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【経済】【IR】SREホールディングス創業者 西山和良社長に聞く

TOP INTERVIEW

リアル×テクノロジーで不動産DXトップランナーへ

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世界市場で活躍するITテック企業といえば、Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を取った「GAFA」という呼び名が知られているが、不動産テックの世界にも「ZORC」という言葉がある。デジタルテクノロジーを駆使して不動産業界のDXを先導するZillow、Opendoor、Redfin、Compassの頭文字をつなげたものだ。

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国内にも様々な不動産テック企業が存在するが、世界との差はまだ大きい。政府も推進に向けたガイドラインを策定するなど、官民を挙げたDXは課題となっている。そんな中、不動産とAI、双方のシナジーを活かし、独自のポジショニングを確立し注目されているのが、SREホールディングス<2980>だ。

今回は独自の視点をもって、注目される同社の西山和良社長に今後のマーケットの拡張性および同社が狙う成長戦略についてインタビューを実施。同社が強みとするデジタルテクノロジーを活用し、不動産業界のDX改革の先駆者になれるかどうかに注目したい。

SREホールディングス株式会社
 代表取締役社長 西山和良
2003年7月ソニー株式会社入社
2007年4月同社ケミカル&エナジー事業本部・事業戦略室長
2012年4月同社コーポレート企画推進部門・担当部長
2014年2月同社SRE事業準備室長
2014年4月ソニー不動産株式会社(現SREホールディングス)設立  
代表取締役社長(現任)
2018年10月SRE AI Partners株式会社代表取締役社長(現任)
2019年12月SREホールディングス株式会社、東証マザーズ上場
2020年12月SREホールディングス株式会社、東証一部へ市場変更 


創業のねらい


――  起業の理由は?

将来のソニーグループの中核の一つになるような新しくて大きなことにチャレンジ

私は2003年にソニー<6758>に入社し、12年にコーポレート企画推進部門・担当部長を務めていました。その関係で平井さん(元ソニー代表執行役社長兼CEO、会長。現シニアアドバイザー)を始めとするトップマネジメントのサポートをしていました。その平井さんから、全社のサポートを担っていくより自分自身で、将来のソニーグループの中核の一つになるような新しくて大きなことにチャレンジした方が西山にとって価値があるのではないか、むしろそうすべきだと言われたんです。

確かに諸先輩を見ると、吉田さん(代表執行役会長兼社長CEO)はソニー社長室を自ら飛び出して社長としてソネットを上場させていますし、十時さん(代表執行役副社長兼CFO)も自ら手を挙げてソニー銀行を起こしています。ソニーの価値とはベンチャースピリットであり、新しい価値や事業を生み出そうとしていくことこそがソニーのDNAなんだと気付きをもらいました。

それに私自身、大企業の一角でいる事とは別の新しいチャレンジはできないかと考えていたこともあり、新しいソニーというとおこがましいですが、自分の手で新事業を立ち上げたいと考え、2014年にSRE事業準備室を社内で立ち上げ、数か月の準備を経てソニー不動産を創業しました。

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――  不動産市場への参入を決めた理由は?

参入市場については、下記の3つの条件から判断
『日本で大きな市場規模を持つ分野であること』
『消費者のニーズ開拓余地や、顧客体験の改善余地が存在すること』
『自社の強みを活かして消費者利益をデリバリーし、着実に成功を重ねていけること』


新しい事業を始めるときに失敗するパターンは、革新的なプロダクトを作ったら新しいニーズが生まれて新たな市場が創出され、事業が成功すると仮説に仮説をいくつも重ねて全てが実現するケースを想定してしまうことです。

それより既に存在する市場で満たされていないニーズを探して届ける方が、今ある市場の課題解決につながることから成功確率は高くなります。また、例えばですが新しいスマートフォンを作ろうとすると、日本だけでなく海外のAppleやサムスン、Googleといったグローバルジャイアントといきなり戦っていかなければなりません。そのため、グローバルマーケットではなく、まずローカルマーケットで比較的競合が少ないところから着実に成功を積み重ねていくことが重要だと考えました。グローバルジャイアントの参入可能性が少なく、日本において大きな市場規模を既に持つ分野として存在していたのが、不動産領域でした。

――  ソニー不動産からSREホールディングスへ社名変更を決意した理由は?

