市場ニュース

戻る
 

【市況】金は米利上げ休止観測で堅調、米中交渉の行方など見極めへ<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行

 金(ゴールド)の現物相場は年末年始に上値を伸ばし、昨年6月15日以来の高値1298.05ドルをつけた。米政府機関の一部閉鎖が昨年12月22日から続いていることや、各国の経済指標悪化による景気減速懸念に加え、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の発言を受けて利上げ休止観測が高まったことが支援要因となった。今年は欧州中央銀行(ECB)の利上げが見込まれており、 ドル安が進むと、金は1300ドルの節目を突破し、上値を伸ばすとみられる。

 一方、1月に入り米中通商協議が本格化し、7~8日の次官級協議で交渉進展の期待が高まった。貿易戦争の激化を回避できれば株高に振れ、金は利食い売り主導で調整局面を迎える可能性が出てくる。当面は期限となる3月1日までの協議で合意に達するかどうかが焦点である。

 他の材料では、トランプ米大統領がメキシコ国境の壁建設費用を要求していることや、英国の欧州連合(EU)離脱の行方、2回目の米朝首脳会談などが焦点である。金の投資需要が増加するようなら支援要因となろう。

●米経済成長は鈍化の見通し

 昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標水準が2.25~2.50%に引き上げられた。また、当局者は今年2回の利上げを予想した。ただ、景気減速懸念や米政府機関の一部閉鎖などを受けて年末にかけて株価が急落すると、トランプ米大統領がパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長やムニューシン米財務長官の解任を検討とも報じられた。

 米株価は好調な年末商戦を受けて下げ一服となったが、中国や欧州の経済指標悪化やアップルショックを受けて年明けに戻りを売られる場面も見られ、先行き懸念が残っている。米アップルは香港や台湾を含む中華圏の減速を指摘し、2018年10月-12月期の売上高予想を下方修正した。

 一方、米FRB議長は年明けのイエレン、バーナンキ両元議長との討論会で、米FRBは忍耐強く臨むとともに、経済の勢いが堅調であっても市場が織り込む下振れリスクに対して敏感であるとの認識を示した。また、将来の利上げやバランスシート縮小を巡って柔軟に対応すると述べると、米FRBの利上げ休止観測が高まり、ドル安・株高となった。米2年国債利回りが実効FF金利の2.4%を下回る場面も見られ、市場でも米FRBの利上げは困難との見方が強まった。ただ、昨年12月の米雇用統計で非農業部門雇用者数が31万2000人増加し、2月以来の大幅増となった。時間当たり賃金は前月比0.4%増と、前月の0.2%増から伸びが加速している。

 CMEフェドウォッチによると、米短期金利先物市場では7日時点で年末のFF金利の誘導目標水準は2.25~2.50%と金利据え置きの確率が71.9%となっている。一方、2.00~2.25%の確率は15.4%、2.50~2.75%は11.0%となっており、景気の行方次第で利下げ・利上げの可能性が残っている。今年は減税効果が薄れることや、米民主党が下院で過半数を奪還したことで「ねじれ議会」となり、大規模な政策は通りにくい。今年の米経済成長は鈍化するとみられており、利上げの可能性は低くなりそうだ。

 米中の次官級通商協議が北京で始まり、中国外務省の報道官は記者団に対して、米中は通商問題で協調することを望んでいると語った。ロス米商務長官は、双方が受け入れ可能な案で妥結することは可能との認識を示した。ただ、知的財産権保護や市場アクセスといった法執行や構造改革に関わる問題の解決は困難だとも指摘している。中国は米国産大豆を追加購入したと取引業者からの情報として伝えられ、中国が譲歩する姿勢を示している。

 昨年12月の中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.7と、1年7カ月ぶりに節目の50を下回った。中国人民銀行は4日、市中銀行の預金準備率を1ポイント引き下げると発表した。景気減速懸念が強まり、刺激策が必要になっており、中国としては2月末までの協議で合意に持ち込みたいところである。また、トランプ米大統領も株安を回避するため、取引をまとめたい方針とみられる。

 ただ、今回合意に達しても米国の追加措置が回避されるだけであり、これまでの措置が解除されるわけではない。米大統領が今月22~25日の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、中国の王岐山国家副主席と会談する可能性が高いと伝えられており、今後の協議の行方を確認したい。

●英EU離脱案の採決や米朝首脳会談の行方にも留意

 メイ英首相は6日、延期していた欧州連合(EU)離脱案の議会採決を14日の週に「必ずやる」と述べた。否決された場合には「英国は未踏の領域に入る」と警告し、離脱案に賛成するよう訴えた。

 対EU強硬派で離脱派のリースモグ議員は、離脱案支持に回ると期待するのは「希望的観測だ」と牽制しており、英議会で否決され、合意なき離脱となる可能性が残っている。イングランド銀行(英中央銀行)は無秩序な離脱に至る場合、英経済は少なくとも第2次世界大戦以降で最悪の不況に陥る恐れがある、と警告しており、否決されれば金に逃避買いが入るとみられる。

 トランプ米大統領は6日、金正恩氏との首脳会談の開催場所について協議しており、そう遠くない将来に発表されるとの見通しを示した。一方、中国国営の新華社は8日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、中国の習近平国家主席の招請で中国を訪問している、と伝えた。金委員長は10日まで訪中する予定だという。昨年6月にシンガポールで開催された米朝首脳会談では、米大統領が安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固とした決意を示した。2回目の会談で北朝鮮の非核化が進むのかどうかを確認したい。

●金ETFに投資資金が流入

 金の内部要因では、ニューヨーク先物市場でファンド筋の買い越しが拡大した。米商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告によると、昨年12月18日時点で大口投機家の取組は7万5960枚買い越しとなった。11月13日の9247枚売り越しから買い戻し・新規買いが入って買い方に転じた。なお、米政府機関の一部閉鎖の影響で12月24日と31日分の発表は遅れている。

 一方、世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は1月7日時点で796.784トンとなり、昨年11月末の761.743トンから増加した。株安に対する懸念や米連邦準備理事会(FRB)の利上げ休止観測を受けて投資資金が流入した。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均