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【特集】一段の原油安は不可避か? 頓挫した世界景気拡大 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 原油市場では需要の下振れ懸念が根強い。クウェートのファディル石油相は景気懸念が誇張されていることで、石油市場が過剰に圧迫されているとの認識を示しているものの、市場参加者の懸念は妥当と思われる。

 2007年から顕在化した世界金融危機を経て、世界経済は2017年頃まで順調に回復してきたが、米中貿易戦争の勃発もあって景気拡大は頓挫した。現在の世界経済は減速期にあり、景気が縮小していく可能性が高まっていることから、沈み込む余地は十分にあることになる。年末あるいは来年以降に向けて景気が減速・後退していくならば、それだけ原油安のトレンドは長期化するだろう。市場参加者は伸びしろがありそうなテーマを探し当て、流れに乗ろうとしているだけである。石油需要の下振れ懸念はテーマとして拡張性が伴っている。

 金融市場で利益を出すための基本はトレンドについていくことである。値幅を伴うトレンドを発生させる可能性の高いテーマを峻別し、着目することは誇張とは異なる。もちろん、その時々で荒っぽい値動きとなることはあるが、懸念や楽観が膨らむ余地があるならば、それをただ追いかけていくだけだ。約10年間続いた世界経済の回復が途切れようとしており、原油安を見通すことは適切だと思われる。

●長く深い景気後退を警戒

 7月に10年ぶりとなる利下げを決定した米連邦準備理事会(FRB)は、9月の追加利下げが避けられないとの思惑が高まっている。米国の政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標は2.00-2.25%と、金融政策の正常化によって利下げ余地は十分に確保されており、景気減速に対応可能である。ただ、米国は例外である。欧州中央銀行(ECB)や英中銀、日銀などに利下げという選択肢はないに等しい。豪中銀やNZ中銀の利下げ幅でさえ限られている。

 世界経済がリセッション(景気後退)入りした場合、中央銀行は景気が縮小する痛みを金融緩和であまり和らげることが出来ない。日銀のように株式を含めた資産購入まで行うのであれば、それなりに選択肢はあるといえるかもしれないが、景気後退期に利下げという伝統的な手段がほぼ使えないことは長く深い景気後退を警戒させる。景気とともに石油需要がどこまで縮小していくのか、誰にも見通せない。

●イランと軍事衝突の可能性は格段に低下

 一方で、米国とイランの対立による中東情勢の悪化懸念はテーマ性が狭まった。米国のイラン制裁や、イランの核開発を巡って両国の衝突が激化し、軍事行動に発展すると石油輸送の要所であるホルムズ海峡の通過が脅かされ、供給が減少することになるが、その可能性は格段に低下したと思われる。ロシアとイランは年内にペルシャ湾やホルムズ海峡で軍事演習を行う予定で、緊迫化が高まるなかでロシアはイラン側につくことを示唆した。ロシアが支援するイランを軍事攻撃する西側諸国はおそらく存在しないことから、今後緊迫感が高まっても雰囲気だけで、実感は伴わない。テーマに広がりがないといえる。英領ジブラルタル自治政府が先月拿捕したイランの大型石油タンカー「グレース1」を解放すると決定したことも、軍事衝突の可能性を低下させた。

 テーマの拡張性は、想像が広がる余地と言い換えることができる。拡張性があるならば、金融市場で大きな流れが発生する可能性がある。当面は石油需要の下振れ懸念と付き合わなければならないが、広がりや奥行きのあるテーマには常に目を向けておく必要がある。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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