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【特集】カルナバイオ Research Memo(6):2018年12月期は研究開発への先行投資により営業損失が拡大

カルナバイオ <日足> 「株探」多機能チャートより

■業績動向

1. 2018年12月期の業績概要
カルナバイオサイエンス<4572>の2018年12月期の連結業績は、売上高で前期比14.8%増の754百万円、営業損失で1,144百万円(前期は699百万円の損失)、経常損失で1,159百万円(同711百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失で1,210百万円(同737百万円の損失)となった。売上高は創薬事業で大日本住友製薬からの契約一時金50百万円を計上したことに加え、創薬支援事業が海外向けを中心に好調に推移したことで2ケタ増収となったが、BTK阻害剤2品目の前臨床試験費用を中心に研究開発費が前期比469百万円増加したことが営業損失の拡大要因となっている。

(1) 創薬事業
創薬事業では、シエラに導出したCDC7キナーゼ阻害薬※(シエラの開発コード:SRA141)の臨床試験開始に伴うマイルストーン収入(4百万ドル)を期初段階で見込んでいたが、IND申請(新薬臨床試験開始届)の完了が2018年の第3四半期となり、マイルストーンの条件となる最初の被験者への組入れ時期が2019年にずれ込んだことで、マイルストーン収入も同様に2019年12月期にずれ込むこととなった。このため2018年12月期の売上としては大日本住友製薬からの契約一時金50百万円(前期は売上計上なし)を計上するにとどまった。一方、営業損失は研究開発費の増加により前期の841百万円から1,261百万円に拡大した。

※CDC7キナーゼ阻害薬のメカニズムは、細胞分裂する際に重要なDNA複製等の染色体サイクルにおいて、その制御に深く関与しているCDC7キナーゼを阻害することで、がん細胞におけるゲノムの不安定化を引き起こし、がん細胞を死滅させるというもの。正常細胞については影響を受けないため、副作用のリスクも低いと見られている。シエラでは、DDR(DNA damage response:DND修復機構)に関与するキナーゼ阻害薬の開発にターゲットを絞って開発を進めている。


なお、シエラではSRA141に関して大腸がんを適応対象に臨床第1/2相試験を進めていくことになっている。シエラは、2018年11月に開催された国際的ながん研究治療学会議で、前臨床試験の結果について発表を行っており、SRA141がCDC7を選択的かつ強力に阻害するとの報告を行っている。現在、CDC7キナーゼ阻害薬の臨床試験では2社(武田薬品工業<4502>:第2相臨床試験中、Eli Lilly and Company <LLY>:第1相臨床試験中)が先行しているが、シエラの分析によるとSRA141は、イーライリリーの開発品に対して薬効で上回っており、また、武田薬品工業の開発品に対しては薬効がラボレベルで同程度であるものの、キナーゼ選択性において優れている(副作用リスクが低い)との評価をしている。シエラとの契約では、CDC7キナーゼ阻害薬プログラムの進捗に伴うマイルストーン収入総額が270百万ドルとなり、上市後の販売高に対するロイヤリティ率は1ケタ台後半のパーセンテージと見られる。

2018年12月期のその他トピックスとしては、2018年5月に国立がん研究センター研究所のがん幹細胞研究分野のグループが見出した新規の創薬標的に関して共同研究を行う契約を新たに締結している。また、開発品に関しての知財戦略も着実に進めている。CDC7キナーゼ阻害薬では日本、欧州、米国で、BTK阻害薬では欧州、カナダ、シンガポールで、Wntシグナル阻害剤については欧州でそれぞれ特許を登録している。

(2) 創薬支援事業
創薬支援事業の売上高は前期比7.2%増の704百万円と3期ぶりに増収に転じたものの、営業利益は同17.7%減の117百万円と3期連続の減益となった。新製品・サービスの開発に伴い研究開発費が増加したことが要因だ。

売上高の内訳を見ると、国内向けが前期比18.1%減の288百万円、北米向けが同18.5%増の249百万円、欧州向けが同44.9%増の94百万円、その他地域向けが同146.5%増の71百万円となり、海外向けだけで見ると過去最高を更新した。国内向けについては、主力顧客である小野薬品工業向けの売上高が前期の144百万円から90百万円となり、2015年12月期をピークに減少が続いていることが響いている。一方、北米向けはプロファイリング受託サービスが大幅伸長したほか、キナーゼタンパク質の販売やセルベースアッセイ受託サービスなども好調に推移した。新興のバイオベンチャーを中心に顧客層が拡大していることや、キナーゼ阻害薬の開発が活発に行われていることが好調の背景となっている。

欧州向けに関してはキナーゼタンパク質の販売が好調に推移したほか、前期からの期ずれ案件が寄与したことも増収要因となっている。また、営業方針を従来の受身的な営業から積極的な営業に切り替えたことも奏効した。その他地域では中国でキナーゼタンパク質の販売が大幅に伸長した。中国でもキナーゼ阻害薬の開発が活発化してきたと見られる。

2018年12月期のトピックスとしては、新たなセルベースアッセイサービスを2018年12月より開始している。発光技術を用いた研究試薬のリーディングカンパニーであるPromega Corporationが保有するNanoBRETTM(ナノブレット)テクノロジーを用いたサービスとなる。ナノブレットテクノロジーは、化合物がターゲットとするキナーゼに対してどのように作用するのか、また、キナーゼの選択性や親和性など各種指標を簡易に測定でき、化合物の評価を効率的に行える技術となる。測定可能なキナーゼは47種類からスタートし、今後増やしていく予定になっている。既に、引き合いも増えてきており2019年12月期以降の売上増が期待される。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

《HN》

 提供:フィスコ

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