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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―振り回すトランプ大統領に振り回される金融市場

スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役 植草一秀

第20回 振り回すトランプ大統領に振り回される金融市場

●株価乱高下のプロセス

  NYダウの史上最高値を記録したのは7月16日のことです。2万7398ドルをつけました。5月5日にトランプ大統領が中国の対米輸出2000億ドルに対する制裁関税を10%から25%に引き上げる方針を示しました。筆者はこれを「トランプショック(1)」と呼んでいます。これを契機にグローバルな株価下落が進行しましたが、流れを変えたのは6月4日のパウエルFRB議長の発言でした。パウエル議長は「適切に行動する」と述べて、利下げ実施を示唆しました。このパウエル発言でグローバルに株価が反転したのです。

 この結果としてNYダウが史上最高値を記録し、FRBは実際に7月末の FOMCで利下げを断行しました。この株価上昇を背景に対中国強硬姿勢を示したのがトランプ大統領です。FRBが利下げを実施した直後の8月1日に、トランプ大統領は中国の対米輸出残余3000億ドルに対しても10%の制裁関税を発動することを表明しました。このトランプ発言を契機に株価は再び下落に転じたのです。筆者はこれを「トランプショック(2)」と名付けています。

 利下げ実施は「材料出尽くし」と受け止められることがあります。このタイミングで「トランプショック(2)」が生じ、株価が下落に転じました。こうなると態度を軟化させるのがトランプ大統領の特徴です。9月5日に米朝通商協議の日程が固められ、米中貿易戦争が打開されることへの期待が浮上しました。さらに、FRBは9月18日のFOMCで2度目の利下げを決定しました。これと米中協議への期待からNYダウは2万7000ドル台を回復したのです。

●期待と失望の交錯

 9月18日のFOMCでFRBは予想通り、0.25%幅の利下げを決定しました。また、米中は9月19日から貿易問題での次官級協議を行いました。この二つのイベントを契機に株価はまた反落してしまいました。9月FOMCではメンバーのFFレート見通しが示されたのですが、メンバーのなかの7人が年内にさらに利下げを実施する見通しを示したのに対し、別の5人は年内に利上げを実施するとの見通しを示しました。

 金利据え置きと利下げで意見が分かれるのは普通のことですが、利下げ見通しと利上げ見通しが同時に提示されるのは極めて異例のことです。トランプ大統領はFRBに大幅利下げを強く要求していますが、トランプ大統領の意向に真っ向から反対するメンバーがFOMCに多数存在することが明らかになったのです。

 他方、9月19日からの米中次官級協議では中国側参加者が予定していた米国農産地の視察を中止して帰国してしまいました。このため、米中協議不調との観測が広がり、株価下落のきっかけになったのです。

 このような経緯があり、内外株価の反落が観察されてきましたが、10月10日から米国ワシントンで閣僚級会合が始まり、再び協議進展の期待が高まっています。協議は1日で打ち切られるとの観測も流れたのですが、トランプ大統領が10月11日に中国の劉鶴副首相と会談するとツイッターで発信し、何らかの協議進展があるのではないかとの期待が膨らみました。

●米中部分合意が成立するか

 金融市場はいま、世界経済が2020年に向けて景気後退に陥ることを強く警戒しています。トランプ大統領が発動した関税率の水準は保護主義で世界貿易が縮小した1930年頃の関税率の水準に匹敵します。こうした保護主義措置によって世界貿易が縮小した歴史の経緯を踏まえて、企業は設備投資を急速に慎重化させています。このことが主因になって深刻な景気後退が発生することが警戒されています。

 米中協議に対する悲観論が台頭したのは5月からです。米国は中国に対して理不尽とも言える要求を突き付け始めました。民間企業同士でも技術移転を禁止すること、政府による産業補助金投下を全面禁止することを米国は中国に求めました。民間企業同士の技術移転は米国企業も行っており、産業補助金は米国政府も投下しているものです。

 米国が対中要求をエスカレートさせたことに対して、中国は過大な要求には応じない方針を固めました。これが、5月協議が不調に終わった背景です。さらに米国は8月に、25年ぶりに中国を「為替操作国」であるとの認定を行いました。米中間の溝は深く、短期的な全面的交渉決着を期待することが困難な状況です。このなかで今回の交渉で、部分的にでも何らかの合意を形成することができるのかどうかが注目されています。

 中国が米国からの穀物等輸入を確約し、代わりに米国が10月15日実施予定の制裁関税発動を先送りする合意ができるかどうかが焦点になっています。

●新たな不況への突入

 こうしてみると、世界の金融市場がトランプ大統領の一挙手一党足によって振り回されてしまっている現実が浮かび上がります。トランプ大統領が政策発動を利用して金融商品や為替商品のトレーディングを実行すれば、労せずに巨大な利得を得ることも可能になってしまうでしょう。特異な政策発動で金融市場変動が引き起こされる現状は望ましいものではありませんが、投資パフォーマンス向上を目指すためには、問題が多い政策であるにせよ、政策分析を行うことが極めて重要な意味を持つことになります。

 安倍内閣は10月に消費税率を10%に引き上げました。消費税率の引き上げは、とりわけ所得の少ない主権者の生活を直撃します。増税前の駆け込み消費が盛り上がりを欠いたことから、増税後の消費の落ち込みも軽微になるとの楽観論が流布されていますが、甘い見通しだと言わざるを得ません。8月の景気動向指数で景気の基調判断が4ヵ月ぶりに「悪化」に修正されましたが、日本経済は昨年10月を起点に、すでに景気後退局面に移行している可能性が高いと思われます。

 株価が比較的底堅く推移しているのは、現在の企業利益水準からみると株価の水準が割安と判断できることが背景にあると思われます。しかし、不況に突入すると企業収益が驚くような勢いで減少することが珍しくありませんから油断はできません。

 目先は米中協議進展で楽観サプライズが生じる可能性が存在しますが、トランプ政権の政策運営に振り回される状況が持続するなかで、経済、金融、株式市場混乱のリスクが徐々に高まりつつあることに警戒を怠ることはできません。

(2019年10月11日 記/次回は10月26日配信予定)

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