【特集】在庫減少を反映しない原油相場はリスク要因、相場は常に正しいのか?<コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司●輸出可能な原油は着実に減少している
米エネルギー情報局(EIA)が発表する週報で、米戦略石油備蓄(SPR)を含む原油と石油製品の在庫は合計15億2635万バレルで推移し、イラン戦争が始まってからの低水準を維持している。7月に入ってから石油在庫は全体として減少が一巡しているものの、SPRを含む原油在庫は7億1215万8000バレルまで減少し、1984年以来の低水準を更新した。民間原油在庫は4億450万8000バレルまで取り崩されて、SPRとともに減少が止まらない。
4週間移動平均で、原油と石油製品の輸出量は日量1111万9000バレルまで増加したものの、5月に更新した過去最高水準からのピークアウトが鮮明である。ただ、過去最高水準からはっきりと減少しているのは原油輸出で、石油製品輸出は日量766万8000バレルまで増加し、輸出量は高止まりしている。7月のニューヨーク市場で、製油マージンである321クラックスプレッドが一時70ドル付近まで上昇し、過去最高水準を塗り替えて、その後も高水準を維持していることは、米国も含めて世界的に製品需要が強いことを示唆する。米石油製品需要の4週間移動平均は日量2031万7000バレルで底堅く推移し、エネルギー高による需要の減退は見られない。
一方、米原油輸出がピークアウトしたことは、世界の需要が弱いことを必ずしも意味しない。米製油所稼働率の4週間移動平均は96.3%と今年の最高水準に張り付いて推移しており、過去最高の製油マージンを得るために原油よりも製品の生産や輸出を優先しているといえる。ただ、上述したように輸出可能な原油在庫が減少していることは統計上明らかで、利益を最大化するために製品輸出を拡大させ、原油輸出を絞っているわけではなさそうだ。
米国内の製油マージンが過去最高水準で推移していることは、世界的な製品不足を示唆する。イランやイエメンのフーシ派によってホルムズ海峡や紅海が封鎖されて原油や石油製品の供給不足は明らかで、世界最大の米石油産業はフル稼働で対応している。ただ、ウクライナ軍が絶え間なくロシアの石油関連施設を攻撃し、カザフスタンの生産も半減するなど、米石油産業がいくら稼働率を高めたところで需要を埋め合わせるのは不可能である。
●指標原油は石油在庫の減少を全く反映していない
EIA週報で全体として石油在庫の減少は一巡しているが、ホルムズ海峡を巡る米国とイランの対立は早期に解消されそうにない。石油在庫はいつまで取り崩すことが可能なのだろうか。製油所や備蓄施設、パイプラインや輸出設備など石油システムは稼働するために内部に石油在庫をとどめておく必要があり、統計上は存在が明らかでも利用不可能な在庫がかなり含まれているため、EIA週報で示されているような供給可能日数は当てにならない。世界経済は石油在庫の取り崩しでなんとか日常を維持しているものの、石油システムの限界は着実に迫っている。
ブレント原油やニューヨーク市場のウエスト・テキサス・インターミィディエイト(WTI)先物など指標原油はイラン戦争の開始当初よりも落ち着いた推移となっており、石油在庫の減少傾向を全く反映していない。取り崩し可能な石油在庫がいずれ尽きるにも関わらず、世界経済に警鐘を鳴らす役割を果たしていない。原油相場は危機を知らせようとしているのかもしれないが、石油価格を抑制しようとするトランプ米大統領の発言や報道によって上振れが限定されている。金融市場は認識すべき危機を察知できていない可能性が高く、リスクが現実となった場合の損害は大きくなりやすい。「相場が常に正しい」と考えるのは楽観的である。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)【コモディティ特集の次回配信は8月19日を予定】
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