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【特集】飯野海運 Research Memo(9):2030年に向けた中期経営計画(2)

飯野海 <日足> 「株探」多機能チャートより

■飯野海運<9119>の中長期成長戦略

4. ESG・SDGsへの対応
新・中期経営計画ではESG・SDGsへの対応を強く打ち出した。ステークホルダーとのコミュニケーションを強化し、環境、社会、経済の課題の克服に真正面から取り組むESG経営を推進することで、経済的価値と社会的価値を同時に創造し、企業価値の向上を目指す方針だ。

環境問題の温室効果ガスへの対応では、排出量削減目標として、海運業では輸送単位当たり温室効果ガス排出量を2030年に2008年比40%削減、2050年に2008年比温室効果ガス排出総量50%削減、不動産業では単位面積当たりCO2排出率を2008年比で2030年に40%削減、2050年に50%削減を掲げた。

海運業では2元燃料船やEEDI規制対応エンジンへの切り替えなど、環境負荷軽減や次世代燃料船実用化に向けた取り組みを推進する。2019年12月には同社初の2元燃料主機関搭載船となるメタノール船「Creole Sun」が竣工した。2元燃料主機関は適合油(低硫黄の船用燃料油)だけでなく、メタノールを燃料として使用できる。世界最大のメタノール生産者であるMETHANEX CORPORATIONの100%出資海運会社WATERFRONT SHIPPING COMPANY LIMITEDへ長期用船される。また2020年3月には同社初のSOxスクラバー(脱硫装置)搭載船となるVLCC「富士山丸」が竣工した。出光タンカー(株)の主要VLCC船隊に加わる。さらに2020年4月には、2元燃料主機関を搭載した同社初のVLGC(大型LPG外航船)の建造を発表した。2021年竣工予定で、Equinor ASAとの定期用船契約に投入する。

不動産業では、飯野ビルディングなど既存の保有ビルは国内トップクラスのCO2排出率水準を維持しているが、さらに省エネ運用、高効率機器への更新、環境認証の維持、再生可能エネルギーの活用などを推進する。なお2019年11月には、東京都キャップ&トレード制度に基づき、CO2排出量の超過削減量であるクレジット614トンを東京都へ寄付している。

ESGのSへの対応として、安全・安心の徹底(船舶の安全運航、不動産の安全管理)、BCP対応、働き方改革の推進、Gへの対応としてはダイバーシティの推進として役職員の多様化(性別・人種・国籍等)対応を推進する。

5. DXの推進
また、変化の激しい事業環境に対応するとともに、2030年に向けて新たな価値を創出すべくDXの推進を加速する。

デジタル化基盤を整備し、安全運航の質向上(船陸のリアルタイム通信、最適航路モニタリング、故障予兆技術の活用)、ESG推進サポート(CO2削減、燃費向上、多様な働き方の実現)、業務改革(付加価値の高い業務に集中できる環境の整備、ノウハウが伝承される組織体制の強化)といった新たな価値の創出を目指す。基幹システムの刷新に関しては2021年3月期から順次、段階的に取り組む見込みだ。

6. 数値目標
中期経営計画で重視する指標として、収益性では事業投資損益やキャッシュ・フローも意識して経常利益及びEBITDA、効率性では資本コストを意識してROE、健全性では財務基盤の規律を維持するためD/Eレシオを設定した。3項目をバランス良く管理し、持続可能な成長を目指す方針だ。

2021年3月期は、2020年4月-9月の間は新型コロナウイルス感染症の影響が継続するという前提で、営業減益予想としている。

2022年3月期及び2023年3月期の営業利益計画に関しては、海運業(市況変動の影響を考慮してレンジ予想)では市況改善を見込み、安定収益源となる中長期契約の積み上げ、効率的配船による採算性向上、環境への負荷を低減する技術の積極導入を推進する。不動産業では主力の飯野ビルディングの満室稼働に加えて、大規模再開発による西新橋・虎ノ門地区の価値向上も背景として、新橋田村町地区市街地再開発事業(東京都港区、2021年6月末竣工予定)が寄与する見込みだ。また従来のターゲットエリア戦略にこだわらず、海外を含む多面的な積極展開も想定している。

3ヶ年累計の営業キャッシュ・フローは550億円、事業投資は450億円としている。成長、安定、環境の3分野にバランス良く投資する方針だ。

新・中期経営計画は、海運業と不動産業を両輪として成長を目指す基本シナリオに変化はないが、経営目標数値(2023年3月期経常利益70~80億円、EBITDA195~205億円、ROE8~9%)だけでなく、ESG・SDGs対応やDX推進を強く打ち出した意欲的な計画との印象が強い。この点を高く評価し、中期的な収益拡大と企業価値向上を期待したい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)

《ST》

 提供:フィスコ

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