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【市況】【フィスコ・コラム】:「天下り」の日銀総裁人事を考える


来年の今ごろは、日銀総裁人事をめぐり報道各社の空中戦が繰り広げられていることでしょう。黒田東彦総裁は消費者物価指数(CPI)の2%上昇目標という公約の達成が困難で、再任の理由は見当たりません。後任は、またしても官僚OBとなるのでしょうか。


文部科学省が組織的に元幹部に大学などの再就職先をあっせんしていた、「天下り」問題は、次期日銀総裁人事にも影響を及ぼすのではないかと推測します。日銀は1969年以降、「たすき掛け」人事により日銀出身者と大蔵・財務省を退官した元幹部が交互に総裁を務めてきた経緯があり、霞ヶ関の天下り先と位置づけられていました。その後、98年の法改正で中銀の独立性の観点からこうした人事慣行をやめ、速水優、福井俊彦、白川方明と3氏の日銀出身者が続きました。


ところが、霞ヶ関は天下り先確保のため巻き返しに出ます。福井氏の任期満了に伴う2008年の人事では元大蔵次官で日銀副総裁も歴任した武藤敏郎氏が国会同意人事にかけられました。その人事は、当時参院で多数派だった民主党(現民進党)を中心とする野党の反対により否決。武藤氏見送り後に提示された元大蔵次官の田波耕治氏も同様に否決され、白川氏が就任しました。その後、2012年末に政権を奪還した自民・公明連立政権下の人事で白川氏の後任候補は武藤氏と元財務官の黒田氏に絞られ、最終的に黒田氏が選出されました。


天下りの是非をめぐり「有能な人材活用の観点からも、官僚OBの就職先が制限される方が問題だ」との意見が必ず聞かれます。確かに、大蔵・財務省で積み上げた貴重な見識を日銀総裁として生かすことを「天下り」と呼んでいいのかといった議論もあります。少なくとも日銀総裁は、業務に関する見識や経験が乏しいにも関わらず、霞ヶ関とのパイプ役というだけで、2年程度の勤務期間なのに多額の退職金を手にする渡り鳥のようなポストとは異なるでしょう。


しかし、政権サイドからの要望を受け入れ大規模な金融緩和を続ける現在の日銀は、政府の下部組織に成り下がっているようにしかみえないのも事実です。現総裁はデフレ脱却が使命だったはずですが、就任時の「公約」だった2%の物価上昇目標も2018年4月8日の退任まで達成困難な状況です。次期総裁人事に向け現時点で有力視される候補者の1人も霞ヶ関出身ですが、「見識ある」人材の活用で実績をアピールできないまま官僚OBが2代続くことになるのか、大いに注目されます。


「天下り」は人事レースに敗れた官僚へのセーフティネットや受け入れ側のメリットなどが絡み合って連綿と続く極めて日本的な人事慣行であり、霞ヶ関最大の既得権益としてもっと批判されてしかるべきです。ただ、20年ほど前のある省庁では、記者クラブで定年を迎える記者に、その省庁の天下り先をあっせんしていたことがありました。現在でもそれが続いているかはわかりませんが、メディアが天下り先のおこぼれをちょうだいするようでは、霞ヶ関支配の日本を変えることなど不可能です。

(吉池 威)

《MT》

 提供:フィスコ

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