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【市況】【フィスコ・コラム】金正男氏暗殺事件でマレーシアリンギはどうなる?


北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏暗殺の現場となったマレーシアで、次期総選挙が前倒し実施されるとの観測が浮上しています。汚職疑惑に直面するナジブ政権がこの事件への対応で支持を強め選挙を乗り切ることができれば、通貨リンギの売り要因となっている政治情勢の不透明感を和らげられる可能性もありますが・・・。


金正男氏の暗殺事件には、関係する複数の国々の思惑が絡み合っています。マレーシアと北朝鮮は長年にわたり友好関係を構築してきましたが、両国は事件の取り扱いをめぐり関係が悪化しています。他方、マレーシアは安全保障では米国、経済では中国とそれぞれ結びつきが強いことでも知られています。北朝鮮の核開発監視を大義名分に韓国での高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の配備を正当化しようとする米国、北朝鮮からの石炭の輸入停止を決めた「お目付け役」中国との狭間で、日本と韓国は北朝鮮の現体制に憎悪を募らせている状況です。


マレーシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中では特に貿易依存度が高く、リンギ安をテコに対中輸出を伸ばしてきました。ただ、ここ数年の中国経済の失速により、マレーシアの外需優先政策は転換を求められています。2016年10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前年比+4.5%と前期から改善したものの、2016年通年では+4.2%と2年連続で低下しました。昨年11月の米大統領選以降、外国人投資家の国債売却や通貨当局による為替取引規制などから通貨安に振れており、リンギは6%近くも下げるアジア最弱通貨となっています。通貨安は原油輸出にはプラスに働く反面、企業のコスト高につながっています。

一方、主要株価指数のクアラルンプール総合指数は年初から5%上昇と堅調に推移しています。2018年までに実施予定の総選挙が前倒しされるとの思惑から、ナジブ政権が株価への寄与度が高い政府系企業に有利な政策を打ち出すとの期待が高まっているためです。ナジブ首相には、政府系ファンド1MDBから個人名義の銀行口座に約7億ドルが振り込まれとされる汚職疑惑があります。昨年8月には首相退陣を求める大規模デモに発展した際には内閣改造で反対勢力を追い出し、政府に批判的なメディアを弾圧する行動に出ましたが、総選挙によってを疑惑を一掃したいとの思いがあるようです。


そうしたなかで2月13日に金正男氏の暗殺事件が発生しました。北朝鮮大使が、マレーシアが韓国など敵対勢力と結んで北朝鮮を窮地に追いやっていると主張したのに対し、ナジブ首相は「断固とした態度を維持する」と述べています。こうした姿勢は政権の求心力を高める効果があります。北朝鮮との貿易関係は微々たる規模のため、国交を断絶しても経済への影響はほとんどありません。政権の支持基盤を強固にして国際社会の信頼を得た方が国債の売却に歯止めがかかり、リンギの下支えにもなります。


ところが、暗殺事件の容疑者として拘束されている北朝鮮国籍の男は証拠不十分として近く釈放される見通しで、マレーシア側は事件に詳しいとみられる北朝鮮関係者を1人も起訴できないかもしれません。何らかの圧力で事件が迷宮入りとなれば、ナジブ政権への不信感は増幅され、市場からの信認はますます低下するでしょう。


(吉池 威)

《MT》

 提供:フィスコ

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