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【特集】三城HD Research Memo(5):新しいコンセプトの店舗の取り組みや大型店を増やし、若者を取り込む

三城HD <日足> 「株探」多機能チャートより

■中期経営計画

三城ホールディングス<7455>は持株会社(グループ)としては正式には中期経営計画等を発表していないが、主要子会社である三城については2019年3月期に売上高47,603百万円、営業利益1,403百万円を目標とした中期経営計画を掲げている。その内容は、今後3年間で新しいコンセプトの店舗や都心の大型店を増やし、今まで獲得できていなかった若者を中心とした新規顧客を取り込み業績の回復を図るものだ。

(1)過去の総括

既述のように国内のメガネ市場における現在の同社のシェアは10%弱で第2位となっているが、2000年代初頭には2ケタ以上のシェアを維持して断然のトップであった。しかしその後シェアは徐々に低下し、それに伴い業績も2002年3月期の売上高83,976百万円、営業利益15,533百万円をピークに低下が続いている。特にここ7年間ではZoffや眼鏡市場などの低価格店や単一価格店などの競合に押され、店舗の縮小が続き営業利益は損失すれすれにまで落ち込んでいる。

同社はこのように業績が大きく低迷した要因として以下※のような点を挙げている。

※以下はすべて主要子会社である三城に関するもので海外子会社等は含まれない。

a)優良既存顧客への過度の依存
既述のように歴史のある同社のブランド力は高く、多くの優良顧客に認知されていた。これらの顧客の多くは固定客とも言えるリピータであり同社にとっては重要顧客であったが、一方でこれらの既存顧客への依存度が高かったため、新規顧客の獲得意識がやや疎かであり消極的であったと言える。そのため顧客層の世代交代が進むに連れて客離れが起きたと考えられる。

b)顧客ニーズの変化への対応遅れ
一般ファッションと同様、メガネ市場においても顧客のニーズは変化していたが、これに十分に対応しきれていなかった。つまり、顧客が求める商品やサービスが十分提供できていなかったのだ。結果として客離れ、売上高の減少を招いた。

c)変革への躊躇
上記のような市場や顧客ニーズの変化を同社もかなり以前から察知はしていたが、実際には過去の成功事例が障害となり既存商品や店舗形態、販売方法などを変えることができなかった。頭ではわかっていても、なかなか変革に踏み切れなかったのである。

しかし、経営陣もさすがにこのままの状態では凋落の一途をたどる可能性があると考え、今期(2017年3月期)からは下記のような大胆な変革を進めることを決意し実行に移っている。

(2)新社長の就任と新しい店舗コンセプト

同社は2016年2月に主要子会社である三城の代表取締役社長交代及び持株会社役員の異動を発表した。三城の新社長に就任した澤田将広(さわだまさひろ)氏は、赤字に苦しんでいた豪州の子会社を立て直し、国内では渋谷店などを赤字から短期間に黒字化させた実績を持っている。新社長が今後の方向性として取り上げたのが、1)若年層へのアピール、2)大都市好立地店舗の出店、3)郊外店の再生である。

澤田社長は、国内眼鏡事業の再生に当たっては「店舗のあり方を革新的に変える!」をメインテーマとして掲げ、a)音楽・ファッション、b)パリのベルエポック、c)サロンの3つを重要な要素と位置付けている。具体的には、これら3つをテーマにした店舗業態を積極的に改装・新店に投入していくというもの。「音楽・ファッション」は若年層顧客の獲得を、「ベルエポック」は新しい同社のブランディングを、「サロン」は郊外店の再生を各々担うことになる。

a)音楽とファッション:エンターテイメント型店舗
コンセプトは「Music」であり、代表的な店舗である渋谷店(2012年6月改装)は若年層に訴求する格好の良さを追求、1950年代の仏パリにおけるアメリカを切り口に店装の色調も赤と黒をベースに、ヴィンテージギターやドラムセットを店内や外装にディスプレイするなど、一見メガネ店には見えない点が特徴。若年層のみならず既存のシニア層の顧客も引き留めることに成功し、業績は改装前は同社内店舗で下から1ケタ順位であったが、改装後は同社トップ店舗にまで一気に上り詰めた。同系統の店舗として、心斎橋本店、原宿店、博多マルイ店がある。

このようなエンターテイメント型店舗の最大の狙いは「入店客を増やす」ことである。同社の場合、過去のデータを見る限り、入店した顧客が商品を買う「買上げ率」は比較的高いものの、店前を通る客が入店する「入店率」が低かった。このようなエンターテイメント系店舗では入店率が高まっており、売上増につながっている。

b)パリのベルエポック型店舗
コンセプトは古き良き時代のパリ「Belle Epoque」。ベルエポックは、1800年代後半から1900年代前半の仏パリの古き良き時代、ムーラン・ルージュがにぎわい、バレエ・リュスがスキャンダルを起こしつつある時代をイメージした店舗。吉祥寺店(2014年8月)が改装第1号。その後も出店や改装が続き2016年3月期末には同様店舗が24店舗まで拡大した。

吉祥寺店では、改装後1週間で入店客数が倍増するなど立ち上がりも鋭く、1年以上を経た時点でも売上高は10%増を継続し、若年層の拡大がみられるようだ。また、店舗は吉祥寺店のように黄色系の店舗だけではなく、パリのパサージュ通りをイメージした店舗など色々なバリエーションが存在する。一貫しているのは、誘客効果をもたらしかつBelle Epoqueの世界観であり、一見してパリミキと認知してもらえるため、この形態の店舗により新たなブランディングの構築を目指している。今後の出店の主流となる店舗だ。

c)サロン
コンセプトは「コミュニティサロン」。地域の方々が毎日来たくなる店、安心してくつろげる空間づくりをテーマとして信頼・絆づくりを大切にし、年配の方々やその家族が困った時に相談できる場所となるような店舗を目指している。ハイレベル商品とサービスを発信する都市型ビルイン店舗と主に郊外お城型の安心できる店舗の2タイプがある。

新コンセプト店舗は当然だがすべての店舗で当てはまるわけではなく、立地によるのは事実だ。幸い音楽・ファッション型店舗は同社が弱かった大都市圏での立地に適していると考えられ、同社では音楽・ファッション店舗を今後3年間で30店舗程度、ベルエポック店舗は約230店舗を目標にしている。さらに郊外店・地域密着型店舗はサロン型店舗として業績改善を図る計画だ。音楽・ファッション型店舗はオーストラリアでもテスト展開しており、その結果によっては海外でも新コンセプト店舗の出店・改装を加速する可能性もある。

(3)定量的目標

上記のような新コンセプト店舗を含めて、今後3年間の出店(ネット)は、2017年3月期がゼロ(出店20、退店20)、2018年3月期+20(出店40、退店20)、2019年3月期+20(出店40、退店20)を計画しており、2019年3月期末の店舗数は862店を計画している。

また国内眼鏡事業の業績※は、2019年3月期に売上高47,603百万円(2016年3月期比11.9%増)、営業利益1,403百万円(同128.1%増)を計画している。決して容易な目標ではないが、今までの概念を打ち破った新コンセプトの店舗を計画どおり出店できれば不可能ではないだろう。同社が真に「変革」できるか、今後の動向は大いに注目される。

※短信の開示数値とは異なる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)

《HN》

 提供:フィスコ

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