【市況】S&P500 月例レポート ― 9月下落で市場は悪材料を織り込む? (2) ―
●主なポイント
○FRBの「政策金利を長期間にわたって高水準に維持する」という政策運営方針が市場に浸透したため、株式市場は新たに認識した環境下で再び調整局面入りして、9月の株式市場は8月に続いて値を下げ、下げ幅も拡大しました。住宅関連指標は引き続き需要低迷と供給鈍化を示しました。住宅価格はすでに高水準にあり、住宅ローン金利の上昇も続いています。消費支出に対する懸念も強まり、(パンデミックに起因する)「過剰」貯蓄は底をつき、消費者は多額の消費を続けたいのであれば、クレジットカードの残高を膨らませるほかはない状況にあります。政府もまた不透明感の醸成に一役買っており、政府機関は2023年10月1日から閉鎖される状況となりました。
○9月の主なデータ
⇒株式市場は、市場の月間ベースでの連続上昇が5ヵ月で止まった後に(累積で15.59%上昇)、2ヵ月連続で全面安の展開となりました(9月は4.87%下落、8月は1.77%下落)。9月は20営業日のうち11日で下落しました。また、11セクターのうち10セクターが下落し、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回りました(値上がり銘柄数は7月の362銘柄、8月の153銘柄に対し、9月は74銘柄でした)。9月の出来高は前月比3%減、前年同月比では17%減となりました。
→9月は8月と同様に11セクターのうち10セクターが下落しました(6月と7月は11セクター全てが上昇しました)。9月の上昇率が最も高かったのはエネルギーとなり、2.47%上昇しました(年初来の上昇率は3.25%、2021年末比では64.21%上昇)。パフォーマンスが最低となったのが不動産で7.82%下落しました(年初来の下落率は7.98%、2021年末比では34.16%下落)。
→月末時点で11銘柄が52週高値から2%以内にあり(8月は69銘柄、7月は87銘柄)、52週高値で月を終えた銘柄はゼロでした(8月は26銘柄、7月は32銘柄)。
⇒S&P500指数は9月に4.87%下落して4288.05で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス4.77%)。8月は4507.66で終え、1.77%の下落(同マイナス1.59%)、7月は4588.96で終え、3.11%の上昇でした(同プラス3.21%)。過去3ヵ月では3.65%の下落(同マイナス3.27%)、年初来では11.68%の上昇(同プラス13.07%)、過去1年では19.59%の上昇(同プラス21.62%)でした。
→バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の大統領選挙以降では27.27%の上昇(同プラス33.25%)でしたが、2021年1月20日の就任以降では11.32%の上昇(同プラス16.12%)でした。
→重要な相場の節目を起点とした騰落率:シリコンバレー銀行破綻前の2023年3月8日からは7.42%の上昇(同プラス8.40%で、金融セクターは4.77%の下落)、2022年1月3日の終値での最高値からは10.60%の下落(同マイナス8.00%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは26.63%の上昇(同プラス34.27%)でした。
○ダウ平均の騰落率は、9月は8月から相対的には改善し、S&P500指数をアウトパフォームしました。とはいえ、騰落率は3.50%の下落(配当込みのトータルリターンはマイナス3.42%)でした。なお、S&P500指数の9月騰落率は4.87%の下落でした。年初来ではダウ平均はS&P500指数に大きく出遅れており、S&P500指数が11.68%上昇したのに対し、1.09%の上昇(同プラス2.73%)となっています。両者のパフォーマンスの乖離は、指数算出方法の違いに起因しています(ダウ平均は平均株価の指数化、S&P500指数は時価総額の加重平均の指数化)。両指数は歴史的には似たような動きを示しますが、短期間では異なる動きを見せることがあります。
○米国10年国債利回りは、8月末の4.11%から4.58%に上昇して月末を迎えました(2022年末は3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは、8月末の4.21%から4.71%に上昇して取引を終えました(同3.97%、同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは8月末の1ポンド=1.2672ドルから1.2202ドルに下落し(同1.2099ドル、同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは8月末の1ユーロ=1.0842ドルから1.0576ドルに下落しました(同1.0703ドル、同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は8月末の1ドル=145.51円から149.38円に下落し(同132.21円、同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は8月末の1ドル=7.2583元から7.2952元に下落しました(同6.9683元、同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
○9月末の原油価格は8.8%上昇し、8月末の1バレル=83.57ドルから同90.89ドルとなりました(2022年末は同79.35ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は9月に0.8%上昇しました(9月末は1ガロン=3.963ドル、8月末は同3.931ドル、2022年末は同3.203ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は87.7%上昇し(2020年末は1バレル=48.42ドル)、ガソリン価格は70.1%上昇しました(2020年末は1ガロン=2.330ドル)。
