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【市況】S&P500 月例レポート ― 10月は暴落の月? (1) ―


S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2018年10月
●2011年9月以降で最悪のパフォーマンス

 S&P 500指数と世界株価指数が高値からやや下落したと書けば穏便なようですが、S&P 500指数の時価総額が1兆6530億ドル(現在の時価総額は22兆9260億ドル)、世界株価指数で4兆4480億ドル(現在51兆2980億ドル)が失われたとあっては、やや下落よりも深刻に感じられるはずです。代替案として「空(sky)が落ちてきた」との表現が見られたほか(これは、Comcast(CMCSA)に388億ドルで買収された英国放送局のSky PLCの株式のことではありません。なお、この買収では320億ドルの資金調達が行われ、その一部の金利はLIBORに連動するものです)、缶詰の方が良い投資になりそうだとの見方さえありました。

 後から考えても急落の原因はまだ分かっていませんが、私を含めて誰もが意見と見方を持っています。トランプ大統領は米連邦準備理事会(FRB)の利上げを「クレージーだ」と非難し、債券自警団は低水準の金利は続くものの金利は底打ちした(つまり債券価格の方向性は下方のみ)としています。エコノミストは、経済は軌道に乗っており、緩やかな金利上昇と成長率の鈍化に対応できるので、投資家心理と売買動向の問題だと述べ、ストラテジストは貿易問題(中国)と地政学的な変化(移民制限や民族主義的な右傾化の動き)を指摘しました。移民や中間選挙を引き合いに出して「我々対彼ら」という見方が市場のボラティリティ(および下落)を引き起こしているとの意見が一部にあったように、政治も大きな要因となりました。

 しかし、バーに集うトレーダーたち(いつもより人数が少ないようでした)は、それが市場というものだと言い(誰も買いに入らなかったことが数回あった後)、幾つかのファンダメンタルズ要因を引き合いに出したので長口上になりました(バーではよくある現象です)。それらを列挙すると、(i)長期的な強気相場(2019年3月には10年になる可能性があります)にはクールダウンの期間が必要だったこと、(ii)業績発表前で自社株買いが止まっていたこと(業績発表期間中は自社株買いを許可しない規制のためなので、上向きの買い圧力とともにすぐに戻ってきそうです)、(iii)中国との貿易問題が主要な注目材料となり、今や中国の問題は貿易だけではなくなっていること、(iv)株価が最も上昇していたハイテク株(特に一部のソーシャルメディア銘柄の問題やトップのオンライン小売業者は言うまでもありません)の業績ガイダンス、 そして(v)最も影響力があった企業利益そのもの、でした。

 これらを織り込んだ結果は(ウォール街の見解によると)大規模な売りでした(出来高全体は2018年9月から38%増、2017年10月から22%増)。買い手は時々現れましたが(底値買い)、彼らの懐は浅く、売りの波が来ると買い手が引っ込んだため(底値買いしたいと思っても、売り一巡後のより低い価格でする方が最善)、すぐに大きな売り圧力に押されました。

 その結果はボラティリティの上昇で、23営業日中の10営業日で前日比最低1%の動きがありました(上昇が5日、下落が5日)。これだけの動きはそれ以前の3カ月間には見られませんでした。3%超の下落も2回ありましたが、これだけ下落したのは、市場が調整局面入りした2018年2月以来でした(歴史的にS&P 500指数が前日比で3%超下落した320回のうち、50%が10月でした)。

 10月のS&P 500指数は6.94%の大幅な下落となり、10月としては2008年10月(-16.94%)以降で最悪で、単月としても2011年9月の(-7.18%)以降で最悪のパフォーマンスを記録しました。

 上述のように、ウォール街で問題とされた主な点は企業利益と業績ガイダンスのように見えました。利益という名前のグラスは間違いなく溢れており、全体の68.3%の企業が決算発表を終えた時点で、76.0%の企業が市場予想を上回る利益を発表し、59.7%が市場予想を上回る売上高を発表しました。しかし、利益と売上高が過去最高を更新する可能性があるとされていたことを考えると「グラスいっぱいに入っていた」とは言えず、かつグラスの中のワインの質も1982年のLafite(私の最高の投資の一つで、購入し、保管し、売却したものの、飲んだものは僅かでした)には全く及ばないものでした。

 具体的に言えば、営業利益が前年同期比で大幅増益になった理由の大部分は減税効果によるものでした。これは第1四半期と第2四半期の業績発表時でも同様で、原材料価格の上昇や現時点では米ドル高の影響に対するコスト抑制から得られた部分が利益に貢献していることが引き続き指摘され、基調的な内部成長が遅れていることも指摘されています。

 第3四半期の全体の水準が過去最高に向かっているにもかかわらず、売上高成長率(および売り上げガイダンス)もまだら模様となりました。業績ガイダンスの質に対する懸念として、コスト、貿易、および特定の個人消費(ハイテク企業の売上高が主な注目点)に関して慎重な見方が出てきたことが挙げられます(ただし、依然として少数派です)。

 重要なポイントは、市場は第3四半期決算に多くのことを期待し、それも大部分が今後の見通しに関するものだったため、過去最高の決算が発表されても市場に失望感が広がることになりました。(成長率の鈍化という)この現実は株式市場を揺るがし(多くの市場参加者がそれを予想していたとしても)、異なる分析や見方が投資家のポジション(とポートフォリオの再配分)に浸透していきました。

