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【特集】中国「ハイブリッド車」復活のステージ、“国6政策”で変わる業界地図 <株探トップ特集>

中国政府は先月、新エネルギー車政策の修正案を公表、ハイブリッド車を優遇する政策を打ち出している。これに伴いトヨタを筆頭に日系メーカーにも好機が巡っている。

―前のめりのEV普及策の修正により、「トヨタ」に新たな活躍余地が生まれる―

 世界最大の自動車市場、中国は国家戦略として大気汚染を克服する「青空の戦い」に打ち勝つ3ヵ年計画(2018~20年)を進め、ハイブリット車(HV)を優遇する政策を検討し始めている。電気自動車(EV)の普及に限界が見えるなか、中国政府は先月、新エネルギー車(NEV)政策の修正案を公表した。これまでガソリン車とみなしてきたHVを「低燃費車」としたうえで、生産に必要な負担も減らす。世界一厳しいとされる次期自動車排気ガス基準「国6」の全国導入時期を前倒して実施し、主要都市から順次適用する。100社以上が乱立する市場の再編を促す一方、中国国内の技術レベルを向上させる狙いだ。

●環境汚染車両の淘汰で中国自動車販売は記録的な落ち込み

 中国政府は12年から補助金の支給を通じてEV、プラグインハイブリット車(PHV)を中心とするNEVシフトを推進してきたが、HVはNEV政策の優遇対象から外されてきた。しかし、中国政府がこの方針を転換したことでHVに強みを持つトヨタ自動車 <7203> やデンソー <6902> をはじめとした日系部品メーカーの追い風となる。

 「国6」導入の前倒しで中国における新車販売は記録的な落ち込みを見せている。市場では当初、これが米中貿易摩擦の影響といわれてきた。しかし、実態は中国における次期自動車排気ガス基準の導入時期が前倒し実施されたからに他ならない。

 きっかけは今年3月、全国人民代表大会で李克強首相が、環境汚染車両の淘汰を徹底すると強調したことだ。その後、当初20年7月に導入する予定だった国6基準を、大気汚染が深刻な都市などを対象に1年前倒しすることを命じた。しかし、19年に始まった「NEV規制」に対して、多くの地場メーカーは依然として排気量の大きい車や燃費性の悪い車種の生産に注力している。乗用車メーカー各社の18年度燃費目標達成状況を見ると、輸入企業を含む規制対象企業141社のうち、約5割の企業が目標に達していない。EVの製造コストが高いうえに売れないからだ。

 「国6」基準導入の前倒しにより、これまでの排ガス基準である「国5」しか対応していない車の販売ができなくなる。その結果、車の在庫が積み上がり、新車販売不振の事態を招いてしまった。中国では「リープフロッグ(蛙飛び)」と呼ばれる、段階を踏まないで技術や経済環境を飛躍的向上させることを狙ってきたが、車市場に関しては逆戻りの政策転換が迫っている。

●デンソーは本格普及視野にHV部品に3年間で1800億円投資へ

 そもそも、最近はEVへの逆風も始まっている。発電やEV生産で排出されるCO2を無視できないからだ。更に、EVの購入補助金を20年までに段階的に打ち切ることが予定されるなか、販売価格は実質の値上げとなる。そのうえ、航続距離が短く充電インフラの整備も整っていない。中国でEVが爆発や発火事故が相次ぎ発生していることも消費者のEV離れを招いている。

 トヨタは1995年初にプリウスの試作モデルを世に出してからすでに四半世紀近く先駆者としてエコカー市場を育成してきた。97年に世界初の量産車「プリウス」を発表して以来の世界累計販売台数は18年末までで1300万台となっている。その間モーターをはじめ電動化に必要な技術のハウハウを蓄積してきた。今年4月、同社はHVなど電動車の関連技術の特許約2万3740件を無償で開放するとともに、電動車の製品化に向けた技術支援も行うことを発表した。HV市場そのものを拡大させることで、関連する部品の供給量を増やし、コスト低減につなげる狙いもある。主要部品を共用するEVの低コスト化も視野に入れているようだ。

 トヨタの狙い通り、多くの自動車メーカーがトヨタ方式のHVを生産・販売するようになれば、システムに組み込まれる部品の量産効果によるコストダウンが図られ、収益構造も変わる。トヨタに追随する形で、デンソーも4月、世界でHVなどの電動車の部品に、20年度末までの3年間で約1800億円を投資すると発表している。モーターなど基幹部品の供給体制を拡充し、本格的な普及期に備えているという。

リチウムイオン電池関連など再注目、帝人は軽量素材で新工場を建設

 モーターやPCUなどの基幹部品は、EVやPHV、燃料電池車(FCV)でも応用可能であり電動車全般の生産でメリットがあることから、動力源のリチウムイオン電池ではダブル・スコープ <6619> 、ジーエス・ユアサ コーポレーション <6674> や東芝 <6502> [東証2]のほか、電池の心臓部分にあたる正極材で田中化学研究所 <4080> [JQ]、新日本電工 <5563> 、負極材では東海カーボン <5301> 、日本カーボン <5302> 、電解質ではステラ ケミファ <4109> などに関心が集まりそうだ。

 また、現行のリチウムイオン電池に続く次世代2次電池として全固体電池や、ワイヤレス充電を含んだ充電機器関連メーカーなどが注目される。燃費向上のためのボディの軽量化に絡む炭素繊維メーカー東レ <3402> などにも収益チャンスが広がることになる。また、帝人 <3401> は中国で自動車部品に使用する軽量素材の新工場を建設し、20年をメドに稼働することが伝わっている。

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