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【特集】三井化学 Research Memo(6):歯科材料は事業構造改革の終了で反転攻勢へ

三井化学 <日足> 「株探」多機能チャートより

■中長期成長戦略と進捗状況

3. ヘルスケアの成長戦略と進捗状況
(1) ヘルスケアの長期目標と成長戦略
ヘルスケアでは2026年3月期の営業利益目標を450億円(他にヘルスケア領域の新事業からの利益)としている。ヘルスケアは3つの事業ドメインそれぞれの事業モデルが異なるが、需要が成長を続けていること、三井化学<4183>の技術的優位性を発揮できること、高シェアを握っていること、などの共通点がある。これら同社の特長・強みと、需要に応じた適切な能力増強及び新製品開発の実行によって、2026年3月期目標の達成を目指す方針だ。

(2) 最近の進捗状況と今後の見通し
a) 歯科材料事業
前述のように、2018年3月期において、2014年3月期に実施した歯科材料事業を担うKulzerの買収にかかるのれん代等の無形資産について減損処理を行った。これによってKulzerの負の側面はほぼ解消され、あとは攻めるだけという状況となった。Kulzerは歯科材料全般を手掛けるが、この業界ではデジタル化という大きな潮流がある。デジタル化とは義歯などの歯科技工物の製作において歯科技工士による手作業から3Dプリンタ等デジタル機器による作製への転換の動きを言う。またデジタル化というなかにおいても、大型デジタル機器から小型デジタル機器へという潮流がある。Kulzerは小型デジタル化という点で出遅れていたが、追い上げ体制が整いつつある。

歯科技工物のデジタル製作プロセスは、データ取得、データ設計、作製の3つのステップをたどる。このうちデータ取得とデータ設計については、3Dスキャナやソフトウェアの開発が完了している。2018年3月期は作製段階において、小型3Dプリンタの開発に注力してきた。これについてKulzerは米国の3DプリンタメーカーのB9Cと機器の共同開発を行っているが、そのスピードアップと関係強化を狙って同社がB9Cの株式を30.74%取得した(2018年4月)。また同社は、3Dプリンタ用レジンインクと1,000超のレシピを開発済みだ。これらの結果、材料、機器、デンタル分野での知見がすべてそろい、今後はデジタルワークフローのトータルソリューション展開を加速させる考えだ。

b) 不織布事業
同社はプレミアム紙おむつ市場向けに高機能不織布を展開している。直近の動きとしては、名古屋工場に15,000トン/年の設備を新設したほか、四日市工場ではギャザー部分に使用される柔軟伸縮不織布の能力を6,000トン/年増強した(いずれも2019年3月期稼働)。これらの結果、グローバル生産能力は約20%増加し、足元では115,000トン/年に達している。

同社はまた、中空糸を使用した軽量・柔軟・高強度の不織布エアリファRの量産体制確立に注力している。国内では2017年5月までに量産体制を確立し、市場投入をスタートした。エアリファRも需要家立地での展開を計画しており、今後はタイと中国での量産体制の確立を急ぐ方針だ。

c) ビジョンケア材料
同社はプラスチックメガネレンズモノマーで世界シェア45%を握るトップ企業だ。この市場は年率4%で安定成長が続いている。直近の進捗では、ワンタッチで遠近を瞬時に切り替えられる次世代アイウエアTouch FocusTMを2018年2月に販売開始したことが挙げられる。Touch FocusTMは、フレームのタッチセンサーで液晶レンズを作動させ、遠近の切り替えを行うものだ。メーカー希望小売価格は1本25万円(税別)で、7店舗で販売がスタートした。2019年3月期までに販売拠点を100店舗に拡大することを目標としている。中期的には2023年3月期において、年間5万本の販売を目指すとしている。


世界的農薬大手企業との提携が相次ぎ決定
4. フード&パッケージングの成長戦略と進捗状況
(1) フード&パッケージングの長期目標と成長戦略
フード&パッケージングでは2026年3月期の営業利益目標を400億円(ほかにフード&パッケージング領域の新事業からの利益)としている。フード&パッケージングのうちコーティング・機能材や機能性フィルム・シートは、同社が強みを持つイソシアネート・チェーンから生み出されるコーティング材や接着剤の製品・技術と、同様に強みを持つ高機能ポリオレフィン樹脂及びそのフィルム化技術から成り立つ。

コーティング・機能材は原材料として販売されるため、用途・需要先が非常に幅広い。マーケットインと呼ばれる顧客の製品開発段階から入り込む形で市場を開拓し、安定成長を目指す方針だ。

機能性フィルム・シートは包装用と産業用の2つに大別できる。包装用では、生活水準向上や食品加工業の発展に伴い、アジアでの需要拡大が見込まれている。同社は生産・マーケティング・サポートの各拠点をアジア各地に設けて成長機会の着実な取り込みに努めている。

(2) 最近の進捗状況と今後の見通し
a) 農薬事業
2018年3月期に最も顕著な進捗があったのは、農薬事業だ。同社は次世代の収益成長を担うと期待される新規5原体をパイプラインとして保有しており、そのうち最初の殺菌剤をトルプロカルブとして2016年に上市し、また、水稲用除草剤のシクロピリモレートの登録申請を行った。2018年3月期中には、殺虫剤ブロフラニリドについてドイツ・BASFと長期商業化契約を締結し、殺菌剤キノフメリンについてはドイツ・バイエルとグローバルライセンス契約を締結した。BASFとバイエルはともに世界4大農薬メーカーの一角を占めるワールドメジャー企業であり、これらに対して同社の農薬原体を導出できたことの意義は極めて大きいと弊社では考えている。

農薬については販売面でもグローバル展開を見据えて、世界各地の現地パートナー企業との提携などを進めている。これまでに、ブラジル、ベトナム、タイ、インド、ベルギーの現地企業に出資してきたが、2017年8月にはインドネシアのPT Agriculture Construction(Agricon)の株式を30%取得した。Agriconとは2009年の殺菌剤フルスルファミドの上市以来、販売面で良い関係を築いており、今後の展開を見据えて一段踏み込んだ形だ。

こうしたグローバル展開の結果として、同社は2023年3月期の農薬売上高を1,000億円に引き上げ、国内外の売上比率を50:50とする計画だ。足元の状況(2017年3月期実績では売上高は約450億円で、大部分が国内売上)から大きく様変わりすることになる。このようなダイナミックな変化が想定される同業他社は現状では見当たらない。

b) イクロステープTM(機能性フィルム・シート事業)
イクロステープTMは産業向けの代表的製品であり、半導体製造工程で使用されている。現状は名古屋工場に2ラインを有するが、需要拡大を受け、台湾の高雄に新工場を建設することを決定している。380万平方メートル/年(ただし銘柄構成で能力は変動する)の能力を有する1ラインが2019年9月に稼働する予定だ。台湾新工場が稼働すれば供給能力は現行の1.5倍となり、年6%以上のペースで拡大を続ける需要に対して十分対応できることになる。これまでの進捗としては、2017年11月に台湾工場のための新会社が設立された後、2018年5月に起工式が挙行されて建設がスタートしたところだ。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)

《NB》

 提供:フィスコ

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