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【経済】米国の製造業はトランプの過保護主義で逆に衰退する可能性も


トランプ氏の大統領選挙における過激な主張はいわばポーズで、大統領になればかなりトーンダウンするだろうという楽観論に反して、同氏は大統領就任後も大統領令を乱発するなど、過激な主張を実行するアピールを続けている。トランプ氏は「良い大統領になる」という甘い見方は完全に否定されたといってよいだろう。
 日本にとって重要な通商政策については、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は即座に永遠に離脱する大統領令が出された。日米貿易についても、不公平な貿易関係にあると名指しされたうえ、場合によっては20%を超える関税をかけるとも示唆されている。
 しかし、トランプ氏が何をもって不公平としているのかが未だに定かではない。特に挙げられたのは「自動車」の分野であるが、米国から日本に輸出する際の関税は0%なのに対して、日本から米国に輸出する際には関税がかかっている。日本における輸入車の販売は欧州勢を中心に絶好調といってよい状況である。
 また、日本の自動車メーカーは米国での現地生産を進めており、トヨタなどは米国で販売する台数の約三分の二を現地で生産している。米国内の自動車産業で最も雇用を生み出している「外国」は日本である。
 トランプ氏の主張は多分に事実を踏まえていないと思われるが、とにかく自国のメーカーを保護して、外国のメーカーの競争力を削ぐ政策を推進する意向のようだ。
 しかし、そのような一時的な過保護によって保護しても、長期的には米国メーカーの競争力を損なう可能性がある。
 各自動車メーカーはグローバルなマーケットにおいて、それぞれの市場に合わせた創意工夫により競争力を伸ばしているのであり、そのような努力を怠った企業はあっという間に置いていかれるのが時代の流れである。また、メキシコなどのコストの低い工場での生産を封じられた米国メーカーが、人件費等コストの高い米国で生産する車の原価は上昇し、価格競争力を失う可能性がある。
 この人件費の高騰によるコストアップを避けようとすると、米国メーカーはロボット化等を進めざるを得なくなる。そうなると、トランプ氏の望む製造業での雇用創出も結局は短期間で終わるということになりかねない。
 そもそも、米国は既に完全雇用に近いとも言われ、製造業にこだわって雇用を創出することにどれほどの意味があるのだろうか。
 事実誤認に基づくトランプ氏の過保護主義は新しい米国の長期ビジョンにはなりえないうえ、米国の製造業を本当の衰退の端緒になるかもしれない。
《YU》

 提供:フィスコ

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