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【特集】プラチナ堅調も供給過剰見通し、米利下げ・米中協議の行方を確認 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 プラチナ(白金)の現物相場は7月、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ見通しや米中の通商協議再開を受けて堅調となり、5月1日以来の高値884.59ドルを付けた。6月末の米中首脳会談で通商協議を再開することで合意し、米国の対中追加関税発動は見送られた。また、華為技術(ファーウェイ)に対する禁輸措置を緩和し、米企業に同社への製品売却の再開を認めるとした。ただ、米国はこれまでに発動された制裁関税は維持するとした。

 その後、米中の電話協議が開始されたが、中国は交渉合意にはこれまでの関税措置を米国が撤回することが不可欠との立場を示しており、交渉は難航するとの見方が出た。30日から上海で通商協議が再開されることとなり、先行き期待が高まるも、トランプ米大統領は、中国が来年の米大統領選まで合意しない可能性を指摘している。協議が長期化し、これまでの制裁関税が維持されると、景気の先行き懸念が強まるとみられる。

 一方、パウエル米FRB議長が下院金融サービス委員会で証言し、通商政策を巡る不安や弱い世界経済が「引き続き米景気見通しの重し」という認識を示すとともに、景気拡大下支えに向け「適切に行動する」用意があると述べると、月末の米連邦好公開市場委員会(FOMC)の利下げ観測が高まった。CMEのフェドウォッチでは、0.25%か0.50%の利下げが予想されており、ドル安に振れると、プラチナの支援要因になる。

 ただ、米経済は堅調であり、利下げサイクルへの転換とみる向きは少ない。欧州中央銀行(ECB)が早ければ9月の会合で利下げに動く可能性があり、ドル高が再開すると、プラチナの上値が抑えられるとみられる。プラチナは供給過剰見通しが上値を抑える要因であり、南アフリカの労使交渉でストライキでもなければ900ドル前後で戻りを売られる可能性がある。

●IMFは世界経済見通しを下方修正

 国際通貨基金(IMF)は、四半期の経済見通しを公表し、2019年と20年の世界経済見通しを下方修正した。米中の関税や無秩序なブレグジット(英国の欧州連合離脱)などが成長の足かせとなり、投資やサプライチェーン(供給網)を妨げる恐れがあると警告した。
 英与党・保守党は、欧州連合(EU)離脱強硬派のボリス・ジョンソン氏を次期党首に選出した。同氏は首相に就任し、議会演説でEUを10月31日に離脱することで英国の統一と再活性化を図り、英国を世界一の国にすると確約した。合意なき離脱で景気の先行き懸念が強まると、プラチナの需要伸び悩みにつながるとみられる。

●鉱山会社の増益で労組は大幅な賃上げを要求

 南アの鉱山会社アングロ・アメリカン・プラチナム(アンプラッツ)は半期決算を発表し、1株当たり利益は28.15ランドと前年同期の12.82ランドから120%の増加となった。プラチナ価格が7.1%上昇したことや、南アランドの下落が主因となった。

 賃金交渉が開始されるなか、鉱山労働者建設組合連合(AMCU)が月額で1万7000ランド(約48%)の賃金増額を要求した。しかし、鉱山会社は供給過剰でプラチナ価格が低迷するなか、2014年のストライキが打撃となり、雇用削減や鉱山閉鎖を強いられたことを指摘した。シバニェのスポークスマンは「長期的に雇用を維持するには会社を安定させるために投資が必要であり、全額の賃金増加には応じられない」とした。夏場の賃金交渉の行方を確認したい。

●中国は今年の自動車販売予測を下方修正

 中国汽車工業協会(CAAM)は、2019年の自動車販売台数予測を従来見通しの横ばいから下方修正し、国内の景気減速を背景に2年連続減少の見通しとした。今年は前年比5%減の2668万台になると予想、前年は2.8%減だった。第2四半期の中国の国内総生産(GDP)が前年比6.2%増と27年ぶりの低い伸びとなっており、中国経済に対する懸念が残る。

 4月以降の中国の自動車販売の落ち込みの原因は当初、景気減速と米国との貿易紛争とされたが、15都市・省による新基準導入が拙速だったとみられている。15都市・省の販売台数は中国全体の60%以上を占めている。「国5」と呼ばれる排出ガス基準に適合するよう製造された自動車の販売は6月30日までしか認められず、その後は新基準の「国6」を満たす自動車しか販売できなくなった。

 中国政府は昨年、大気汚染対策への取組みを強化し、地方当局に対し「国6」基準を前倒しで実施するよう促した。自動車メーカーとしては新基準に適合するため、触媒を追加し、排ガスや粒子状物質を捕らえるようなフィルターシステムの改善が求められる。新基準への転換に伴う混乱が続くと、中国の自動車販売は減少が続くことになりそうだ。

●NY市場でファンド筋の買い戻しが進む

 ニューヨークの先物市場で5月以降、米中の貿易摩擦に対する懸念を受け、大口投機家の売り玉が急増したが、米中首脳会談後は買い戻しが進んだ。米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、7月23日時点のニューヨーク・プラチナの買い越しは2万0890枚(6月25日時点1986枚)に拡大した。売り玉は6月25日の4万6645枚から2万6789枚に減少した。一方、買い玉は4万8631枚から4万7679枚と小幅に減少した。貿易摩擦に対する懸念や景気の先行き懸念が強まると、戻り売り圧力が強まる可能性がある。

 一方、プラチナETF(上場投信)残高は30日の南アで32.73トン(6月末32.10トン)、米国で22.91トン(同21.60トン)、29日の英国で12.14トン(同11.28トン)となった。貿易摩擦に対する懸念が後退し、投資資金が流入した。ただ、供給過剰見通しであり、どの水準で利食い売りが出るかも確認したい。

 CPMグループは「2019 PGMイヤーブック」を発表し、パラジウムは当面、強気のファンダメンタルズが支援要因だが、価格が反転する可能性がある、とした。今年の需給はプラチナが3.6トンの供給過剰、パラジウムが1.0トンの供給不足との予想。パラジウムは価格上昇時に投資家の売りが出たことが指摘されたが、供給見通しを変えるほどではないとされた。パラジウム価格は年内、堅調に推移するとみられているが、工業用需要の減少を受けてピークを迎えた可能性があるという。米国や中国で自動車販売が減少している。CPMグループは景気後退を予想しているわけではないが、マクロ経済環境が悲観的になりつつあることを指摘している。

 ただ、排ガス規制が強化されており、1台当たりの自動車触媒需要は増加する。CPMグループによると、プラチナとパラジウムの価格差による代替の動きは出ていないが、長期的にこの価格差が続くと、代替の動きが出る可能性があるという。

 プラチナ価格は出遅れているが、投資家の価格上昇を期待した安値拾いの買いが入っている。投資家はプラチナの下値は限られるとみている。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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