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【市況】【フィスコ・コラム】やっぱり買えない南アフリカランド


南アフリカ通貨ランドは、対ドルで下方圧力がかかりやすいなか、昨年以降の上値抵抗レベル付近でもみあいが続いています。ズマ大統領の後継選びをめぐり政局が流動化した場合には格下げの可能性もあり、最大与党のアフリカ民族会議(ANC)の党首選までは目が離せません。


ランドは昨年夏以降、上値抵抗レベルと意識される1ドル=13ランド付近で推移しており、目先はランド高とランド安のどちらに振れるかを見極める展開です。そうしたなか、2月9日の南アフリカ議会で、ズマ大統領の演説中にやじを飛ばした野党の急進左派「経済的解放の闘士(EFF)」の議員25人を警備員が格闘の末に取り押さえ、強制的に退場させる騒ぎが問題になりました。政治の混乱が経済の命取りになりかねない南ア発のニュースに、身構える投資家もいたのではないでしょうか。


南アの政治情勢が不安視されるのは、1994年から20年以上にわたり政権与党として君臨する与党ANCの信頼が揺らいでいることにあります。アパルトヘイトを経験した世代から今なお圧倒的な支持があるとはいえ、経済の低迷を背景に最近は陰りも見えます。ANC党首のズマ大統領は、自宅改修に多額の公費を流用した疑惑で野党から厳しく追及されており、有権者の間で早期退陣を求める声が強まっています。


EFFは、ANCで青年同盟のリーダーを務めたジュリアス・マレマ氏が2012年に除名された後に結党しました。反資本主義を掲げ、腐敗や汚職に批判的な黒人の若年層を中心に急速に支持を広げ、野党勢力としては民主同盟に次ぐ第3党に躍進するなど、このところ注目を集めています。なお、隣国ジンバブエが南アの弱体化を狙ってEFFを支援しているとの説もありますが、真偽は不明です。


いずれにしても、ANCの影響力は低下しつつあり、選挙結果にその傾向が反映されています。アパルトヘイト解放後に生まれた世代が初めて参加した2014年5月の総選挙では、ANCは400議席のうち249議席を獲得したものの、前回から15議席減らしています。一方、EEFは25議席を獲得し野党の一角を占めるようになりました。翌2016年8月に行われた地方選挙でも、政党別の得票率はANCが54%(前回62%)、民主同盟が27%(同24%)で、初の地方選に臨んだEFFは8%となりました。


今後の政治日程をみると、今年12月に行われるANCの党首選が最大のヤマ場でしょう。これは2019年の次期総選挙で任期満了となるズマ大統領の事実上の後継選びで、現在はズマ氏の元妻ドラミニ・ズマ氏が最有力候補とされています。しかし、与党内では勢力争いが激化。ランドにとっては最大の懸念要因となっているのです。


昨年10月の国際通貨基金(IMF)による南アの経済成長見通しは2017年が+0.8%と、南ア政府の見込みである+1.7%には遠く及びません。南アの場合、通貨安が必ずしもGDP成長率に寄与しておらず、アフリカ諸国のなかで成長率はナイジェリアとエジプトに追い抜かれました。また、雇用情勢も改善が進まず、失業率は慢性的に20%台で高止まりしています。この先、政治的混乱が広がれば、高利回りで外国人に人気の南ア国債の「投資不適格級」への格下げは避けられないとみられます。

(吉池 威)

《MT》

 提供:フィスコ

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