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【市況】【フィスコ・コラム】ノーベル賞受賞通貨コロンビアペソの行方は?


2016年のノーベル文学賞には米シンガーソングライターのボブ・ディランが選ばれ、12月10日の授賞式に本人が姿を現すのか話題になっています。一方、コロンビアのファン・マヌエル・サントス大統領の平和賞受賞は半世紀以上にわたる内戦合意への努力が認められました。こちらはあまり目立ちませんが、今後の平和活動推進に期待を込めた、ノーベル賞の典型例となる選出でしょう。


ノーベル平和賞の対象となったのは、1960年代に始まる左翼ゲリラ組織「コロンビア革命軍」(FARC)と政府との内戦の終結に向けたサントス大統領の和平への取り組みです。内戦では20万人以上が犠牲になり、政治家や治安機関幹部、企業関係者らの拉致や誘拐で今も数万人が行方不明のままです。FARCは麻薬栽培や密売への関与によって得た巨額の資金で高性能の武器を調達し、一時は政府軍をしのぐ武力を誇ったとされます。内戦は、1940年代後半のゲリラ組織結成の「ラ・ビオレンシア」(暴力)時代を起源とする説もあります。


サントス大統領は2012年以降、キューバやノルウェーの仲介により政府とFARCとの和平交渉を進め、農業改革のほか内戦の責任や被害者補償など複数の議題で合意に達し、今年9月のFARCによる和平協定の承認を受け内戦終結を宣言しました。こうした長年にわたる内戦問題の解決は、同国経済の安定化につながると期待されます。外務省が提供する安全情報によれば、コロンビア国内には依然として「不要不急の渡航はやめてください」「渡航はやめてください(渡航中止勧告)」の地域が多くあります。ノーベル賞受賞は治安改善による渡航者の増加、さらにいえば投資の観点からペソ買い要因として重要な意味を持つのではないでしょうか。


コロンビアペソは独自通貨単位として1810年に導入されて以来、一度もデノミを経験していませんが、慢性的なインフレ圧力にさらされています。最近では、2014年から2016年はじめにかけて1ドル=1800ペソから一時3400ペソまで下落しました。コロンビアは輸出品目のほぼ半分が原油で、資源安の影響をまともに受けます。ただ、9月28日に開催された石油輸出国機構(OPEC)非公式会合での産油国による増産凍結を受け、供給過剰に対する過度の警戒は後退。また、米早期利上げ観測が広がらないため、足元では2900ペソ台まで値を戻しています。


ただしこの内戦については、実はまだ解決していません。2016年10月2日に行われた停戦合意に関わる国民投票で合意は僅差で否決されました。ウリベ前大統領ら停戦合意反対派が主張するように、FARCメンバーが人質の拉致や殺人への責任を問われずに議席を得る疑念も根強く残されていたからです。それでもサントス大統領がノーベル賞を受賞できたのは、受賞後の影響を狙った選定委員会のメッセージだと理解できます。ノルウェー外交の国際社会へのアピールであることを割り引いても、今後この問題が完全に解決されることになれば意義深い選出と言えるでしょう。

(吉池 威)

《MT》

 提供:フィスコ

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