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【市況】プラチナは米中対立が圧迫、G20に向けた協議の進捗が焦点 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行

 プラチナ(白金)の現物相場は5月に入り、米中の貿易摩擦激化やテクノロジー冷戦を受けて軟調となり、2月15日以来の安値794.50ドルを付けた。米中通商協議が行き詰まり、米国が2000億ドル相当の中国製品に対する関税を5月10日に10%から25%に引き上げると、中国も約600億ドル相当の米国製品に課している追加関税を最大25%に引き上げる報復措置を6月1日に発動すると発表し、先行き懸念が高まった。

 中国の自動車販売は10カ月連続で減少しており、米中摩擦を背景に景気減速懸念が強まると、プラチナの圧迫要因になるとみられる。また、米政府は華為技術(ファーウェイ)規制に加え、大手ビデオ監視機器メーカーの曠視科技(メグビー)、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)など中国企業5社について、米国の重要技術利用を事実上禁じることを検討していると伝えられた。中国の国営メディアである人民日報はファーウェイへの米国の規制について、米国の一部政治家がテクノロジー冷戦を仕掛けていると論説で指摘しており、米中対立が長期化するとの警戒感は強い。

 トランプ米大統領は、6月28~29日に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて習近平国家主席と会談する意向を示しており、それまでに通商協議に進展が見られるかどうかが当面の焦点である。ただ、中国国際経済交流センターの張燕生首席研究員は、交渉の行き詰まりは米国が中国に貿易収支と構造改革、法改正の面で直ちに大改革を要求したためだと指摘。また、「これら3つの点で、短期間に実現できることはない」とし、米国が求める執行システムは中国自身の能力を超えており、要求された法改正は「技術的ハードルが高過ぎた」としている。米国はG20で合意に達しなければ3250億ドル相当の中国製品に対しても25%の関税を課す方針だ。

 プラチナは2018年8~9月や年末年始に800ドル割れで下げ止まり強固な支持帯となっている。安値拾いの買いが入ると値固めになるとみられるが、米中の貿易戦争やテクノロジー冷戦が長期化すると、上値が抑えられる可能性がある。

●ファーウェイ排除は5G技術が背景

 米国の中国製品に対する関税引き上げやファーウェイ排除は、通商協議で中国に圧力をかけ、譲歩を引き出すためとみられている。ただ、ファーウェイ排除には次世代通信規格「5G」技術を巡る覇権争いが背景にあり、中国が譲歩したからといって規制を解除することはない。

 5G通信技術によって通信速度と容量の飛躍的な向上が見込まれている。このアップグレードによって「スマート冷蔵庫」や自動運転車といった、5G網に接続可能なデバイスが劇的に増えるとともに機器同士、デバイス同士の通信が可能になる。

 ファーウェイは創立30年の通信機器大手であり、創業者の任正非(レン・ツェンフェイ)最高経営責任者(CEO)は中国人民解放軍出身であり中国政府との関係が疑われている。ファーウェイは「スパイ活動への協力を要請されたことは一度もなく、いかなる状況においてもそのような要請は拒否する」としているが、米政府はファーウェイが世界の5G網に足場を築けば、中国政府は重要インフラを攻撃し、同盟国間の共有情報に侵入する、かつてない機会を手中に収めることになる、と懸念している。

 トランプ米大統領が国家安全保障を理由に米通信ネットワークからファーウェイ製品を事実上排除する大統領令に署名し、ファーウェイに対して政府の許可なく米国の重要技術を購入することを米商務省が禁止すると、米グーグルの持ち株会社アルファベットがファーウェイとのビジネスを一部停止したと報じられた。日本では、アマゾンがファーウェイ製のスマートフォンの直販を停止するなど、米政府のファーウェイ規制の影響は広がりをみせている。

 中国政府が米国のファーウェイ規制に対して反撃する様子はいまのところみられないが、人民日報が指摘するテクノロジー冷戦は長期化することになりそうだ。

●プラチナETFに資金流入も供給過剰見通し

 ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)はプラチナ四半期報告第19号を発表した。旺盛な投資需要が自動車と宝飾品セグメントの需要の減退を相殺するため、2019年のプラチナ総需要が大幅に増加することが示された。投資需要の増加を牽引しているのは、ETF(上場投信)による保有の急増であり、今年第1四半期に四半期としては最大の21トン増加した。第1四半期の需要は、2018年に累積していた精練業者のパイプライン在庫から精練プラチナが放出された堅調な鉱山供給を大きく上回っている。その結果、第1四半期の不足は、WPICが2014年にレポートの発行を開始して以来最大となる17トンとなった。2019年の需給は、従来予想の21トンの供給過剰が12トンに急激に縮小すると予想されている。

 第1四半期にプラチナETF(上場投信)に投資資金が流入したことはプラチナにとって支援要因である。しかし、供給過剰見通しであることに変わりはなく、今後、失望感から投資資金が流出すれば予想外の安値をつける可能性も出てくる。

 プラチナETF(上場投信)残高は27日時点の南アフリカで31.57トン(第1四半期末31.74トン)、24日時点の米国で20.58トン(同21.78トン)、英国で10.92トン(同10.33トン)となった。南アでは4月15日の32.56トンをピークに減少した。ただ、米国では3月28日の21.93トンから減少したのち、5月22日の20.29トンを目先の底として安値拾いの買いが入った。英国では4月30日の11.10トンから減少した。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、5月21日時点のニューヨーク・プラチナの買い越しは1万5490枚(前週2万5750枚)に縮小した。4月30日の3万3322枚買い越しをピークに縮小傾向にある。買い玉が2014枚減少したのに対し、売り玉が1万5818枚増加した。供給過剰見通しであり、テクニカル面で悪化すると、新規売りが出やすい点に留意したい。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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