分けられている。それぞれのサブセグメントの総売上高に対する比率(2023年9月期)は、戸建住宅事業の外壁工事が20.0%、住設工事が25.4%、建材販売が18.8%、住設販売が21.2%、大型物件事業のタイル販売・工事が4.2%、住設販売・工事が10.4%となっている。
2. セグメント及びサブセグメントの概要
(1) 戸建住宅事業
主に地場の中小ゼネコンや工務店、ハウスメーカーやビルダーから受注する案件※を主に扱っている。施主からの直接受注は少ない。
※工事に伴うタイル資材や住設機器の販売高はそれぞれの工事部門に含まれている。
a) 外壁工事
一般住宅や小型マンション、店舗等の内外壁タイル、床タイル、エクステリア等の工事を行っている。タイルだけでなく、サイディングなど様々な素材に対応している。
b) 住設工事
主にシステムキッチン、バス、トイレ等の水回りや各種リフォーム工事、太陽光発電システムの設置工事等を行っている。基本的には外壁工事とは別受注となるが、案件によっては同時に受注する場合もある。バスルームの工事件数は年間2万件近くに上り、業界では最大手クラスとなっている。
c) 建材販売
一般住宅や中小マンション、店舗向けの各種建材の卸売を行っている。タイル建材の販売が比較的多い。主な販売先は工務店や地場のハウスビルダーなどで、二次卸業者への販売は行っていない。
d) 住設販売
建材販売と同様に工務店や地場のハウスビルダーなどへ住設機器の販売を行っている。
(2) 大型物件事業
工事内容は戸建住宅事業とほぼ同じであるが、大手ゼネコンを受注先とする大型物件(ビル、マンション等)を扱っている。大林組<1802>、(株)鴻池組、長谷工コーポレーション<1808>からの受注が比較的多い。
a) タイル販売・工事
内外装タイル、床タイル、石材の販売及び工事などを行っている。
b) 住設販売・工事
システムキッチン等の・マンション住宅設備やビル空調設備などの販売及び工事を行っている。
3. 主な仕入先と販売先
同社の得意先は大手ゼネコンを筆頭に約7,000社に上る。これらの顧客が常に稼働しているわけではない。また1件当たりの金額も数百万円から1億円以上と様々であるため、未収入金管理が経営上の重要な要素となる。
主な仕入先は、建材や住設機器ではLIXIL<5938>が最も多く、そのほかにTOTO<5332>、リンナイ<5947>、クリナップ<7955>、大建工業(株)などがある。
また工事を行う下請け業者は大小合わせて2,000社近くになるが、この内半数近くは同社専業の下請け業者である。
4. 競合、特色、強み
同社のように外壁工事や建材・住設機器の販売を行っている企業は数多くあり、それぞれの分野で多くの競合会社が存在する。事業全体において競合会社を挙げるのは簡単ではないが、あえて挙げるなら、(株)小泉、渡辺パイプ(株)だろう。ただし外壁工事の分野では、近年は施工会社が減る傾向にあり競合会社は少なくなっている。このような業界のなかで同社は、以下のような特色を生かして同業他社との差別化を図っている。
同社の特色の1つは、総合技術研修センターを有していることである。ここで多くの下請け会社に対して専門性の高い技術研修を行い、施工をサポートしている。また同社が研修を行うことで、様々な工種への対応が可能になっている。さらにこの総合技術研修センターで各現場の施工が予定どおりに進捗しているかを半年に1回チェックしており、これによって個人差による工事仕上がりのばらつきを減らしている。
自家保険制度を設けていることも同社の特色だ。これは下請け業者から出来高の一部を徴収し、これを協力会社にプールすることで、万が一下請け業者(作業員)が事故等で業務を行えなくなった場合に、協力会社で定められた規定分の所得を補償するものだ。この制度により、同社と下請け業者との信頼関係が厚くなり、職人の定着率の向上や工事の仕上がり精度の高まりにつながっていると言う。
売上管理、原価管理や工事進捗管理はどの企業でも行っていることであるが、同社の場合はこれに加えて請求管理、入金管理、その結果としての未収入金管理を徹底している。具体的には、各案件において仕入と売上を少額であっても行単位で管理し、損益計算書上の管理だけでなく貸借対照表上の管理・チェックも行っている。貸借対照表上の管理は工事の進捗状況を見ながら見極める能力が重要であり、容易なことではない。近年、建材販売を行う企業が工事施工分野に進出するケースは多いが、この未収入金管理が複雑で手間が掛かるため、多くの競合企業は工事事業から徹退している。ある意味で未収入金管理が「見えない参入障壁」になっており、同社の特色であり強みとも言えるだろう。その結果として、同社の2023年9月期末のネットキャッシュ(現金及び預金-長期・短期借入金)は9,783百万円と豊富であり、バランスシートは強固である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
《SO》
提供:フィスコ