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【市況】トルコリラ売りは夏休みで一服【フィスコ・コラム】


本格的な夏休みシーズンに入り、トルコでは海外からの渡航者の流入増に期待が高まっています。史上最安値圏での推移が観光には追い風となるため、極端なリラの下落は回避されるでしょう。しかし、観光シーズンが終わったら・・・。

トルコ政府が7月31日に発表した6月の訪問者数は前年比で3割増となったほか、4-6月期の観光収入は70億ドルと、前期の45億ドルを大きく上回りました。また、6月のトルコ国内のホテルの客室稼働率も、記録的な高水準に達しているもようで、エルドアン政権の観光政策が奏功しているといえます。7-9月期は観光客が年間を通じて最も多く訪れるシーズンでもあり、リラ買い需要が見込まれています。

今年はトロイアが世界遺産に登録されてからちょうど20年で、政府は「トロイの2018年」と位置づけ、展示施設を新設。また、人類最古の神殿とされるギョベクリ・テペも、今年新たに登録された世界遺産として注目されそうです。トルコには、洞窟の家で知られるカッパドキアをはじめとした世界有数の古代遺跡があり、そうした観光資源がリラ安を追い風に世界各国から観光客を引きつけています。

ただ、史上最安値圏で推移するリラの先安観に変わりはありません。アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)が好調な経済を背景に利上げ継続の方針を示しており、ドルは新興国通貨に対し強含んでいます。一方、トルコは2ケタ台の記録的なインフレであるにもかかわらず、エルドアン政権が中銀に利下げ圧力をかけているため、経済の先行きへの懸念からトルコ国債の格付けは引き下げられ、リラには下押し圧力が続きます。

さらに悪いことに、2016年のクーデター未遂事件に関与した疑いでトルコの自宅で軟禁されているアメリカ人福音派牧師の解放をめぐり、アメリカとトルコの対立は深刻化しています。アメリカは、トルコの法相と内相のアメリカ国内の資産を凍結する経済制裁に踏み切りました。エルドアン大統領は報復を宣言していますが、アメリカとの関係悪化によるトルコ経済の影響に懸念が強まりそうです。

エルドアン政権の観光開発は景気の拡大に寄与していますが、シーズンが終わればリラ買い需要は弱まり、年末に向けリラ安加速が見込まれます。リラ安はエネルギーの輸入や外資に頼る企業の利払い負担を増すため、経済を圧迫する要因になります。それに歯止めがかからなくなれば企業の大型倒産、金融市場の混乱につながり、最終的にデフォルトに至るシナリオにも備える必要があるでしょう。

もっとも、「リラはどこまで下げるか」といった市場の観測をまとめたレポートは何年も前から存在しています。5年前のアメリカの大手証券による予想では、リラは対ドルで近々2.5リラに下げるとされていましたが、足元の相場は5.0リラが目前です。この5年間で通貨価値は半分に減価しているのに持ちこたえられているのは、ポテンシャルが高いことを示しています。トルコ経済の破たんは、早くても秋以降となりそうです。

(吉池 威)

《SK》

 提供:フィスコ

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