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【市況】【フィスコ・コラム】ロヒンギャ泥沼化で通貨急落に懸念


ミャンマー政府による少数派イスラム教徒ロヒンギャの取り扱いが、国際社会の批判にさらされています。2011年の民主化を背景に高成長を遂げる同国経済に影響する可能性もあり、管理通貨として緩やかな下落基調のチャットの値動きにも警戒が必要でしょう。


国連が9月にまとめた報告書によると、仏教徒が過半数を占めるミャンマーで、正式な民族として認められていないロヒンギャが、これまで1000人超殺害された可能性が指摘されています。それに対し、ミャンマー政府は、ロヒンギャの過激派による警察署襲撃を受け、テロ掃討作戦を実行しているだけと主張。事実上の指導者であるアウンサンスーチー氏はこれまでのところ沈黙を続けており、同氏にかつて授与されたノーベル平和賞の取り消しを求める署名活動が勢いを増してきました。


現地はメディア関係者も足を踏み入れられない状況で、確かな実態は把握しきれていませんが、大量虐殺やレイプ、焼き討ちなどが横行しているもようです。その一部は動画サイト「ユーチューブ」などで世界中に拡散されています。一方、直近の報道によると、イスラム系国際武装組織アルカイダも参戦するとみられ、ミャンマー国内でのテロ行為などが懸念されます。イギリスの統治時代から続く宗教間の対立はより激しさを増す見通しで、成長著しいミャンマー経済への影響も避けられないでしょう。


ミャンマーは半世紀にわたる軍事政権を経て2011年3月以降に民主化が始まりました。2015年11月に行われた総選挙で、アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟 (NLD) が圧勝し、2016年3月にティン・チョー政権が発足します。民主化を進めたスーチー氏は憲法の規定で大統領ポストには就けないものの、国家顧問兼外相として実質政権を掌握。ミャンマーは民主化プロセスにより「アジア最後のフロンティア」として注目され、日本をはじめ主要国の企業が進出し、足元の経済成長率は年間7-8%にのぼります。


それに伴い通貨チャットは2012年4月から管理フロート制に移行し、緩やかな下落トレンドが続いています。当初は1ドル=820チャット付近で推移していましたが、輸入の拡大に伴う外貨需要の増大などによりチャット安が進み、2016年にかけて1300チャット台まで下落。4年半あまりで6割程度減価したことになりますが、消費者物価に占める輸入品の割合が小さいため、現時点でインフレなどへの影響は限定的のようです。今年は1300-1400チャットのレンジで安定的な値動きとなっています。


豊富な天然資源に恵まれ、ガス田開発に関わる直接投資やガス輸出の拡大はチャット高要因です。管理フロート制の下、製造業の輸出が本格化するまではチャット安の継続が見込まれますが、経常収支や財政収支の赤字拡大がインフレ急伸やチャットの急落を招く可能性もあります。ミャンマー経済の発展は民主化を背景とした政治や社会の安定化が前提でしたが、ロヒンギャ問題の泥沼化で近隣諸国との関係が悪化すれば、輸出入の均衡が崩れてしまうでしょう。

(吉池 威)

《MT》

 提供:フィスコ
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