名は体を表す

ソニー不動産の時代は、テックを自社活用することで我々の不動産事業のオペレーション力を強め、不動産仲介のシェアを拡大して業界でイニシアチブを取る立ち位置でした。

しかし、他社のシェアを奪って我々だけが成長するのではなく、自社オペレーションの効率化や高度化の過程で磨き上げたテックをツールとして他社に提供して使ってもらった方が、Win-Winの関係になりますし、業界全体のDXを円滑に進めやすいと考えました。不動産を実業として内包し、そこを伸ばしながらも、テックソリューションを他社に提供する事業を合わせて行うという多様な事業ポートフォリオを持つなら、社名はソニー不動産ではないと思いました。

また、そこにはエムスリー<2413>の成功があります。エムスリーはご存じの通り、医療従事者を対象とした医療ポータルサイト「m3.com」のサービスを行っている企業です。ソニーの関係会社ですがソニーの名前はありません。

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エムスリー<2413>はリアル×テックで成長しており、時価総額は6兆円を超えています。

エムスリー社長の谷村さんからは時々ご自身の体験や経営上のアドバイスを頂いていますが、親会社に頼らず、独自の強みを磨き上げ資本市場において継続的な成長を実現されています。親会社に頼りたいのであれば上場せず非上場の子会社のまま残った方がよいのではないでしょうか。我々は上場を実現し資本市場において独立しようと思っていましたし、さきほどお話ししたように多様な事業を持つようになっていましたので、この機にソニーの名を外し、今のSREホールディングスという社名にすることが最も良いと考えました。


不動産業界の今


――  不動産業界の課題は?

デジタル化の遅延と業界慣習

環境面での課題は2つあると思います。1つは不動産業界に限らない日本社会全体の話かもしれませんが、デジタル化がなかなか進んでこなかったということです。2つ目は、古くからの業界慣習や法制度が長年残っており、業界外の人が学習する機会も少ないことです。

実はこの2つの課題は密接につながっています。業界慣習や法制度もあってオープンデータセットがほとんど存在していないうえに、業界外の人には馴染みのない業務なので、デジタル化のような新しい動きを取り込んでいくインセンティブが業界全体として生まれにくい状況が続いていました。

ただ、今お話した状況は、新型コロナウイルスの影響拡大と菅政権の誕生により、急速にモメンタムが変化しており、我々が得意とするテクノロジーを不動産業界に導入していく機会がいよいよ訪れたのではないかと考えています。

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――  業界に向けた解決策は?

AIの浸透が1つのキー

例えば顧客体験の改善余地の一つとして、新築神話もあるかもしれませんが、中古物件に対する十分な信頼性が醸成されていないという側面もあると思います。信頼性の付与には様々な手段があると思いますが、ひとつの手段としてAIが不動産市場に浸透することでさまざまな情報が見える化され、客観的な情報を基に意思決定がしやすくなる。

すると中古物件の流通が活発になることが期待できます。事実、当社が通常の売却相談を、従来の通り人間だけが受け付け回答する問い合わせフォームにAI査定も追加、つまり人間とAIのダブル査定をしますよという形にしたところ、問い合わせ数が50%以上増えました。他にも従来のやり方にAIを加えることで効果が得られたものが沢山出てきています。

人類はハンドリングできるテクノロジーを進化させるようになったことで飛躍的に発展してきました。火から始まり、馬、車、PC、スマホというように扱えるものを進化させています。今この時代ではAIという最新テックを上手くハンドリングする必要があります。そしてこれまで申し上げた通り、今後間違いなく不動産の分野にAIを始めとするテックの活用は広がっていくと考えられます。


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――  テック活用がもたらす世界とは?

