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【市況】近くて遠い国民投票前の水準【フィスコ・コラム】


欧州連合(EU)離脱を決めたイギリスの国民投票から、あと3カ月で2年が経ちます。ポンド・ドルは今年に入り投票前の水準に接近していましたが、ここへきて失速。引き締め観測は高まっても、離脱交渉の「出口」が見えないとポンド買いは進めにくいでしょう。

ポンド・ドルの日足のチャートを眺めてみると、左端の2016年6月に1.5010ドル付近から長い縦線を見つけることができます。国民投票の結果判明に伴う急落です。さらにズルズルと値を下げ、2017年1月に最安値1.1989ドルまで下落。そこから緩やかに上昇に向かい、テロ事件や総選挙での保守党の過半数割れなどで押し下げられても、その都度持ち直し、今年1月に19カ月ぶりに1.40ドル台を回復しました。


振り返ってみると、ポンド回復の原動力は、英中銀の強気な経済見通しや引き締め方針ではなかったでしょうか。例えば、昨年9月の金融政策委員会(MPC)ではインフレの上昇で利上げが示唆され、ポンドは1.36ドル台に大きく値を切り上げます。同11月に英中銀は10年ぶりに利上げに踏み切りました。その間、メイ首相は保守党内の権力争いでよろめき、2019年3月29日の離脱日確定にこぎ着けるのが精一杯でした。


ポンドにとってEU離脱問題と金融政策は、例えるならクルマの両輪です。2018年に入ってからのポンドは、まさにそういう値動きでした。EU離脱交渉の懸念が弱まったほか、消費者物価指数(CPI)の前年比3%台での高止まりを背景に2月8日のMPC後、カーニー総裁が追加利上げに前向きな見解を示します。市場には5月引き締め観測が広がり、そのタイミングで国民投票前の水準への回復とのシナリオが想定されました。


しかし、2月から3月にかけてのチャートの形は、「伸び悩み」となっています。1月に1.4344ドルまで回復した後は、1.40ドルを挟んで上下200ポイントの値幅でもみあいました。3月に入って1.37ドル台まで下げた要因は、やはりEU離脱問題でした。コービン労働党党首によるソフト・ブレグジットの主張で政局リスクが高まったことや、北アイルランド(英領)と本国との国境の問題がポンド売りに逆戻りさせています。


特に、EU加盟国のアイルランドと離脱するイギリスの領土内である北アイルランドに国境を設けるかどうかの「ハードボーダー」は、急所です。EUが2月28日に英国に対して提示した離脱協定草案によると、イギリス離脱後も領土内の北アイルランドは本土とは別に関税同盟にとどまる可能性が示されています。アイルランド側は、陸続きである北アイルランド(イギリス)との間に境に物理的な国境を望んでいません。


アイルランドのベイリーズやギネスなどの酒造大手は、国境が設けられれば製造過程で越境する必要があり、その都度関税の問題が発生するでしょう。そして何よりも、1990年代に収束したとみられていた北アイルランド問題の再燃が警戒されます。そうした懸念をはらんだイギリスのEU離脱問題が本当に解決に向かうのか、まだまだ見極める必要がありそうです。ポンドの本格的な上昇はそれからではないかとみています。

《SK》

 提供:フィスコ

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