 それに対する即時の結果はボラティリティの上昇であり、売買時点でのいくらかの不均衡(直近は買い注文よりも売り注文の方が多く、以前のハイテク株に対する熱狂的な買いとは対照的です)につながって株価の乱高下を引き起こしました。短期的には、より多くの材料(企業利益、売上高、特定の予測、貿易など)を織り込むことから、市場はこうした状況を経る必要がありそうです。背景にある懸念は、「専門家は不透明感に対応できる」(業界における私の40年以上の経験からすると、私がその見方に同意するとは思えません)一方で、(自営業の退職勘定、401(k)、持株会を通じて株式を保有する)個人投資家は対応できず、代わりの銘柄を買うことのない現金化の動きが一層の下落を引き起こし、下落が自己実現する状況に陥ることかもしれません。

●「嘘には3種類ある。普通の嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ」(マーク・トウェイン)

 株式市場は10月に大幅に値を下げ、10月の下方ボラティリティの「呪い」(1896年以降、1日に3%以上下落した営業日の16.3%は10月でした)と1987年10月のブラックマンデー(および1929年10月の大暴落)の記憶がよみがえりました。景気減速懸念の再浮上(米国や中国など多くの国で経済は依然として成長していますが、ペースは落ちています)、原材料および労働コストの上昇懸念(複数の大手企業が備えを示しました)、依然として解決しない貿易問題(中国)、原油価格(需要を上回る供給)といったさまざまな問題が市場を不安にさせ、移民問題は現時点では株式市場というよりも、欧州の政治や政策に影響を及ぼしています(ただし米国でも、11月6日の中間選挙が近づくにつれて懸念は高まっています)。

 ○2018年10月31日現在:

 ○米国市場は10月に7.50%下落、年初来では0.91%上昇
  ・時価総額は10月に2兆2,060億ドル減、年初来では550億ドル減

 ○米国以外の市場は10月に8.48%下落、年初来では13.28%下落
  ・時価総額は10月に2兆2,820億ドル減、年初来では3兆4,360億ドル減

 ○出来高は、消極的な取引だった9月と比べると38%増、前年同月比では22%増となりました。ボラティリティは上昇し、1%以上変動した日数は過去3カ月間にわたってゼロが続いていましたが、10月は23営業日中10日でした(上昇5日、下落5日)。

 ○68.3%の企業が第3四半期の決算発表を終えた時点で、76.0%の企業で利益が予想を上回り、59.7%の企業で売上高が予想を上回りました。
  ・しかし、市場ではさらなる上振れが期待されており、利益と売上高が過去最高を更新するペースで推移しているにもかかわらず、内部成長の欠如が懸念されて売りにつながりました。

 ○世論に影響を及ぼすとみられる政府関連のイベントが注目されましたが、市場に影響が及ぶことはありませんでした。
  ・公共の場で発生した数件の銃撃事件がヘイトクライムによるものだと判明したことで、政治をめぐる論争がヒートアップしました。
  ・11月6日の中間選挙投票日を目前に控え、移民キャラバンが米国に向けてメキシコ国内を北上していることを受け、移民をめぐる政策や諸問題が摩擦を引き起こしました。
  ・国家的な優先課題や政策が経済問題より重要視され、中国との貿易摩擦が悪化しました。

 ○連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、成長鈍化の兆候が見られたことで経済に対する見方がややトーンダウンし、一方でトランプ大統領は利上げをめぐってFRBやパウエル議長を痛烈に批判しました。

 ○44.3%の企業が第3四半期の自社株買いの結果を公表した時点で、自社株買い額は、過去最高を更新した第2四半期からわずかに(-0.3%)減少しましたが、前年同期比では16.6%増となりました。最終的に第3四半期の自社株買いが過去最高を更新しなくても、自社株買いは極めて活発な水準にあると言えます。
  ・発行済株式数を発表している企業(65%)のデータに基づくと、発行済株式数は前年同期比での減少が加速し、4%以上のEPS押し上げにつながった銘柄の割合が増加しました(2018年第3四半期は現時点で19.6%、2017年第3四半期は全体の14.2%)。

 ○General Electricの減配と減損の影響:220億ドルの減損を計上したことでS&P500指数のGAAPベースのEPSは37.54ドルから35.08ドルへ2.46ドル減少し(営業利益への影響はなし)、減配によって配当利回りは2.056%から2.039%へ0.017%ポイント低下しました。

 過去の実績を見ると、10月は57.8%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は4.17%、下落した月の平均下落率は4.66%、全体の平均騰落率は0.49%の上昇となっています。11月は60.0%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.93%、下落した月の平均下落率は4.25%、全体の平均騰落率は0.70%の上昇となっています。

 今後のFOMCのスケジュールは、年内は11月7日-8日、12月18日-19日、2019年は1月29日-30日、3月19日-20日、4月30日-5月1日、6月18日-19日、7月30日-31日、9月17日-18日、10月29日-30日、12月10日-11日、2020年は1月28日-29日となっています。

※「10月は暴落の月? (2) 」へ続く

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