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2016年11月29日13時35分

【市況】武者陵司 「トランプノミクスは日本株を強力に押し上げる」<後編>

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

<前編>から続く

【4】過剰貯蓄を成長に転換するトランプノミクス

●トランプノミクスの論理的正当性

 トランプ氏のプロビジネス、プロ成長の政策が適切で、それゆえに株価上昇に結び付くと考えられるのは、それが世界的貯蓄余剰に対して最も有効な処方箋と考えられるからである。かねてから当社は、現在の米国経済・世界経済の根本問題は、企業の空前の超過利潤が有効に実体経済に還流せず、資本余剰として滞留していることにある、と主張してきた。この余剰資本を活用する手段として、トランプ氏の財政による需要創造策、規制緩和による投資喚起策は的を射ていると考えられる。

 ここ数年間、世界的な高利潤率の一方、利子率が歴史的水準まで低下して、本来同じはずの資本のリターンが利潤率と利子率に分かれて二極分化していることが、問題とされてきた。この企業の高利潤と空前の金利低下という普通ではない現実は、企業が新産業革命による生産性向上により、著しい超過利潤を獲得していることに根本の原因があると考えられる。

 つまり、企業は大儲けしている。しかし、儲かったお金を再投資できなくて遊ばせ、金利が下がっている。先進国で顕著になっている金利低下は資本の「slack(余剰)」が存在していることを示唆している。また雇用の停滞(失業率高止まり、低労働参加率、弱賃金上昇力)は、労働余剰「slack」の存在を示している。

 なぜ「slack(余剰)」が問題になるほど増加してきたのか。その原因は企業における労働と資本の生産性の顕著な上昇にあると考えられる。IT、スマートフォン、クラウドコンピューティングなどの新産業革命は、グローバリゼーションを巻き込み、空前の生産性向上をもたらし、労働投入、資本投入の必要量を著しく低下させているのである。

 この資本余剰を放置すれば格差拡大をもたらし、社会不安を高める。さらには資本の退蔵・死蔵は資本主義の死を意味する。つまり、状況変更に対する政策のコミットメントがなければ、資本主義は崩壊してしまうかもしれないのである。

 そこで余剰資本を政策の力で実体経済に還流させ、成長加速により利子率が上昇するというシナリオが必要とされるのである。これができれば明るい将来展望が描かれる。資本を還流させる政策オプションとしては、

1) 財政政策⇒ケインズ政策/民間投資を喚起する制度変更
2) 金融政策⇒株高による時価ベースの利潤率(益回り)の引き下げ、自社株買いはその橋渡し
3) 所得政策(社会政策) ⇒賃上げ、労働分配率低下と消費増、ベーシックインカムなどの社会的所得配分も。

の3つが考えられる。これらの政策イニシアティブにより、新産業革命の成果が成長と人々の生活の向上に結び付き、経済成長率が高められる。この中でトランプ氏の選択は1) であった。2) は米国では十分に活用され既にその役割を終えつつある。これに対して3) の選択肢からのトランプ批判があげられている。その典型例は「21世紀の資本」のベストセラー経済学者トマ・ピケティ氏であろう。

 トマ・ピケティ氏は、トランプ政策を所得減税により富裕層が優遇され、企業減税による財政ダンピングや環境基準の緩和(環境ダンピング)により自国本位化が進み、規制緩和による企業を優遇するものだ、等と全面的批判を展開している。ピケティ氏は米国の経済格差・地域格差を是正する規制強化と所得再配分(富裕者増税と社会政策支出)が必要だとするサンダース氏に同調している(11月23日朝日新聞・11月13・14日ルモンド紙掲載の抄訳)。

 確かに企業課税強化、富裕者課税強化により余剰貯蓄を政府が吸収し、弱者などに再配分するという政策も余剰資本の活用という点でポジティブであるには違いないが、それでアニマルスピリットが喚起され投資が活発化し、成長が高まり、金利上昇と株高に結び付くかというと疑問である。

そもそもピケティ氏の議論は

「r(資本のリターン)>g(経済成長率)」

という一つの不等式のみにフォーカスし、それは所得配分、税制によって是正されるべきだという立場にこだわってきた。そして、成長率への働きかけに関してはほとんど関心を示してこなかった。

 しかし、当社は、現実は二つの不等式が共存している状態

「r1 (利潤率)>g(成長率) >r2 (利子率)」

であり、利子率の低さ=余剰貯蓄の存在とは、現在需要の先送りが起きているわけだから、余剰資本を活用すれば成長率が高まり、それが格差や貧困対策にも結び付くと考えてきた。トランプ当選後の株式市場の好反応を見ると、財政による需要創造により大きなメリットがあることがうかがえる。

【5】トランプ政権登場の必然性、歴史的意義はあるのか

●変革が必要であった、(1)世界秩序、(2)富の還流、が行き詰っていた

 トランプ氏がレーガン氏のように歴史的大統領になるのかならないのか、判断はあまりにも時期尚早ではある。しかし、全くのアウトサイダーであったトランプ氏を登場せしめた必然性があるとすれば、トランプ氏が歴史的指導者として大化けする可能性を秘めている、と言える。

