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【市況】見方分かれるユーロ圏【フィスコ・コラム】


世界的な景気減速が懸念される2023年がスタートし、3週間が経過。世界銀行がユーロ圏の経済成長率見通しを下方修正した一方で、インフレ鈍化により楽観的な見方も出始めました。目先については交易関係の深い中国の経済とエネルギー価格の動向がカギを握るでしょう。


ユーロ・ドル相場は昨年9月の0.9535ドルを大底に回復基調を維持し、足元は2022年4月以来の1.10ドルを目指す展開です。この4カ月弱で15%近くも水準を切り上ました。米インフレのピークアウトが鮮明となり、連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めペース鈍化の思惑からドル売りがユーロを押し上げました。最近では、ユーロ圏経済への楽観的な見方がユーロ買いを惹き付けている状況です。


世界銀行が年明けに公表した成長見通しのうち、ユーロ圏は半年前の+1.9%からゼロ%に下方修正されました。確かにユーロ圏の経済指標では、全般的に景況感は悪化し、回復には程遠いように思えます。半面、消費者物価指数(HCPI)は直近で10%を割り込み、生産者物価指数(PPI)は30%を下回る水準にまで低下しました。物価上昇率が鈍化すればスタグフレーションへの懸念も後退し、消費の回復が見込まれます。


欧州委員会はインフレ鈍化を理由に2023年の成長率について+0.3%の確保に自信をみせています。米ゴールドマン・サックスもほぼ同様の見解で、ユーロ圏はリセッションを回避できるとの見方を強め、域内の成長を+0.6%と予測。一方、欧州中央銀行(ECB)当局者は引き締めになお積極的です。そうした背景からユーロはドルだけでなくポンドやスイスフランに対しても値を切り上げました。


ユーロ圏は持ち直したと言い切れないものの、3カ月前に比べれば期待を持てる状況にはなりつつあります。目先注目されるのは中国の経済情勢でしょう。10-12月期国内総生産(GDP)は急減速を回避したものの、政府目標の達成には程遠いものとなりました。習政権はコロナまん延に厳しい制限措置を実施し、経済活動が縮小したことが背景にあります。ただ、国民の強い反発で制限を撤廃したことで足元では回復への期待感が浮上しています。


もう1つはエネルギー価格。NY原油先物(WTI)はウクライナ戦争で昨年6月に1バレル=120ドル台に上昇しましたが、世界的な景気減速懸念で結局1年前の水準に値を下げています。欧州でも予想外の暖冬により天然ガスの貯蓄が高水準に維持され、エネルギー危機への警戒感は後退しています。ただ、中長期目線では依然として需給ひっ迫が意識されます。エネルギー市場に関する欧米と非欧米の分断という構造問題が域内経済の一段の回復を抑える可能性には注意が必要でしょう。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《YN》

 提供:フィスコ

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