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【特集】DEAR・L Research Memo(4):1人1億円以上の営業利益を稼ぐビジネスモデル(1)


■事業概要

1. リアルエステート事業
(1) 東京圏の不動産の開発・投資に特化して競争力を磨く
a) 堅調な需要が見込める東京圏
ディア・ライフ<3245>は創業以来、東京圏の単身者・DINKS向け都市型マンションを中心に不動産開発事業を展開している。人口減少期に入った日本においても、東京圏への人口流入の傾向は続いており、さらには働き方やライフスタイルの変遷もあり、好立地の都心マンションへの需要はますます強まっている。人口の推移を見ると、東京都の中でも都心5区の人口増加率は9.4%(2015年1月から2020年1月までの5年間)と高く、次に都心周辺11区が5.5%と続き、周辺7区は3.5%、23区以外の市部は1.8%と相対的に低い。結果として、都心での用地の確保の難易度は上昇し、新築マンション供給戸数は減少を続けており、一方でマンション価格は上昇を続けている。首都圏の投資用マンションの供給戸数は2013年から2018年までの6年間堅調に推移しており、平均価格も緩やかな上昇基調である。2019年上期(1月-6月)は前年同期よりは少ないものの例年並み。平均価格も高止まり状況が続いている。

このような事業環境のなか、同社の戦略は明確であり、23区を中心に投資をしている。同社取組物件(都市型マンション、収益不動産、開発プロジェクト)のうち94.8%は23区内に位置する。また、最寄り駅から10分以内の物件が98.3%となっており、利便性の高い物件への投資を基本としている。

2018年には、金融機関や一部の不動産会社の不祥事が明るみに出た。これらの不祥事は、地方や郊外でアパート経営(シェアハウス含む)を行う個人投資家(サラリーマン投資家)に対し、無理な融資を不正に通そうとする金融機関(主に地銀)や不動産業者が問題となったものだった。同社の事業は、事業会社や富裕層に対し、都心部の駅近物件に特化し、高い入居率が見込めるマンションを一棟売りする、という点で全く異なるビジネスモデルであり、一連の不祥事の構図とは一線を画す。

b) 用地取得と建築発注にエリア特化の強み
このような環境下、需要の堅調な東京圏に事業エリアを特化することは、販売面だけでなく、用地取得や建築発注においても優位に働いている。情報の非対称性が依然大きい不動産業界では、有益な用地・物件情報であればあるほど、フェイス・トゥ・フェイスの商談が重要になってくる。同社はエリアを限定することにより、より効率的で密度の濃い仲介業者などとの業界人脈を構築できており、その情報取得力は高い。またエリアを限定することで継続的に工事発注できることから、ゼネコンなど建築業者とも良好な関係性を構築できており、品質の高い建築請負工事を実現している。

c) 専門性の高い内部人材がもう1つの強み
エリア限定の強みに加え、社内に一級建築士をはじめ専門性の高い人材を抱えていることも大きなアドバンテージとなっている。用地取得に関しては、素早く情報をキャッチすると同時にその開発ポテンシャルを素早く的確に算定し、競争力ある価格提示を迅速に行える能力が不可欠である。また建築技術等のわかる人材がいればコスト抑制策での創意工夫が進みやすく、ゼネコンなどとの折衝力が高まる。

d) 若手社員の成長力や女性社員の比率の高さが特長
同社では、若手社員の成長力が高いこともリソースの1つである。早い段階から若手に重要なポジションを与えて成長を促す環境を整えているため、一般的に15年程度はかかるとみられる不動産ビジネスに必要な総合的な判断力が数年で習得でき、若手の成長スピードが速いことが同社の特長となっている。具体的には、土地の仕入れから最終的な売却までのプロセスを担う、プロジェクトマネジャーに若手を積極的に任命しており、入社2年目の社員が登用されるケースもあるという。土地購入の際の企画・開発、ニーズにかかる部分を総合的に判断し、プロジェクトの完了までには他の企画・開発にも携わるため、不動産ビジネスのノウハウを一気通貫で学ぶことができるのである。

また、幅広い世代の女性スタッフを擁し、女性スタッフの比率が高いことも同社の強みである。背景にはマンションのセールスサポートスタッフの需要が大きいことが挙げられる。また、同社は女性役員の比率も高く、2020年6月時点での女性役員の人数は2人で、全体に占める割合は約20%となっている。とりわけ取締役に占める割合は3分の1である。(株)東京商工リサーチが2019年8月に公表した上場企業における2019年3月期末の女性役員比率が4.9%にとどまっていることから比較すると、同社の比率は一般的な上場企業の平均値よりも15ポイント以上高い。政府が上場企業における女性役員の割合について「2020年までに10%を目指す」目標を掲げているなか、この目標数値に対しても同社は大きく上回っている。

e) 分譲事業には参入せず資産効率、生産性を重視
同社は分譲事業には参入しておらず、1棟売り(卸売)することで資金回収を早め、資産効率を高めている。売却先は寮・社宅などのニーズを持つ事業会社、分譲や賃貸運営目的の不動産会社、不動産投資ファンド、個人富裕層などの投資家など幅広い。開発面では東京圏特化で効率性と競争力を高めている反面、販売面では自前の販売人員を抱えることなく広く可能性を探っている。2019年9月期は東京圏に立地する都市型マンション(自社開発)と、不動産活用・運用のニーズの多様化に対応したADR事業(土地の開発適地化)で23件、収益不動産案件(稼働率向上や管理コストの見直しなどにより収益価値を向上)で7件売却した。リアルエステート事業では26人の従業員で売上高19,515百万円、営業利益(セグメント利益、利益調整前)3,874百万円を稼いでおり、労働生産性(1人当たりの営業利益)は149百万円とずば抜けて高い。

(2) 収益不動産の購入・売却を強化
a) 高い目利き力が生かせる収益不動産投資
同社は都市型マンションを開発から手掛けることを中心に業容を拡大してきたが、さらに事業基盤を拡大し収益の多様化を図るため、既に稼働している優良な中小型収益不動産への投資も積極化している。収益不動産は、保有期間中に家賃収入を得た上で不動産サイクルを見極め、より良いイグジットのタイミングを図ることで収益の最大化を目指す。また築古物件や空室率が一時的に高くなっている物件を安く仕入れ、保有期間中にリノベーションやテナント付けを行うことによって資産価値の向上を図った上で売却するなどのノウハウや不動産運営能力を持つ同社にとって、創意工夫の余地が大きい。

b) リスク回避と資産効率の向上
都市型マンション開発で良好な実績を上げ続け、高成長を遂げた同社の信用力は高い。2015年に東証1部に昇格し、財務の健全性も高いことから、金融機関とのリレーションも良好で借入余力も大きい。一般的に、新規に物件を建築するマンション開発事業に比べて既築の収益不動産事業は付加価値の創造余力が低いが、収益化のタイミングは早く、賃料収入と売却を選択できる流動性を持つといった事業特性の違いがある。収益不動産に取り組むことで、安定的な収益性とリスク回避を両立させ、資産効率の更なる向上を図っている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)

《ST》

 提供:フィスコ

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