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【特集】武者陵司「令和の大相場始動シリーズ(5) 2020年世界情勢の鍵、4つのパラダイムシフト(後編)」 <新春特別企画>

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

武者陵司「令和の大相場始動シリーズ(5) 2020年世界情勢の鍵、4つのパラダイムシフト(前編)」 から続く

(3)米国における株式資本主義の隆盛、続くのか

●米経済好調の正体、株式資本主義

 米国の金融の健全性が、先進国中では突出した米国経済の好調さを支えているが、その正体は株式資本主義であろう。

 日欧では巨額の余剰貯蓄が国債市場に滞留しマイナス金利を引き起こしている。ただ、米国だけは例外で、資本循環が維持されている。長期金利は昨年8月1.4%まで低下したものの、それをボトムに上昇している。日欧のように、国債市場が余剰資本を吸収し金融循環がそこで停止するといったことは起きていない。

 それは米国企業が自社株買いと巨額配当により利益のすべてを株主に還元し、その結果もたらされた株高が家計の資産を増価させ、堅調な消費をけん引しているからである。過去4年間(2015~2018年)に米国企業(非金融)は4.09兆ドルの税引き利益を計上したが、4.24兆ドルとその100%以上を株主に還元した。内配当2.29兆ドル、自社株買い1.95兆ドルとなっている。リーマンショック以降の10年間、米国国内の投資主体、米国家計、年金、保険、投信はすべて米国株式を売り越してきた。唯一企業の自社株買い(10年累計3.9兆ドル)だけが株式を買い上げてきたのである。

 企業の巨額の株主還元が家計の金融所得を押し上げ、また株価上昇による資産効果もあって、旺盛な消費が維持されている。株高をけん引とする資産価格上昇が家計の純資産を著増させたことは、特筆に値する。2009年4Qリーマンショック後のボトムでは49兆ドルに落ち込んでいた家計純資産は、2019年2Qには113兆ドルへと10年間で64兆ドル(米国GDPの3倍)も増加したが、そのうち年金資産は10兆ドルから27兆ドルへと増加し、年金財政を支えている。

 ただし、米国でも日本・欧州と同様に、家計、年金、保険、投信の国内余剰資金は一手に国債に集中してきた。2015年のテーパリング以降、FRBと外国人が米国国債を売る中で、一手に買い続けてきたのは米国国内投資家(家計・銀行・機関投資家)だった。米国人も株式投資には警戒的だったのである。

●企業の株価本位財務戦略の賜物

 このように見てくると米国の株高は、企業の株価本位の財務戦略の賜物であったことが分かる。米国企業は内部留保を吐き出し自社株買いを実施、それが株式需給の好転とROEの向上につながり、株価が上昇する、という戦略である。米国企業の財務バランス悪化を伴う株価本位政策は、(次期リセッションにおいて企業抵抗力を弱めるという問題点はあるものの)マクロ経済の観点では、企業の余剰が家計に還流することで、健全な資金循環を保つ役割を果たしており、望ましいといえる。

●株価本位の金融政策(=量的金融緩和政策)

 金融政策も今や米国では株価本位となっている。かつての銀行貸し出しによって信用創造を制御する金利政策は、ゼロ金利と企業の借金需要の消滅で機能しなくなった。代わって登場した量的金融緩和政策は、バーナンキ議長はリスクプレミアムを引き下げる政策と説明したが、平たく言えば株価と不動産価格の押し上げ政策である。そのために巨額の資金が必要になり中銀のバランスシートの大膨張に帰結したのである。

 金融の機能が、信用創造による購買力の創出にあるとすれば、その手段はもはや銀行貸し出しではない。その手段は株式を中心とした資産価格の上昇としか考えられない。リーマンショック以降、米国経済が先進国の中で突出した成長を続けられたのは、株高による需要創造が寄与したとも言える。米国が経済社会総体として推進する株価上昇とは、新たな金融レジーム、金融の中心に株式が座る、株式資本主義時代の到来と言うべきなのかもしれない。

●需要創造を資産価格で行うか、財政で行うかは政治が決める

 産業革命により供給力が恒常的に増加する時代においては、いかにそれと軌を一にして需要創造するかが、喫緊の課題となる。株価上昇による新たな購買力の創造か、政府の介入による財政的需要創造か、その選択は政治が決める。例えば急進的なエリザベス・ウォーレン氏が大統領となれば、株式を中心とする政策軸の大転換が実施され、株式市場は短期的に大きな打撃を受けるかもしれない。想定される最大の株式投資リスクであろう。

(4)5G新技術時代の始動、サイは投げられた

●不可逆的投資競争が始動

 5Gなど新技術投資が始まり、最先端半導体などで競争先行のための投資が活発化し始めている。中国は5G投資実績で他を引き離す構えで、中国国内での5Gハイテク投資が急増、他国もそれに引きずられて投資競争が始まりつつある。例えばTSMCの半導体製造装置発注額は2019年7~9月は77億ドルと過去の10~20億ドルベースを大きく上回った。2019年まで休止していたデータセンター投資も5Gをにらんで活発化する様相である。2018年以降の米中摩擦激化による中国半導体投資の一時休止が、半導体の需給の想定外の改善を引き起こす可能性があるのではないか。最も製造業景気変動に敏感な米国半導体株が最高値を更新している。

 グローバルサイバー空間(=第七大陸)はますます巨大化し、脱国境の5G革命が進行していく。賢明な制度設計は必須、デジタルをいかにコントロールするか、監視国家化とどう向き合うか、課題は多いが、5G、IoT時代の投資競争が始動したことは確かである。

(2020年1月1日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン242号」を転載)


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