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【特集】原油相場、“放れ”へ向けて煮詰まる三角保ち合い <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)やブレント原油の値動きには現れていないが、中東情勢がさらに緊迫化している。今月、英領ジブラルタル沖でイランの石油タンカーが拿捕されたことに対する報復として、イランは英タンカーを拿捕した。英BBCによると、イランのタンカーを差し押さえた英海軍は米国からの要請を受けていたようで、英国は米国とイランの対立に巻き込まれたことになる。

●イランは報復を躊躇しない

 米国がイランに経済制裁を実行していることに対して、イランは核開発の活発化というかたちで対抗している。米国が一方的に破棄した2015年の核合意について、低濃縮ウランの貯蔵量拡大や、濃縮ウランの濃度引き上げなど、イランも段階的に履行を縮小している。英国のタンカー拿捕で明らかとなったことは、イランは報復を躊躇しないということである。

 英タンカーを拿捕したのはイラン革命防衛隊で、最高指導部に直結する軍事的なエリート組織である。核兵器の製造や所有を否定しているとはいえ、最高指導者のハメネイ師はタカ派であり、報復の連鎖をためらうことはなさそうだ。

 イランのロウハニ大統領を中心とした穏健派は一定の条件下で米国との対話を示唆しているほか、瀬戸際で核合意を維持しようとしており、最高指導部とは対照的であると思われる。ただ、最高指導者ハメネイ師に逆らうことはできない。英国や米国がまたイランの資産に手出しするようであれば、応酬が続くことになるだろう。主要国が軍事的な手段に頼れば、イランはおそらくためらわずに反撃する。

●戦争が非現実的である以上、両国が袋小路に

 冒頭で述べたように、軍事衝突が視野に入っているがWTIやブレント原油の値動きは穏やかである。シェール革命によって米国の原油生産量が飛躍的に拡大し、エネルギーの中東依存度が低減していることが理由の一つであるが、米国とイランの軍事的な衝突リスクに未だに現実味が伴わないことが原油価格を抑制している最大の要因である。

 米国とイランが戦闘を開始した場合、米国には英国が味方する一方で、ロシアや中国がイランを支援する可能性が高く、泥沼化することは目に見えている。米国やイランが双方の無人偵察機を撃墜しようとも、タンカーの拿捕合戦が活発化しようとも、第3次世界大戦が始まるとは誰も思っていない。いずれの国にとっても戦う意味は見いだせず、戦費以上の見返りは期待できない。

 戦争が起こらないとすると、イランは挑発行動を繰り返すことができる。米国などに対するいやがらせを続け、核開発による圧力を高めても、イランに対する報復として米国を中心とした主要国は軍事的な手段は使えず、手をこまねくしかない。米国がイラン制裁を解除しないなら挑発行動は無意味だが、イラン核合意を撤回したトランプ米大統領もある意味では袋小路に追い詰められている。米国は原油の禁輸など経済制裁によってイランを懐柔できると確信していたのだろうか。米国はイランに核やミサイル開発の停止、シリアやイエメンなど紛争地域への介入中止を要求しつつ制裁を続ける構えだが、イランには協議に応じる兆候すらなく、対立は深まるばかりである。

●三角保ち合いで煮詰まっていく相場

 米国とイランの確執がどのような結末を迎えるのか全く想像できない。ただ、WTIやブレント原油など代表的な原油相場は三角保ち合い形成に向かっている。昨年10月高値と12月安値を起点として上下に値動きが狭まっていくチャートパターンであり、この帰結として大きな値動きが発生するという連想が働く。相場を観察している側が値動きを期待することそのものが変動を発生させるのであり、自己実現的な見通しでしかないが、現在のチャートパターンを参考にすると、値動きが煮詰まるのは9月末にかけてである。あと2ヵ月程度の間に何かが起こるのか。ただ見守ることしかできない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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