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【通貨】ステーブルコインに「パブリック」チェーンは必要か【フィスコ・仮想通貨コラム】


ブロックチェーンの短い歴史を振り返ると、パーミッションレス(誰でも合意形成に参加できる)のブロックチェーンが本当に必要なのかと思うプロジェクトがあふれている。最大のプレーヤーであるビットコインは、確かにパーミッションレスでなければならない。ただし、ほかの多くのプロジェクトは、実際はそうでもないようだ。

例えば、昨年はイーサリアムベースのステーブルコイン(法定通貨などと連動する仮想通貨)が次々に登場した。ステーブルコインの主流だったテザーが発行するUSDTトークン(米ドルと連動するトークン)に変わって、ジェミニとパクソス・トラストカンパニーはそれぞれ米ドルと連動するステーブルコインを発行。

法定通貨に連動するデジタル通貨として初めて、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の承認を受けた。仮想通貨取引所大手のコインベースとサークルも、ステーブルコインの基盤技術を開発するコンソーシアム、CENTRE(センター)を共同設立し、米ドルに連動したコインを発行している。

しかし、これらのステーブルコインをパブリックブロックチェーンで発行することは、本当に最適な方法なのだろうか。パーミッションレスのブロックチェーンが本当に必要なのだろうか。そこで、パブリックブロックチェーンの恩恵を受けているとされるステーブルコインを検証して、より実用的な選択肢を考えてみたい。

(注:この記事では、裏付けとなる準備金を銀行に預託して当局の承認を受けているステーブルコインのみ取り上げる。アルゴリズムが中央銀行のような役割を担うステーブルコインには言及しない。)

「信用」できる理由

2018年に新しく発行されたステーブルコインの主なセールスポイントは、主要な監査会社の監査を定期的に受けていることだ。

これはテザーとの明白な違いでもある。テザーは権威ある機関の正式な監査を受けておらず、彼らの金融手法にまつわる陰謀説が絶えない(ブルームバーグの昨年12月の報道によると、同社の調査の結果、テザー関連の銀行口座で必要な額の準備金が確認されている)。新しいステーブルコインのなかには、宣伝の際にこの違いを強調するものもある。

しかし、監査のお墨付きによってのみステーブルコインが信用(トラスト)を得るなら、一方で、パブリックブロックチェーンの透明性はどのような役割を果たすのだろう。もちろん、パブリックブロックチェーンなら、あるステーブルコインについてトークンがどのくらい存在するかが明確に分かる。ただし、そのデータも、ブロックチェーン上のIOU(I Owe You:借用証書)を裏付けるだけの預託金が銀行口座になければ、そもそも意味を成さない。

これらのステーブルコインが生きるか死ぬかは、明らかに、監査の信用性にかかっている。では、トラストレス(信用できる第三者を仲介する必要がない)のブロックチェーンは、ステーブルコインにどのような価値を与えるのだろうか。

ステーブルコインとパーミッション

暗号化されたデジタル資産は一般に、政治性がなく、特定の管理者の承認がいらない点が重視されるが、これらの特徴は明らかに、規制当局の承認を得たステーブルコインには当てはまらない。最近新しく発行されたステーブルコインの細則には、自分たちが(あるいは規制当局が)望まない行為を防ぐために、不正なサイトなどのブラックリストを作成すると記されている。

テザーが2017年に約3000万ドル分のハッキング被害に遭って対策を講じた際も、台帳が自分たちの管理下にあって、書き換えることもできるという事実が明らかになった。

したがって、ステーブルコインがトラストレスではないと言うだけで、パーミッションレスでもないとは言えない。だからこそ疑問なのだ。ステーブルコインにパブリックブロックチェーンは必要なのだろうか。

「パーミッションレス」の真価は

ブロックストリームが開発したビットコインのサイドチェーンのリキッドや、イーサリアムのパーミッションド(特定の管理者が承認するシステム)チェーンのフォーク(分岐)のように、連邦制で合意を形成するブロックチェーンは、法定通貨に裏付けされたステーブルコインの発行に最も適しているかもしれない。今年1月にはクリプトガレージが、リキッドネットワークを利用して日本円に連動するステーブルコインの実証実験を始めていることを明らかにした。

つまり、法定通貨に裏付けられたステーブルコインは、そもそもトラストレスでもパーミッションレスでもない。したがって、コストをかけてまで分散型のパーミッションレスなブロックチェーンを利用する恩恵は、ほとんどないのだ。

ビットコインやイーサネットのようなパブリックブロックチェーンは、署名者の連邦制管理されているブロックチェーンよりコストがかかる。連邦制のブロックチェーンは、フルノード(すべてのトランザクションを所有して検証するノード)の運営に必要な資源が少なくて済むため、ほぼすべての参加者が過去のイベントを検証できる。

さらに、パーミッションドブロックチェーンは、特定の公証人のグループが管理しながら、過去のトランザクションに関するデータを定期的に破棄している。台帳は彼らの管理下にあるのだ。つまり、パーミッションドチェーンでフルノードの検証に必要な資源は、典型的なパブリックチェーンに比べてはるかに少なくて済む。

このように考えると、ステーブルコインの発行にあたり、2つ以上のノードがある「ブロックチェーン」を使う恩恵はそれほどない。信用は既に確認されており(監査によって供給量の裏付けが保証されている)、発行者はクリック1つでトランザクションを監視できるため、実際にノードを運営する必要があるのは発行者と監査人だけだ。ブロックチェーンを利用してもしなくても、トークンの価値が米ドルやユーロなど法定通貨の預託金によって裏付けられているかぎり、発行者と監査人の信用(トラスト)がなくなることはない。

(記事提供:LongHash)
LongHashは独自のデータ分析を基に、仮想通貨のトレンドやニュース、価格に関する情報を日中英の3ヶ国語で提供するジャーナリズム・プラットフォームです。ブロックチェーンデータの解析や解説を行うLongHash所属のデータサイエンティストやライターを世界中に抱え、分かりやすい記事で配信しています。またLongHashはブロックチェーンハッカソンやミートアップの企画、実施運営のサービスも提供しています。より多くの記事を読みたい方は、LongHashの公式ページからアクセスできます。

《SI》

 提供:フィスコ

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