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【特集】カナミックN Research Memo(3):東大との共同研究で誕生した“柏モデル”の情報共有プラットフォームが強み


■事業概要

1. 事業環境
日本の人口ピラミッドにおいて2025年は大きな節目の年であり、“2025年問題”とまで言われる。団塊の世代が75歳を超え、2014年に1,592万人だった75歳以上人口は、2025年に2,179万人に達する。統計では75歳以上になると、要介護認定を受ける人の比率は23.3%に上り、65歳以上75歳未満の3%から大きく跳ね上がる。このような変化を反映して、国の社会保障費の中の介護費は2014年に10兆円であったものが、2025年には20兆円になることが推計されている。介護事業所も約35万事業所(2014年)から約70万事業所(2025年)に、在宅医療を行う医療機関も約1.5万(2014年)から約2.2万(2025年)にそれぞれ増えることが予想されている。カナミックネットワーク<3939>の提供するシステムのユーザーは医療・介護従事者であり、その人数も今後大きく増加することが想定される。

地域包括ケアは厚生労働省が提唱・推進する施策であり、2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組みの構築を目指すものである。「在宅医療・介護連携」の取り組みの主体は市区町村であり、介護保険法の中で制度化されており、2018年4月にはすべての市区町村で取り組みが開始される。厚生労働省では、「医療・介護等の分野の生産性革命(介護ロボット等の活用推進、ICTを活用したペーパーレス化による文書量の半減)」を重点項目としており、同社のサービスにとっては追い風となっている。

2. クラウドサービス:概要
同社のカナミッククラウドサービスの主要なモジュールは「情報共有プラットフォーム」と「介護業務管理システム」の2つである。

「情報共有プラットフォーム」の導入対象顧客は自治体、医師会、中核病院、在宅医などであり、中学校区を目安とする地域全体で導入される。システム画面は患者ごとに作成されており、患者のプロファイル(基本情報やケアプランなど)や日々のデータ(バイタル情報、食事、水分、排泄、薬剤情報、ケア実施状況など)が統合的に管理される。このページには患者を担当している関係者のみが入ることができ、クローズド型のSNS機能を持つ。1人の患者に関連する様々な主体(主治医、在宅主治医、ケアマネジャー、ヘルパー、地域包括支援センター、家族、薬剤師、訪問看護師)が連携する重要な情報インフラとなっている。

「介護業務管理システム」は、「情報共有プラットフォーム」と連携したシステムであり、介護に関わる法人や事業所(地域包括支援センター、ケアマネジャー、介護サービス事業者)が導入する。クラウドの特性を生かし、スマートフォンやタブレット端末で操作が行えるため、介護の現場で利用することができ、介護現場のペーパーレス化や業務の効率化が可能になり、多職種連携の課題である二重入力等の負担軽減も特長である。サービスラインの1つである「在宅介護サービス管理システム」では、訪問介護計画書、介護記録、モニタリング、シフト管理、介護保険請求、給与管理、債権管理など業務が一気通貫でシステム化されている。他社ソフトが注力するのが個別業務(帳票作成、レセプト管理)などであるのに対して、同社システムは営業管理(SFA)から勤怠・給与管理、経営分析までカバー範囲が広く、経営の見える化に主眼が置かれている。

3. クラウドサービス:ビジネスモデル
同社のカナミッククラウドサービスは、大きく2つの階層に分かれ、1階層目が「介護業務管理システム」、2階層目が「情報共有プラットフォーム」となっており、段層間で相互に連携して地域内での医療・介護連携を支援している。基本戦略としては、無料で2階層目が「情報共有プラットフォーム」を使って連携の有効性を体験してもらい、1階層目の「介護業務管理システム」に誘導するという、いわゆる“フリーミアム※”ビジネスモデルである。2011年には、特許「介護支援システム及び介護支援プログラム(特許番号4658225号)」を取得しており、この仕組みの独創性は折り紙付きだ。

※基本的なサービスや製品は無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能については料金を課金する仕組み。


また、クラウドサービスの特徴は、売上が積み上がるストック型ビジネスモデルである点である。初期の開発投資は大きいが、ユーザーが増えて損益分岐点以上の売上に達すると高い利益率を享受できる。リピート率が高く、ユーザーごとのカスタマイズが少ないためである。同社は既に損益分岐点を超えており、強固な収益構造を持っている。

4. クラウドサービス:主要経営指標
同社のクラウドサービスは急速に普及している。情報共有システム導入地域は2017年9月期末で616地域(前期末比66.5%増)となった。また、クラウドサービスのユーザーID数は、有料・無料を合わせて70,867(前期末比37.8%増)となり、特に無料ユーザーの伸びが大きい。結果として、クラウドサービス売上高は、2017年9月期通期で1,110百万円(前期比18.5%増)と順調に成長している。

5. クラウドサービス:強みと競合
他社がまねできない同社ならではの強みは、同社の医療介護連携クラウドサービスが東京大学高齢社会総合研究機構との共同研究により開発され、千葉県柏市の地域包括ケアで実証されたモデル(柏モデル)の中で磨かれてきたという点である。柏モデルは、行政が中心となって、多職種(医師、看護師、介護事業者など)と連携し、在宅医療を推進した先進事例である。2017年5月には「認知症初期集中支援」での利用が開始され、新たに用途が広がった。厚生労働省も成功事例として紹介しており、他地域からの視察が絶えない。

「地域での情報共有システム」の分野では同社は草分けであり、圧倒的なシェアNo.1である。一方「介護向け業務システム」では競合が多数おり、エヌ・デーソフトウェア<3794>などがシェアでリードする。同社としては、クラウドサービスであることや情報共有プラットフォームを持つこと、業務システムのカバー範囲が広く経営の見える化ができること等で差別化したい考えだ。

6. コンテンツサービスの概要
インターネット広告市場は2016年に1兆3,100億円に達し、前年比13.0%で成長している。同社のコンテンツサービスは医療・介護専門職向けに特化したインターネット広告配信サービスである(患者やその家族も利用可能)。出稿する企業にとっては、対象が明確であるために効果が見えやすく、地域も絞りやすい。インターネット広告のほか、ユーザー会参加、Webアンケート、サンプル試供品配布などのサービスメニューもある。メディアとしての価値は広告を視聴するクラウドサービスのユーザーID数(無料ユーザー+有料ユーザー)に比例する。ユーザーID数は70,867(前期比37.8%増)と増加しており、これに伴って出稿社数およびインプレッション(広告掲載回数)も増加している。コンテンツサービス売上高は、2017年9月期で57百万円(前期比26.1%増)と売上規模は小さいが伸びは大きい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田 秀夫)

《TN》

 提供:フィスコ

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