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【特集】スターティア Research Memo(4):デジタルマーケティング関連事業とITインフラ関連事業への2事業体制へ移行

スターティア <日足> 「株探」多機能チャートより

■持続的成長への取り組みの進捗状況

(3)デジタルマーケティング関連事業

デジタルマーケティング関連事業の商材はグループ会社のスターティアラボ(株)が自社開発したソフトウェアだ。電子ブック作成ツール「ActiBook」やARコンテンツ作成ツール「ActiBook AR COCOAR」(略称:COCOAR)などがある。これらのソフトウェアに共通するのは、主としてクリエイティブ企業(広告代理店や印刷会社)向けの、業務をIT化し、顧客獲得を支援するためのソフトウェアということだ。クリエイティブ企業にとっては一般企業が顧客となるが、クリエイティブ企業とその顧客の一般企業の双方に、より有用なIT機能を提供することでそれぞれのビジネスを獲得するのをサポートする、マーケティング支援ソフトウェアということだ。

これまでは、スターティア<3393>はこれらのソフトウェアを個別に、パッケージ販売(売り切り)もしくはクラウドサービス(月次課金)の形で販売してきた。両者の構成比としては、パッケージ販売が中心とみられる。しかし、2016年3月期決算の中で明らかになったことは、同社のメインの顧客層だった “アーリーアダプター層”(新商品・サービスなどを早期に受け入れる層)には販売が一巡した一方、次の顧客層と期待されるマジョリティ層は、導入に慎重な姿勢を見せているところが多いということだ。今回の組織体制、営業戦略の変更の主眼は、このマジョリティ層に対する対応強化ということにある。

今回同社が採用した具体的な施策には大きく2つのポイントがある。1つは商材自体の工夫であり、同社は複数のソフトウェアを定額で利用できる統合型クラウドサービス「Cloud Circus」をローンチした。導入企業側からすれば、個々のパッケージソフト購入に比べて非常に安価で複数のソフトウェアを利用できる点でメリットがある。特に利用度合いが軽い一般企業にとっては、Cloud Circusはお得感は強いと言える。クリエイティブ企業に対してもCloud Circusを提供するが、使用量が多いクリエイティブ企業は、パッケージソフトの買い切りのほうがお得感が強くなる。従来型のパッケージ販売に新商品のCloud Circusが加わったことで、ユーザー企業は自社の利用頻度合いに応じた最適な選択が可能になった。

もう1つは販売方法における施策であり、同社は新たにパートナーシップ制度を導入した。導入に踏み切れないでいるマジョリティ層のクリエイティブ企業をパートナーとし、パートナーとともに彼らの顧客層に当たる一般企業を一緒に開拓する販売戦略だ。マジョリティ層は、実体的な収入がない状態で先行投資的にソフトウェアを導入することを嫌がるケースが多い。そこで同社はクリエイティブ企業の見込み客とパートナーシップを組み、一般企業に同社の各種マーケティングツールを導入してもらうという作戦だ。

2017年3月期第1四半期の進捗状況は、計画に対しては若干遅れているものと弊社では推測している。パートナー営業(パートナーシップ制度)を軌道に乗せるには、自社の体制作りだけでは不十分で、潜在顧客であるクリエイティブ企業への浸透も必要だ。4月、5月頃はこうした点で立ち上がりに時間がかかり、収益に結びつけられなかったのではないかと思われる。同社は6月から回復の兆しが見えたとしているが、同社がイメージするような形で新営業体制が稼働するのは第2四半期以降になると弊社ではみている。

第1四半期のこうした遅れは、同社にとって想定の範囲内に収まっているとみられる。前述のように、デジタルマーケティング関連事業の遅れをITインフラ関連事業が十分にカバーできているからだ。パートナー営業についてはPDCAサイクルの“D(do)”を実行中という状況であり、“C(check)”を行うためには、まだまだDの積み重ねが必要という状況だ。

弊社では、同社が今回採用したCloud Circusのローンチとパートナー営業の導入はともに、同社が目指す方向性に論理的に合致しており、今後の成果が期待できる施策だと考えている。課題としては、同社の営業担当者に求められるスキルセットや意識が従来から変更を求められる点にあるのではないかとみており、その場合には、従業員研修や人員の適切な再配置などに関して時間と費用を要することになる。同社の今期の四半期業績計画には、こうした初期の立ち上がり投資の要素も反映されており、第2四半期以降の進捗を注視したいと考えている。

(4) ITインフラ関連事業

ITインフラ関連事業は旧ネットワークソリューション事業と旧ビジネスソリューション事業が合体したものであるが、ITインフラ関連事業への移行は、非常に合理的で有効な施策だと弊社では考えている。元来、ネットワークソリューション事業の商品・サービスと、ビジネスソリューション事業のそれとを合わせると、まさにシステムインテグレーター(SI事業者)の領域をカバーしていたからだ。

ITサービス提供企業としての同社が最も強化したいのは、中規模事業所を対象として、老朽化したインフラサーバーの入れ替えやネットワーク環境の高速化、クラウド環境への全面移行、AWS(Amazon Web Service)上でのネットワーク構築と保守・運用などのより付加価値の高いシステムインテグレーションサービスの提供だ。このビジネスモデルを進める上では、組織の変革とともに、営業担当者に求められるスキルセットや意識の在り方においても大きな変化が求められる。

これについての同社の施策は、組織体制おいては、商材別の縦割り組織から各商材にまたがった横断的な組織への移行であり、また営業担当者レベルにおいては、商品の“販売者”からシステム構築の“請負者”への意識変革だ。

組織面での変更を詳しく見ると、従来は商材のスペシャリストを育成・配置する「商材専任制」の営業組織形態だった。しかしSI事業を進める上では、顧客ごとの担当者を固定する「顧客専任制」に変更されることになる。顧客ごとのアカウントマネジャーを設置することで、顧客側はあらゆる事項についてアカウントマネジャーを窓口としてワンストップサービスを受けられる、というイメージだ。同社の潜在顧客層は自社でIT専任担当者を置く余裕のない中小企業であり、同社の価値は、“IT担当者の外注化”の実現にある。それゆえ、顧客専任制への移行はごく自然な流れと言える。

2017年3月期第1四半期の実績を見ると、ITインフラ関連事業は、デジタルマーケティング関連事業に比較して、新体制の移行が順調に進んでいるように見える。従来、商品専任制を採用していた同社であるが、一方で、クロスセル(重ね売り)の推進を重要な営業戦略と位置付けていたため、個々の営業担当者の商品知識が多商材に及んでおり、顧客専任制への移行のハードルが低かったことが理由の1つと考えられる。また、ITインフラ関連事業においては、各商材の連関性が強いものが多いという点も有利に働いていると考えられる。今第1四半期に大きく伸長した商材にスターティア光がある。これを突破口に、トータルコスト削減という観点からビジネスホンとMFPの販売、そしてネットワークセキュリティサービスの契約へというクロスセルの流れが確立できつつあるように弊社では考えている。

ITインフラ関連事業のもう1つの重要な点は、この事業の商材・サービスにはストック型収入モデルのものが多く、顧客の囲い込みも十分できていることだ。このことは、業績に安定性をもたらし、新しいことにチャレンジするだけの余裕を持たせるというプラス面と、リスクを取りたくないという守旧的な気持ちを生じさせるというマイナス面の2つがあると弊社では考えていたが、第1四半期を見る限りは、プラス面がより強く働いたように見える。第1四半期実績だけでは評価・検証には不十分というのはITインフラ関連事業も同じであり、今後も推移を見守りたいと考えている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)

《HN》

 提供:フィスコ

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