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【市況】カナダドルの攻防【フィスコ・コラム】


カナダドルが対ドルで2015年以来の上値抵抗線の突破に失敗し、その後失速しています。足元の不安定な原油相場が重石のようです。ただ、新型コロナウイルス向けワクチン接種の進展や中央銀行の引き締め方針で、カナダドルの再浮上も想定されます。


カナダドルは昨年3月のコロナ危機で1.46ドル台まで下落後、米連邦準備理事会(FRB)の緩和政策を受けたドル安により反転しました。その後は上昇トレンドを形成し、今年6月には心理的節目の1.20ドル付近まで切り返します。しかし、同水準は2015年からレジスタンスラインとして機能し、この時も一段の上昇を阻止。その後は上値の重さを嫌気した売りに押され、7月に入っても軟調地合いが続きます。


それまでカナダドルを支えてきた主な要因は、ドル安と原油高でしょう。特に、原油はコロナ禍からの世界経済の回復に伴い需要が持ち直し、NY原油先物(WTI)は昨年3月の1バレル=57ドル台から今年7月までに20ドル程度、30%超も上昇しています。足元はやや不安定ながら、各国の経済正常化が進むなかWTIが80ドルを目指す展開となれば、引き続きカナダドルを押し上げる可能性があります。


もう1つはワクチン接種の進ちょくです。統計によると、7月20日現在、カナダ国内でワクチンの必要回数以上の接種者は1910万人となっており、全人口の半数を超えています。隣国アメリカを上回る、世界トップレベルです。同国のトルドー首相はそれを受け、9月にも接種済みの渡航者を受け入れる方針。「ワクチン接種の進展=買い」との市場の定石通り、株高・債券高・カナダドル高に振れています。


カナダ経済の好循環で、金融政策も緩和から引き締めに向かっています。7月14日の定例会合では、政策金利の翌日物貸出金利を予想どおり0.25%に維持。同時に、政府債の買い入れを3割程度削減する方針を示しました。消費者物価指数(CPI)は今年4-5月に中銀目標である3%を大きく上回っています。年末にかけて伸びの鈍化が予想されていたものの、供給の制約が長期化すれば足元のインフレ高進は一時的にとどまらないでしょう。


利上げに関しては、従来どおり早くても来年後半以降の見通しですが、金融緩和縮小のペースを加速させる必要も当局者は指摘しています。株式市場にとっては売り材料になる反面、カナダドルの買い材料となり、なお上昇基調を支えそうです。今後もインフレや利上げ観測を手がかりに、カナダドルは足元の1.25ドル台から再び1.20ドルを目指す可能性もあります。


注目されるのは、やはり原油の値動きです。米NY株式市場は強気相場が続き、飽和状態のマネーが株式から原油に流入し急騰すれば、2008年のリーマンショック前のような混乱も警戒されます。一方、産油国は協調減産の縮小で合意したものの、イランの核合意で制裁が解除されれば需給は崩れ、相場は軟調地合いに振れやすくなるでしょう。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《YN》

 提供:フィスコ

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