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【特集】小産油国カザフスタンが示唆する石油市場の切実な問題 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 米エネルギー情報局(EIA)の週報によると、 原油と製品の在庫を足し合わせた石油在庫は減少傾向にある。戦略石油備蓄(SPR)を除く米石油在庫は節目の12億バレルを下回っており、2018年以来の低水準で推移している。世界最大の石油消費国である米国の在庫減が示唆するのは、経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫の減少である。

 中国やインドなど消費大国の在庫が含まれていないという欠点はあるものの、この商業在庫は世界的な石油在庫の指針である。引き締まれば相場上昇を示唆する。昨年末、新型コロナウイルスのオミクロン株の発見によって需要下振れ懸念が強まり、一時的に供給過剰が意識されたが、米国の在庫推移からすると杞憂だったのではないか。供給不足が続いている可能性が高い。

 先週、石油輸出国機構(OPEC)プラスの参加国であるカザフスタンにおける国内情勢の緊迫化が相場を押し上げた。燃料価格の引き上げに対する抗議デモが暴徒化し、ロシアが派兵する事態となった。カザフスタン政府は銃器の使用を許可するなど鎮圧に躍起だが、未だに沈静化していない。燃料価格の上昇に不満を抱かない市民はいない。

●小規模産油国の情勢が相場を左右する事態に

 カザフスタンの生産量は日量160万バレル程度である。日量1000万バレル超の米国、ロシア、サウジアラビアなどと比較するとわずかであるが、世界的に石油需要が回復する一方、供給の伸びは十分ではない。そのため、カザフスタンのような小規模な産油国が多少減産しただけでも需給バランスをさらに供給不足へ傾けるリスクがある。OPEC加盟国の赤道ギニアの生産量は日量10万バレル程度で、これほど生産量が乏しい国の減産が材料視される未来が来るとは思えないが、アンゴラ、アルジェリア、ベネズエラ、カザフスタンなど小規模な産油国の情勢に目を向けなければならないほど供給不足が切実な問題となりつつある。

 新型コロナウイルスのオミクロン株は主要国で爆発的に感染拡大しているが、日本のように規制を強める国は一部である。新型コロナウイルスは変異を繰り返して弱毒化した結果、風邪のような症状となったことから、以前のような警戒感はなく、石油需要の下振れ懸念はほぼ払拭されたのではないか。

 やや楽観的な需要見通しに対して、供給は潤沢ではなく、常に供給不足を警戒しなければならない。世界経済が脱炭素社会へ向かっているなかで石油産業は衰退を始めており、投資が後退していることから増産余力の拡大は期待できない。また、カザフスタンの事例が示すようにエネルギー価格の上昇で生活が圧迫されているのは産油国も同じである。原油高によって人々の可処分所得は目減りしており、エネルギー高に無策である政府に対して国民の不満は高まる。世界経済が石油に依存しなくなっていくならば、産油国は貧しくなっていく可能性が高い。

 抗議デモの頻発などによって石油生産が不安定化するリスクは計り知れない。これまで目を向けられることもなかった小規模な産油国の動向も相場を大いに刺激する局面に入ったのではないか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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