情報のオープン化による消費者メリットの向上

紙でしか情報を見られなかった時代が終わり、Yahoo!不動産やリクルートのSUUMOのような不動産情報のポータルサイトが生まれ、消費者は店舗に行かなくとも不動産の情報を手軽にweb上で得ることができるようになりました。現在の市場動向を見ても明らかな通り、テック活用における格差の問題よりもその利便性が重要視され社会に受け入れられているといえます。今後も不動産オペレーションのデジタル化が進むことで情報がより一層オープンになっていく流れができていくと思います。

また、今後はデジタルネイティブ世代が増えます。その世代の成長とともに不動産業界もDXを進めていかざるをえないと思いますし、既に大手のいくつかの不動産会社はDXをかなり積極的に進めています。


国内・海外不動産テックプレイヤーとの比較


――  その他不動産テック企業との違いとは?

テックプロバイドビジネスの展開

不動産会社にも、自社内でテックを活用している会社は数多くあります。しかし、我々は不動産事業をやりながらテックプロバイダーとして、その知見をフルに活かしたテックツールを開発し、外部の不動産会社に加えて金融機関、電力会社など幅広い産業にそのツールを提供するテックプロバイドビジネスを展開しています。そしてそのテックプロバイドビジネスが利益の柱となっているところが他の不動産テック企業と大きく違う点で、ビジネスモデルの希少性だと考えています。


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――  後発企業の出現のリスクは?


不動産業界全体のDXの加速 > 自社の利益

今後は他にも不動産業界向けのテックプロバイダーが出てくるのではないかと思っています。そうして不動産業界のデジタル化が進んでいくことで、業界全体の生産性向上や市場拡大につながっていくと思います。

当社は不動産テック企業として、不動産取引におけるスマート化ツールを外部提供していますが、同時に1兆円近い市場規模といわれる業界横断のAIソリューション領域でも磨きをかけており、AIソリューションカンパニーとしてAIテクノロジーを活用したSaaSプロダクトやコンサルティングをさまざまな産業に提供しています。

我々の不動産仲介ビジネスが利益の柱になっていたら、ツールを外販せずにテックを自社事業の武器として囲い込んでいたかもしれません。シェアが少しでも減るのが怖くなるからです。しかし、我々の不動産仲介のボリュームはそこまで大きくはなかった。

一方で、AIを他社に積極的に提供しているプレイヤーはいなかったので、そこで得られる不動産DXのリーディングポジションはとても価値のあるものだと判断しました。その戦略転換は当社のみならず、業界のためにも良い判断だと考えました。

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テックを活用したBtoCビジネスを展開する『ZORC』がディスラプターとして躍進しています。

――  SREHDの目指す方向は?

SREHDは「リアル×テクノロジー」によるBtoBビジネスで不動産DXトップランナーを目指す

我々が強みとしているのは、自社で不動産事業を手掛けることで、そのオぺレーションにおける課題発見・解決を不動産事業担当者とAIエンジニアが二人三脚で常に取り組み続けており、その過程で真に実務有用性の高いAIソリューションやツールを創出していることです。これまで不動産オペレーションを熟知しているデジタルプレイヤーがいなかったのですが、当社は自ら手掛ける不動産事業での知見から、常にどのように不動産領域をデジタル化するのが良いかを考えており、そこを当社が担うことで、業界全体のDXにおけるメインサポーターになりたいと考えています。使い勝手の良い不動産スマート化ツールを提供していくことで、業界全体のDXを推進したい。不動産業界の成長戦略実現に向けて技術面での解決策を提供していく、「リアル×テクノロジー」による不動産DXトップランナーとして役割を担いたいと思っています。


株式市場における評価


――  機関投資家のSREHDに対する評価は?

テック武装した不動産会社ではなく、不動産領域を中心としたAIテックプロバイダーとして評価

海外投資家比率が徐々に高くなってきています。上場したての頃はAIで武装したスマートな不動産屋なのか、不動産事業を内包したテックプラットフォーマーなのかで評価が分かれており、投資家からよく質問を受けました。しかし、今ではAIを活用した不動産会社ではなく、不動産事業を内包したソリューションプレイヤーという見方をされることが多いように思います。さらに、菅内閣がデジタル化を推進させ、不動産業界においてもDXを推奨していることもあり当社の伸びしろは大きいのではないかと海外を含む投資家に注目していただいていると感じています。

――  海外投資家のSREHDに対する評価は?

