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【特集】減産と需要回復でも増え続ける米石油在庫、需要と供給は近く均衡するのか? <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 米エネルギー情報局(EIA)の週報は、原油市場の主役的な手がかりである。コロナショック後はさらに注目度が高まっている。石油需要の回復を好感し、上値を伸ばすような流れは一巡気味だが、需要が一段と増加しないことには主要産油国が目指す需給の均衡はない。需給が均衡しなければ、世界的に過剰な在庫がさらに積み上がる。石油輸出国機構(OPEC)加盟国を中心とした産油国は場合によっては減産の強化など、次の手段を検討しなければならなくなる。

 米国のEIA週報は、国際エネルギー機関(IEA)やOPECの月報など、世界的な需給を把握するための統計の内容に先行する。週次の統計で速報性が強く、米国が世界最大の石油消費国であり、世界最大の原油生産国であることから、週報における在庫や消費の推移は世界的な傾向を示しているといえる。極端な表現ではあるが、米国の在庫が増えると、世界の在庫も増えると思って差し支えない。また、週次の統計ではあるが、EIA週報の内容はかなり詳細である。エネルギーに関するこれだけ詳しい週次の統計は他に存在しないのではないか。横着な話であり、あまりお勧めはしないものの、EIA週報を毎週確認するだけで、世界的な石油市場の需給を把握可能で、原油相場をそれなりに見通せると思う。

●止まらない原油在庫の増加

 先週のEIA週報で、戦略備蓄(SPR)を除く原油在庫は5億3928万バレルまで増加し、1982年に週次の統計が開始されてからの最高水準を更新した。石油需要が回復している一方で、OPECなどが減産を開始しているが、原油在庫の増加傾向は止まっていない。原油と石油製品の在庫の合計は14億4672万3000バレルまで拡大し、こちらも過去最高水準を更新している。依然として供給超過である。製品需要がさらに高まり、製油所の原油消費量が増加しなければ、需給の均衡には届かない。

 世界的な需給もおそらく似たりよったりである。北半球は夏休みシーズンが近づいており、経済活動の再開と相まって石油製品の需要はさらに回復していくと想定できるが、新型コロナウイルスとつきあっていかなければならない新しい世界経済において、見通しに実感は全く伴わない。需給の均衡化が近づいていると漠然と期待はするものの、懐疑心と隣合わせである。

●脆弱な上昇基調の根拠

 需給の均衡化について、見通しに確信を持っている市場参加者はいるのだろうか。いてもごくわずかだと思われる。値動きが最大の関心事であることから、需給の行く末に興味はない。今は需給が均衡化すると期待する流れに身をおいたほうが妥当であるから、そうしているだけである。

 根拠の乏しい見通しに支えられた足元の上昇基調は脆弱である。今月、来月と米国の原油や石油製品の在庫が増加し続けるならば疑念が拡大し、楽観的な流れは崩れるだろう。OPECプラスが過去最大規模の減産を行っているにも関わらず、需給均衡が達成できないとなると、世界経済はかなり重症といえる。今週の週報でも在庫は増え続けるのだろうか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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