 トランプ大統領当選後の、メディアや市場の反応には戸惑いがある。確かに彼の主張は矛盾と欺瞞に満ち、大衆の怒りをたきつけそれに依拠する典型的ポピュリスト、とみなされても仕方がない面はある。

 しかし、彼を支持した有権者の大半がポピュリスト的主張を支持したとは考えられない。最も民主主義の鍛錬を積んだ米国有権者がトランプ氏に託した期待とは何か、を想像することが大切である。株式市場がこれほどまでに肯定的に反応している以上、そこには明白な合理性があるはずである。トランプ氏の訴えが有権者の琴線に触れたことを、認めなくてはならない。

 その第一は、世界秩序の衰弱(米国から見れば無法の闊歩)であろう。不法移民もイスラムに対する過激発言も、有権者は世界の無法を容認しない意志ととらえたのではないか。とすれば、答えは米国覇権と世界秩序の再構築であり、軍事力増強が必要となるが、それは孤立主義とは対極のモノである。トランプ氏が「Peace through strength」というレーガンのアジェンダを繰り返して述べていることはそれを示していると考えられる。

 新たなならず者国家の台頭、テロの多発、新大陸サイバー(=サイバー空間)での覇権と安全保障確保、などに対する対処が必要である。そして、経済ファンダメンタルズは米国の国防力増強、覇権強化を十分に可能にする強さがある。

 第二は、企業の儲けが広範な雇用や生活水準の向上につながらない経済の目詰まり、グローバリゼーションの繁栄から取り残されている地方経済とスキルの低い労働者への共感である。保護主義や孤立主義的発言は低スキル労働者の窮状を放置しないというメッセージとしてとらえられた。それはプロ成長政策によって解決できる。

 地域経済、低スキル雇用の底上げが最重要な政策課題と認識され、この二つの課題にヒラリー・クリントン氏とトランプ氏のどちらが解決能力を持っているかが問われ、米国有権者はトランプ氏と判断したのではないか。またリーマン・ショック以降金融規制が強化され、新規ビジネス開業が大きく落ち込んでいることも、経済の目詰まりと見られる。

 上下両院を制した共和党の伝統的政策との折り合いをつけつつ、大胆な政策が打ち出されようとしている。トランプ氏がどう考えても実現不可能なポピュリスト的主張(保護主義、孤立主義、排外主義)を修正していけば、それはレーガン流保守革命の第二弾と言うほどの変化をもたらす可能性もある。

 トランプ氏の本音主義、過剰なコンプラ批判、建前理想主義批判は潜在的に人々が求めているものだったのかもしれない。

●良好な日米関係が想定される、円高圧力はもう起きない

 そうしたトランプ氏の傾向は、安倍首相との親和性がある。安倍=トランプ関係は、ロン(レーガン)=ヤス(中曽根)関係に似る可能性がある。世界の首脳の中で安倍首相が最初にトランプ氏と会見したことはそれをうかがわせる。日米関係はむしろ好転していくのではないか。

 日本の新安保法制の策定や、対米思いやり予算(駐留経費の75%負担率は世界最高)をトランプ氏は必ず評価しよう。また外貨準備のすべてを米国国債で運用している日本の協力的運用姿勢(中国との大きなコントラスト)をトランプ氏が知れば評価するだろう。日本経済のプレゼンスの上昇は、(1)日米で補完分業体制が確立していること、(2)中国のオーバープレゼンスの抑止、の観点から歓迎されるだろう。

 円高誘導はもう起きない。日本にとってアンフェアな為替操作国モニター制度は修正されるかもしれない。

【6】トランプノミクスは日本株式キャッチアップラリーの推進力に

 就任直後のトランプ大統領は2018年中間選挙、2020年次期選挙を睨み、国内でかなりのリフレ政策を展開するだろう。議会での共和党多数確保はより政策の自由度を高める。2017年は米国成長率加速が予想される。海外に利益を留保している多国籍企業の国内所得還流促進は、減税・インフラ投資の原資となるだけではなく、ドル高要因でもある。米国経済加速とFRB利上げ(12月プラス2017年年央の公算)により、米株高、米金利上昇とドル高トレンドが顕在化しよう。

 日本でもアベノミクスの第二弾による財政金融総動員のリフレ政策が本格化、労働需給・不動産需給改善による賃上げ、家賃上昇に加え、円安と原油価格の下落一巡により、物価上昇率が高まる。実質金利の低下は、国内のリスク資産投資を大きく鼓舞するだろう。

 2012年11月の日経平均8,600円から2015年8月の2万0,860円への2.4倍上昇がアベノミクス相場第一弾であったが、今1万6,000円を起点とした第二弾のアベノミクス相場が始まった可能性は濃厚である。その場合、中期2020年ごろにかけて日経平均は3万~4万円に達するスケールになる可能性もある。市場心理のインディケーターでありピンポイントでボトムを指示する裁定買い残(対東証一部時価総額)比率は10月、0.1と史上最低まで落ちこんでいた、ということは事後の株式リバウンドは壮大なものになる可能性が大きいと考えられるのである。

(2016年11月28日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン172号」を転載)

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