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【特集】サンワテクノス Research Memo(6):脱炭素社会の実現、サプライチェーンリスク高まりを商機に成長目指す(1)

サンワテク <日足> 「株探」多機能チャートより

■中期経営計画の進捗状況

2. 基本方針の進捗状況について
(1) 『コアビジネスの強化で顧客のものづくりに貢献する』の進捗状況
中期経営計画で掲げられた4つの基本方針のうち、「コアビジネスの強化でお客様のものづくりに貢献する」というテーマは、サンワテクノス<8137>の成長戦略の中でも最も重要な施策と位置付けられる。なかでも、注力しているのがエンジニアリング事業とグローバルSCMソリューション事業の2つの事業で、いずれも売上規模としてはまだ100億円前後だが、今後の売上規模の拡大と収益性向上を実現していくうえで重要な事業と位置付けている。それぞれの事業の進捗については以下のとおりとなっている。

a) エンジニアリング事業
エンジニアリング事業とは、従来、電機部門・電子部門・機械部門の3つの領域それぞれが取扱商材を単品販売してきたものを、同社が各商材を組み合わせてシステム化し、顧客最適を行ったうえで販売する事業となる。すなわち、エンジニアリング事業とは何か別の新しい事業ではなく、商社機能における販売手法の1つである。同社が同事業に注力する背景には、産業用ロボット等のFA機器の高機能化が進展し、また、需要先のニーズもそれに応じて多様化するなかで、個々の商材を単品販売するだけではこうしたニーズに対応できないこと、また、エンジニアリングという付加価値を付けることで収益性を高めると同時に、1件当たりの受注規模を大型化していくことが狙いとなっている。

エンジニアリング事業の2022年3月期第2四半期累計の売上高は、コロナ禍の影響もあって約42億円と前年同期から若干減少した。通期でも前期の約95億円から減少する見込みとなっている。2020年3月期までは120億円台の売上高で推移していたが、収益性を重視した営業戦略にシフトしたことに加えコロナ禍により営業活動が制限されたことが影響している。エンジニアリング事業ではその特性上顧客との詳細な打ち合わせが必要であり、集客の場として東京テクニカルセンターを2020年に開設したが、コロナ禍が続くなかで集客が思うように進まなかった。今後対面での営業活動が増えてくれば受注案件も増えてくるものと予想される。なお、商談事例としては半導体関連業界向けの基板穴あけ装置の制御盤やライン増速改造案件、自動車業界向け組立ライン改造や部品搬送ライン案件、製紙業界向けの検査装置更新案件などがある。今後は省人化対策としての自動搬送ロボットや省エネ関連システムの導入、IoT/ローカル5G技術を活用したスマートファクトリー対応設備などの需要増加が見込まれる。特に省エネルギー対策ソリューションでは、技術商社としての強みを生かして、機器装置だけでなくLED照明など各種付帯設備も含めたトータルな導入提案が可能なことから、SDGsに取り組む企業が増えるなかで受注拡大の好機になると弊社では見ている。

エンジニアリング事業の売上総利益率について見ると、2022年3月期第2四半期累計で14%弱と全社の売上総利益率12.3%を上回っているものの、同事業で当初目標としていた売上総利益率は25~30%であり、現時点ではまだ乖離が大きい。これは、同社が過去の知識・経験を生かして顧客提案する案件がまだ少なく、顧客からの注文を受ける形での案件が大半を占めているため、本来の付加価値部分の対価が十分得られていないことが要因と考えられる。

同社のエンジニアリング事業についてはこれまで、カレーになぞらえて説明してきた。すなわち、従来は肉と野菜と米を素材のまま個々に販売していた(代理店事業)のに対し、それぞれの食材を用いてカレーライスとして販売しようというのがエンジニアリング事業であり、カレールーの製作作業と味付けが同社のノウハウであり付加価値部分となる。しかし、現状は同社のレシピでカレーを作って顧客に提供するのではなく、毎回顧客の好みに合わせてカレーライスを作っている状況に近く、それがゆえにコスト部分にかかる対価を得にくく利益率が十分に取れない要因となっている。