中国アリババグループの関連会社アントグループに類似するビジネスモデル

海外の投資家との対話の中で、よくアントと比較されることがあります。

アントは金融機関を社内で包括し、同時に多くのAIエンジニアが在籍しており日々金融機関の人間と社内オペレーションの磨き込みを徹底的に行うことで、本当に使い勝手の良いAlipay(アリペイ)というソリューションプラットフォームを提供しているという点で、共通性を見出していただいているようです。私としてはアントのビジネスモデルを意識したことはなかったのですが、言われてみて「なるほど」と思いました(笑)

日本国内では不動産事業を内包したソリューションプレイヤーではなく、よくあるテックを活用した不動産会社のひとつと誤解されていることもあります。そうではないことを知っていただき、もっと個人投資家にも注目していただきたいと思っています。


業界の垣根を越えたビジネスモデル


――  今後の事業展開は?

蓄積したデータや独自に磨き込んだアルゴリズムの活用により、不動産業界のみならず他分野でのDX推進の担い手となる

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自ら実業を手掛けることで磨き込んだ独自のアルゴリズムを活用したモジュールを基に、クラウドビジネスやコンサルティングビジネスにまたがって他社とは差異化されたソリューションやツールを提供していきたいと考えています。例えば、AIを活用したクラウドソリューションに「AI不動産査定ツール」があります。これは、不動産をいくらで売り出したら、いつくらいにどれくらいの価格で売買が成立するかをAIが瞬時に測定してくれるものです。不動産仲介業では査定業務が大きなコストを占めており、マンションなどの場合、その業務には約3時間を要します。しかし、このツールを使うと約10分で終わります。しかも人間がやるよりAIの方が精度が高いというデータもあります。

不動産の価値を測定する、ということだけで考えると不動産業界だけでなく、証券会社や生命保険会社、銀行などでも活用できます。AIローン審査のような取り組みに活用することもできますし、相続税評価がいくらになるからどのような対策が効果的なのかといった話もできるようになります。広く産業に提供していくことでより大きなデータフィードバックを得ることができ、これがまたモジュールの精度を作り上げていきます。

まずは、不動産フィールドを中心としてリアルとテックを組み合わせて更に力強く事業成長していきたいと考えています。また、中長期的には日本だけでなく海外にも展開できるよう、企業成長を続けていきたいと考えています。

インタビューを終えて

第2、第3のソニーやエムスリーとなるべく、DXのムーブメントを背景に不動産業界に変革をもたらそうとしているSREHD
情報のオープン化により消費者の利便性を高めるサービスを展開しているその姿は、国内外の投資家から高い評価を得ている。
西山社長への取材を通じて、不動産業界のみならず、デジタルテクノロジーの進化がもたらすより豊かな社会の実現に期待。
ZORCやアントなどテック企業の名前も挙がったが、同社の主要株主であるソニーやZホールディングスとの事業展開も含めて、日本発のテックジャイアントになれるかどうか、大きな期待を寄せて今後も注目していきたい。


【タイトル】
SREホールディングス株式会社
https://sre-group.co.jp/
不動産事業とAIクラウド&コンサルティング事業を推進するソニーのグループ会社。2014年の創業時は、不動産売買仲介をメイン事業としていたが、その後、AIを活用した事業などを展開するようになり、不動産テック企業として生まれ変わる。2019年にソニー不動産からSREホールディングスへと社名を変更し、東証マザーズに上場。2020年には東証一部に市場変更した。現在は不動産リアル事業と、自社で開発するAIテクノロジー事業をクロスさせてシナジーを高めている。そのため、特に海外の投資家や機関投資家からはAIクラウド&コンサルティング事業に対する評価が高い。




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