⇒2023年8月時点のEIAの報告によると、ガソリン価格の内訳は、50%が原油(7月は50%、6月は47%、5月は49%、4月は51%、3月は50%、2月は53%、1月は55%)、13%が連邦税および州税(同14%、同14%、同14%、同14%、同15%、同15%、同15%)、11%が販売・マーケティング費(同11%、同14%、同15%、同12%、同11%、同13%、同10%)、そして25%が精製コストおよび利益(同25%、同24%、同21%、同23%、同24%、同20%、同20%)となっています。
○金価格は8月末の1トロイオンス=1966.50ドルから下落し1864.80ドルで9月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は8月末の13.57から17.52に上昇して8月を終えました。月中の最高は21.33、最低は15.53でした(2022年末は21.67、2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12)。
⇒同指数の2022年の最高は38.89、最低は16.34でした。
⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。
⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。
○市場関係者のS&P500指数の1年後の目標値は引き続き楽観的で、11ヵ月連続で小幅に上昇しており(それ以前は9ヵ月連続で低下)、現在値から19.8%上昇の5135となっています(前月は13.9%上昇の5123)。7月末時点の目標値は4990でした。ダウ平均の目標値は3ヵ月連続で上昇し、現在値から17.1%上昇の3万9354ドルとなっています(前月は13.0%上昇)。なお、6月末時点で目標値は若干低下していました(ただし、5月までは7ヵ月連続で上昇)。なお、8月末時点の目標値は3万9226ドル、7月末時点の目標値は3万8516ドルでした。
●銀行セクター
○ファースト・リパブリック銀行の救済のために米連邦預金保険公社(FDIC)がFRBから借り入れた額は500億ドルとなりました。
○米銀の預金残高は2023年上半期に年率換算で8716億ドル減少して17兆2690億ドルになり、1994年の統計開始以降で初めて減少しました。
●石油・ガス
○報道によると、サウジアラビアのアラムコは過去最大規模となる500億ドルの株式売り出しを(再び)検討しています。
○サウジアラビアとロシアは、合計で日量130万バレル(サウジアラビアが100万バレル、ロシアが30万バレル)の減産を年末まで継続すると発表しました。両国は8月に減産を実行し、その後9月まで延長されていました。1ヵ月の延長が予想されていたために、今回の発表はサプライズであり、またサウジアラビアとロシアの協調を示すという点で懸念されます。
●バイデン政権と政治
○米国の公的債務残高が初めて33兆ドルに達しました(参考までに、S&P500指数の時価総額は37兆ドルです)。
○ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、政府機関が閉鎖された場合、米国債のAAA格付けに悪影響が及ぶ可能性があると警告しました。フィッチ・レーティングスは先ごろ、米国債の格付けをAAAからAA+に引き下げ、S&Pグローバル・レーティングスは2011年に同様の格下げを実施しています。
○米国10年国債利回りは4.68%となり、2007年10月以来の高水準を付けました。
●新型コロナウイルス関連
○米国内国歳入庁(IRS)は、新型コロナウイルス対策として導入されたERCの新規の申請処理を、少なくとも2024年まで停止する予定です。ERCは、2000年3月~2021年12月の期間を対象に、従業員1人当たり最大2万6000ドルの控除を受けることができます。申請処理の停止を決めた背景には、大規模な不正が認められたことがあり(不正問題については主要メディアも報じています)、現在手続き中の60万件を超える申請について見直しを行うとのことです(ERCの申請件数はこれまでに360万件に達しています)。7月の還付額は296億ドルであり、パンデミック期間中の2021年4月には2850億ドルに達していました。
●各国中央銀行の動き(および関連ニュース)
○カナダ銀行(中央銀行)は金融政策決定会合を開き、政策金利を5.0%に据え置きました。過去2回(6月と7月)の会合では、それぞれ0.25%ずつ金利を引き上げました。
○FRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)では、個人消費と雇用の減速により、7月と8月に経済成長が鈍化したことが明らかになりました。
○欧州中央銀行(ECB)は、政策金利を0.25%引き上げて4.0%としました。これで10会合連続の利上げとなり、同行は利上げを停止する水準に達した可能性があるとの見方を示しました。
○FOMCが開かれ、大方の予想通り(先物市場の予想では99%の確率)、金利は5.25~5.50%で据え置かれ、年内にさらに1回の追加利上げが行われる可能性が示唆されました。メンバーの金利予想を示すドットチャートは、景気見通しに変化が見られることを示しています。2023年末時点の金利見通しは5.6%で変わらず(あと1回の0.25%利上げを意味します)、「高金利の長期継続」というFRBのスタンスが数値で示されました。2024年の金利見通しは3月時点の4.3%や6月時点の4.6%から今回は5.1%に上昇し、これは2024年の利下げ予想が4回から2回に引き下げられたことを意味します。FRBはGDP成長率予想を2023年は2.1%(6月時点は1.0%)、2024年は1.5%(同1.1%)に引き上げ、失業率予想は前回予想の4.1%から3.8%に引き下げました(3月時点は4.5%)。
○イングランド銀行は金利を5.25%で据え置き、2021年12月(当時の政策金利は0.1%)から続いていた連続利上げは14回で止まりました。金利据え置きをめぐる投票結果は賛成5人、反対4人で、反対した4人は0.25%の利上げを支持していました。
○日銀は予想通り、短期金利をマイナス0.1%の低水準に据え置きました。
※「9月下落で市場は悪材料を織り込む? (3)」へ続く
株探ニュース