こうした状況を打破するため、同社は2020年3月期以降、採算性重視の営業方針に切り替えた。もう一段の利益率向上に向けては、同社が蓄積したノウハウをいかに標準化したサービスとして顧客に提供していく体制を構築できるかがカギを握る。前述したように、今後は脱炭素社会の実現に向けて省エネルギー化に積極的に取り組む企業が増加すると予想されるなかで、システム化に伴う全体最適化のニーズもより一層高まり、顧客獲得の機会も広がることが予想される。顧客ニーズを満たしたうえでコストメリットを感じられるサービスを提供できるようになれば、エンジニアリング事業の売上拡大と同時に収益性も向上していくものと予想される。特に高い収益性が見込まれる大型案件の受注が増加すれば、売上総利益率で25~30%の達成も視野に入ってくる。なお同事業におけるエンジニアの人員は50名程度となっており、当面はこの人員体制で事業を拡大していく方針だ。

b) グローバルSCMソリューション事業
グローバルSCMソリューション事業は、同社が以前から行ってきた調達代行や物流代行、納期管理といったサービスがルーツとなっている。同社の主要取引先のメーカー各社は大手企業ほど効率化を追求し、事業構造改革の名のもとにスリム化を行ってきた。その過程でグローバル物流や在庫管理、資材調達等の分野も人員・拠点の削減対象となり、人材が不足している状況となっている。同社のグローバルSCMソリューション事業は、そうした状況で生じるアウトソーシングニーズを取り込むサービスとなる。顧客企業が今まで独自で各サプライヤーから電子部品や設備機器等を調達してきた機能を同社に集約することで、顧客は調達コストの低減やリードタイムの短縮といったメリットを享受することができる。

個人の引っ越しを例に取ると、従来の調達代行や物流代行は荷物を旧宅から新居に移動させた時点で業務完了となる。一方、グローバルSCMソリューション事業では、引っ越してすぐにテレビやパソコンが使えるよう、アンテナやWi-Fi機器を調達し設置するところまでカバーする。さらに、新居の地域に応じたアンテナやWi-Fi機器の選定・調達と配線の構築まで行うことがエンジニアリング事業に該当し、この引っ越しを契機に外構・植栽の整備なども併せて受注できればビジネスの拡大につながる。同社は技術商社としての長い歴史で蓄積したノウハウと海外の幅広いネットワーク(世界28拠点)を強みとして、顧客のアウトソーシングニーズに対応し、グローバルSCMソリューション事業の規模拡大を目指している。

2022年3月期第2四半期累計の売上高は約60億円と前年同期比で2ケタ増となった。部材調達や物流のアウトソーシングニーズが高まっていることに加えて、昨今の半導体をはじめとする部材不足の深刻化によって、これらを安定的に調達するために同社サービスに対する引き合いが今まで以上に強まっていることが背景にある。2022年3月期の売上計画は期初計画の約115億円から約120億円に上方修正したが、足元の受注状況からすると上振れする可能性が高まっている。

具体的な商談事例としては、放送機器メーカーの中国工場からベトナム工場への移行案件(2億円/年)、サーボモーターメーカーの米国工場へのSCM案件(3億円/年)などの実績があり、商談案件として医療機器メーカーの中国工場へのSCM案件(2.4億円/年)、半導体検査装置メーカーのマレーシア現地生産に伴う現地調達課案件(3億円/年)、産業加工用レーザー機器メーカーの中国工場へのSCM案件(1億円/年)、DCモーターメーカーのフィリピン工場での現地調達化案件(2億円/年)などがある。

グローバルSCMのアウトソーシングニーズについては、コロナ禍で事業リスク低減を図るための生産拠点の分散化の動きが進むと同時にSCM機能の重要性が増すことによって、今まで以上に引き合いが増加するものと予想される。顧客企業にとっては単独でSCMシステムを構築するよりも、外部の専門事業者に委託したほうが事業リスクの低減を図れると同時に、コストメリットも享受できるためだ。同社から見れば、既存顧客との取引規模拡大につながるだけでなく、新規顧客獲得の好機ともなる。なお、SCMサービスにおける競争力を強化するため、事業部の発足と同時にグローバル物流インフラの見直しと改善活動を開始している。その一環としてWMS(倉庫管理システム)の本格運用を開始しており、案件ごとの物流コスト可視化を実現することで、収益性の維持向上を図っている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

《EY》

 提供:フィスコ

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